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コンビ結成丸2年、ドンデコルテが直面する焦燥とハングリーな渇望

11月6日(土)、11月7日(日)の2日間に渡って、神保町よしもと漫才劇場にて開催された『Jimbochoグランプリ』にて、総合1位となったドンデコルテ(小橋共作/渡辺博基)。2019年の『M-1グランプリ』への挑戦を機にコンビ結成。インタビュー中も、その話題を終始するほどストイックにネタへ向き合っている2人。組んでから丸2年を経て焦りを感じているという賞レース、来年1月に開催する初単独、そして来年の展望について詳しく聞きました。


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『Jimbochoグランプリ』はスーパー銭湯!?

――1位おめでとうございます。結果発表後、渡辺さんは「芸歴8年目以下の劇場ですよね? ごめんなさい」と謝っていましたね。

渡辺博基(以下、渡辺):本当にすみません!っていう申し訳ない気持ちがちょっとあったというか。“優勝させていただきます。でも、すみません!”っていう気持ちでしたね。

小橋共作(以下、小橋):僕も以前はナベさんと同じように申し訳ない気持ちを持っていたはずなんです。芸歴で1番上の8年目でありながら、先輩というめっちゃ強い武器を(相方として)持ってきてるわけですからね。けど(今の状況に)慣れすぎたこともあって、1位はシンプルに嬉しかったです。

――2カ月に一度のバトルライブとなったことによって、ネタ作りに何かしらの変化はありましたか?

小橋:毎日戦いまくるより、2ヵ月に1回のバトルライブに勝負ネタを持っていくほうが集中できますし、楽しいですよね。

渡辺:気持ちも落ちにくいというか、ちょうどいい刺激になってます。言うなら、スーパー銭湯に行くようなものですね。

小橋:え、どういうこと?

渡辺:風呂が気持ちいいってわかっていても、入るのはめんどくさいじゃん?

小橋:それは人によると思う。

渡辺:(無視して)めんどくさいけど、いざ入ったら気持ちいいでしょ。スーパー銭湯は、風呂以上に気持ちいいもんなんだよ。


――小橋さんが目をパチパチさせてますが。

小橋:全然わからない。スーパー銭湯に行きたいなぁって思ったこともないし。

渡辺:共感していただなくても大丈夫! 私の思いというだけなのでね。


――(笑)。日々のネタライブへの取り組み方も変わりましたか?

渡辺:よりナマモノ感が強くなったというか。バトルライブってネタの良し悪しを比べるものなので、例えば自分たちの前に出ていたコンビに何があってもイジるとずるい感じがするから触りにくかったんです。けど、今はそういうものも全部、回収できるのでライブ自体が寄席っぽい感じになって、漫才師としてより鍛えられてるなという実感があります。それもスーパー銭湯みたいなもので。

小橋:……わかりにくいなぁ。

渡辺:(笑)。どこまでスーパー銭湯で例えられるか、やってみるわ。

小橋:わかった。ナベさんも言った通り、僕らも含めてこの半年くらいの間で腕が上がったなぁと思う後輩が多くて。みんな、すごくのびのびとやってますし、(相方が)噛んだ時もちゃんとフォローができる分、大きな舞台でも対応できるようなスキルを持てるようになっていってる気がします。

渡辺:それ、顔が火照っても水風呂を挟める、みたいなことだよね。

小橋:スーパー銭湯だよね? ……その例えはイケてるの? わかんないんだよ。

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――渡辺さんも全体的な底上げができてることを実感していると。

渡辺:そうですね。いいネタとお客さんにウケるネタって一緒のはずなんですけど、きわきわなところで違っていたりして。バトルライブだと相方が噛んだとしても、イジるとネタのクオリティが下がるからやめとこう”ってなっちゃうんですけど、寄席っぽいライブだと“噛んだことをイジったほうがウケるじゃないですか。そういう感じで、よりお客さんに楽しんでもらう、笑ってもらうるっていうことに意識が直結しているんです。だから……ええっと……スーパー銭湯でいうと……うーーーーん(と頭を抱える)。

小橋:だいぶ悩んでるじゃん!

渡辺:ええっとねぇ……いろんな湯に浸かることに頭がいっぱいで結局あったまってない、みたいなことかな?

