【劇作家女子会。のQuest①対談 石原燃さん(後編)】意識も、世界も、変わってきている。今を生きている私達で変えられる


劇作家女子会。のQuest①として、劇作家女子会。は、演劇の現場で使える、オープンソースの(web上などで公開され、誰でも自由に利用できる)ハラスメント防止のためのガイドライン作りを目指しています。
色んな劇団で、或いは現場ごとに自由に使用ができるガイドライン作りのために、私達は何を知り、何を考え、何を実行していくべきか。
その答えを探すために、私達はこれまでに、演劇の現場で活動している様々な方々からお話を伺い、思考を重ねてきました。
このQuestでは、これまで私達と話し合ってくれた方々との軌跡を、対談記事として順次公開していきながら、ハラスメント防止のためのガイドライン作りを目指していきます。 

劇作家女子会。のQuest①、劇作家の石原燃さんをゲストにお招きしての対談記事の後編です。
記事の前編はこちらから→https://note.com/gekisakujoshi/n/n392bcbda98e6

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■納得のいく結末にならないとしても、行動を起こすことはいいんじゃないかな

モスクワカヌ  考えちゃうのは、今はすごい過渡期にいて、そんなときに被害を受けて訴えるかどうか迷ってる人って、すごくもみくちゃにされてると思うんだよね。
法律が変わるまでは、それこそ討ち死にじゃないけど、 おかしな無罪判決がでる例がまだまだあるかもしれない。それで「おかしい」って声が上がることで法律が変わっていくのだろうけれど、じゃあそれまでに討ち死にした人のケアはどうすんだ、みたいな…。

オノマ でも、たとえ納得のいく結末にならないとしても、何かしら行動を起こすことはいいんじゃないかな。警察とか法テラスとかに相談して「やっぱ訴えるのは高コストでローリターンだな、やめよう」ってなってもいい。何も出来ずに泣き寝入りが一番心身に辛いと思うから、自分はアクションを起こしたって思えることは大事だと思う。

坂本 戦ったぞって言うね。

オノマ これは余談なんですけど、最近は自分の作品がSNSで「つまんなかった」と書かれたら、納得できなかったらリプライ返していこうと思っていて。

坂本 おうおう。

オノマ 今まで、色んな意見を受け入れるのが大人ですものね、と思ってたんですけれど、試しにSNSで書かれたことにリプライ返してみたら、ちょっと元気になったのよ。無駄にへこまなかったと言うか。

坂本 なるほど。

オノマ もちろん言葉が通じそうにない相手や、はなから攻撃的な相手だったらやめてたと思う。でも、ただ言われっぱなしだと、傷ついた状態で我慢しなきゃっていう感じになるんだよね。打ち返した方が自分にはいいなあ、健康的だなって思いました。

石原 言語化するのは大事ですよね。 例えば人が大きな事件とか事故にあった時、事件や事故にあっただけではPTSD(※4) にはならなくて、無かったことにしようとすると発症するって話もあるくらいですから。

モスクワカヌ 確かに「ごんごか」することで…

オノマ 「げんご」(囁く)。

モスクワカヌ 「げんごか」することで…

黒川 訂正がバレバレ(笑) 

モスクワカヌ はじめて浄化される思い、というのは確かにあると思う。

黒川 うんうん。

石原 皆、お茶もうちょっと飲む?

劇作家女子会。 いただきます!


■相談して、よくない対応をされた時、自分が悪いんじゃなくて担当者が悪いんだ

―石原さんにお茶のおかわりをいれてもらいながら―

坂本 時々、例えばTwitterとかで、警察とか支援団体に相談しても無駄だ! みたいな主張が流れてくることがあって。そういう強い言葉って拡散されやすいんだけど、私はセクハラで警察や相談窓口のお世話になった時、きちんと対応してもらえたから、そういう発信もしていきたいなと思う。警察マジクソみたいな発信ばっかりだと、何かあった時に警察行かない、みたいなことが起きてしまうから。いや警察よかったよとか、セクハラされたけどここに相談したら良かったよとか。そういうことも言っていったほうがいいんだろうなって思う。

オノマ 色んな人がいるから、どんな対応をされるかは運もあるんだけれど、相談しても無駄みたいな空気ができちゃうと、それはそれでよくないね。

石原 相談窓口の紹介で難しいのは、その窓口が相談者に適切な対応をしてくれるかどうか把握しきれないということ。東京だけじゃなく全国の窓口の紹介が出来ればと思うんだけど、全てが同じように機能しているか確認することは不可能だし…。

オノマ 支援者との相性も絶対あるしね。人間のしていることだから。

坂本 紹介するとしたら、やっぱり公的機関の窓口の紹介になるよね。で、「この窓口は、こういう相談にこういう対応をしてくれる場所です。もし担当者にそのように対応してもらえなかった場合、悪いのはあなたでなく担当者です」ということも分かるようにしていくのがいいんじゃないかな。

石原 相談して、よくない対応をされた時、自分が悪いんじゃないとわかることも大事だよね。おかしな対応をされたら怒って電話をきってもいい。

坂本 そこで別の窓口につながりなおしてもいいわけだし。

モスクワカヌ 担当者を、チェンジ! ってしてもよい。

オノマ でもまあ、世間で言われるほど役所の窓口は冷たくないようにも思います。私は児童相談所とかワンストップ支援センターとか電話したことがありますけれど、丁寧に対応してもらえたし。

モスクワカヌ 私は法テラスへ電話したことと、実際相談しに行ったこともあるけれど、いずれもわりとよい対応をしてもらえました。

オノマ あ、法テラス、私がかけたときは親身になってくれなかった。

モスクワカヌ 人によるよね。どこでも窓口の人にはある程度親切であってほしい。最初に相談した人がハズレだと「誰も自分を助けてくれないんだ」「こんな目にあうのは自分が悪かったんだ」と絶望してしまうから。

坂本 でも、出来ればそこで諦めないでほしいよね、ちゃんと対応してくれる人もいっぱいいるから。でも傷ついてる時は難しいか…。

石原 うん。難しいよね。被害者を救済するための仕組みが、もっといろいろあるといいんだけど。


■怒りを表現するしかない状況、怒るしかないぜ! みたいな気持ち

オノマ 私は昔、痴漢を捕まえた時に警察の人から「怖かったでしょ