小橋:いやいや、全然わかんない!

渡辺:じゃあ、次からはカレー屋で例えます!

――わかりました(笑)。日々のライブで寄席的な経験を積みながら、2ヵ月に1回のバトルライブで結果を追求する……いいバランスですね。

渡辺:バトルライブは仕上げなので、神田カレー1グランプリみたいなことっていうか。2ヵ月間、お客さんの納得するカレーを提供してこられたのか。その日その日の火加減や水加減は違うけど、2ヵ月に1回は日々の経験を総合していちばんのカレーを出すことができる場があるってことですから。

小橋:スーパー銭湯より例えがわかりやすい! まさにそういうことです!

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来年1月に初単独を開催

――今年の『M-1グランプリ』は残念ながら準決勝進出ならず、でしたね。

小橋:悔しい……っすね。今年はいいネタができてるんじゃないかと思ってたので。

渡辺:直前の調整をミスったなというか。まっすぐ向かっていたものが、最後にひゅっとズレた感じでした。その前にももちろん調整してるんですけど、叩きに叩いたネタだったので自分たちのアンテナがガバガバになっていて。辛すぎて舌が真っ赤で味のわからない状態と同じですよ。

小橋:うん、おいしいカレーがわからなくなっちゃってたよね。

渡辺:僕ら、2019年の『M-1』に出てコンビを組んだんです。「結成が浅いのに頑張ってるね」って言われるのは嬉しいんですけど、芸歴13年目の36歳なので余裕で焦ってるんですよ。焦燥感でずーっと胸を焼かれてるというか、本当にいつトラになってもおかしくないというか。

小橋:えっ、……トラ!?

渡辺:『山月記』だよ。人語を解しているのが不思議なくらいです。

小橋:トラになってないってこと?

渡辺:そうそう。今にも喉からグルグル言い出しそうな感じというか。夜中に1人、何も手に付かない時もあるんです。

小橋:
トラは関係ない?

渡辺:そこは“トラ”われないでね!

――(笑)。

渡辺:もう……何度、同期の決勝進出を見送ればいいのか。で、決勝でウケてる同期や後輩を観て嬉しかったり、よくやった!と思ったりする自分もいるんです。でも、それは違うだろうと。

小橋:“牙”を立てていかないとね。

渡辺:そうそう。自分を守るためによくやったと行っているような気がして、自分で自分が嫌になります。そういう気持ちから、獣毛になっていって。

小橋:トラになりそうになる、と。

渡辺:隴西の李徴の気持ちがよ~~くわかりますよ。

小橋:……ええっと……それ何?

渡辺:トラになった人。

小橋:もうやめてくれ!!!

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――その辺り、小橋さんはどう思っているんですか?

小橋:そういう気持ちでやってるナベさんの隣にいますし、僕も来年33歳で芸歴8年目になるので同じく焦ってます。地方から出てきた身として、こうなる未来を想像してきてはいないので。

渡辺:NSC時代の自分が、今の自分を見たらマジで度肝抜くと思います。

小橋:(過去の自分に)なんで芸人やめてないの?って聞かれるかもね。

渡辺:たしかに。僕の場合、5年って期間を決めてたんです。けど、芸歴3年の終わりくらいに前の相方が突然辞めるって言い出したことで辞めれなくなっちゃって。

小橋:僕が辞めなかったのは、劇場というものが思っていたより楽しかったからだと思います。あと、道半ばで諦めてたまるかっていう気持ちもありますし。

渡辺:僕は……もっと傲慢な理由で。自分が面白いはずだからっていうことですね。あと、自分より面白いと思ったのに辞めていった同期や先輩、後輩も、自分が成し遂げることで浮かばれるんじゃないかって。そういう気持ちがガソリンになって辞められないんです。

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――となると、自分たちの面白さを証明するには賞レースで結果を残すしかない。来年もその結果に向かって、突き進んでいくわけですね。

渡辺:そうですね。来年1月に初めて単独ライブをやるんです。やろうと決めたのは、『M-1』で負ける前で。本来は『M-1』の決勝へ行って話題となって、みなさんに待ってました!と言ってもらう中で開催するはずだったんですけど……。プランとは違うカレー1グランプリになってしまったので、この単独ではいろんな味のカレーを出すことになると思います。カレーうどんみたいなものとか。

小橋:そんな変わりものも出しちゃうの?

渡辺:『R-1グランプリ』がありますから、それまで小橋が勝ち進んでいたらピンカレーもあると思います。そうなると、僕も何かやりたいなと。ネタなのか特技なのかはわからないですけどね。あと、コントもやれたらいいなと思いますし。

小橋:歌ネタは?

渡辺:『歌ネタ王決定戦』は終わっちゃったけど……歌ネタ、好きだから普通に持っておきたいな。

小橋:じゃあ、歌ネタなどなどもあるかもしれないです。

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来年こそ飛躍の年にしたい

――あと、渡辺さんに伺いたいことが。別媒体でネルソンズの和田さんや相席スタートの山添さんに“クズ”をテーマにした座談会をやっていただいたんですけど、その中で和田さんから「いちばんのクズは渡辺だ」という発言がありまして。

渡辺:あはははは!

――「あいつがアルバイトしているのを見たことがない」と話してたんですが、真相はどうなんですか?

渡辺:困ったなぁ! 真相を言いますと、芸歴2年目くらいまで高級中華屋で働いてまして。その後は居酒屋、東秀……オリジンですね。あと、ダクト掃除のバイトもずーっとやってました。4年間くらい働かない時期があったんですけど、今はネット配信番組の裏方みたいなのをやってます。まぁ、たしかに働いてないように見えると思いますよ。

小橋:ほかの芸人よりバイトしてないと思います。家で本を読んでいる時間が長くて、昔の文豪みたいな生活をしてるんですよ。

渡辺:
そう。だから、クズっていうのもそっちの感じだと思います。(ずっと寝ているから)床ずれを心配されたこともありますし。

――どんな本を読んでいるんですか?

渡辺:時代小説が好きで。池波正太郎がいちばん好きで、『剣客商売』は好きすぎて何回も読んでます。『剣客商売』って池波正太郎が歳を取ったからなのか、後半はちょっと暗くなるんですけど、前半の元気で明るい雰囲気のあるところが特に好きですね。

小橋:バトルライブの時も『孫子の兵法』だっけ? 戦いの本を読んでて、マジでバトルしようとしてるじゃん!って思いました。

渡辺:“敵を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず”ね。まぁ、あれは好きで読んでただけなんだけど。

――小橋さん、渡辺さんのようにのめり込むほどの趣味はありますか?

小橋:僕は本当にないんですよ。以前、ハムスターを飼っていて、今モルモットを飼っている……それくらいです。海外ドラマも好きなんですけど、観られる時間があまりなくて、趣味とはっきり言えるものはない状態です。何かにハマることがあんまりできないんですよね。

――仕事ではありますけど、芸人は7年も続けられるほど興味深いものだというか。

小橋:たしかに。1つのことをあまり続けられなかったかもしれない僕にとって、芸人はすごく楽しい仕事です。

――今年も残り1ヵ月となりましたが、来年はどんな年にしたいですか?

小橋:毎年同じなんですけど、飛躍の年にしたいです。来年の『M-1』とか『キングオブコント』前にはちょっと飛躍しておきたい。“こいつら、調子いいぞ”って思われていると強いと思うので。

渡辺:自分自身もそう洗脳していきたいですね。僕、“お前は天才だ”って鏡に向かって言いまくってるんですよ。そうしたら、脳が勘違いするんじゃないかと思っていて。

小橋:大丈夫? 崩壊してない?

渡辺:天才だという気は一切してこない! けど、そうやって自分を追い込んで結果を出していきたいですね。あと、今年の『M-1』でやったネタは来年の『M-1』ではできないので、地上波で昇華させられたらいいなと。だから、ネタ番組にもいろいろと出られるようになったらいいですよね。

小橋:いろんな人に僕らのネタを観てほしいよね。今公開されている『M-1』の動画を観て興味を持ってくれた人から、仕事のいい連絡があれば嬉しいですね。

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■INFO
1月に行われる単独ライブの情報は、12月3日(金)より神保町よしもと漫才劇場HPにアップ予定ですので是非チェックしてください!

■ドンデコルテ
2019年結成。小橋共作(左)と渡辺博基(右)のコンビ。

ライター/高本亜紀 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/重兼桃子

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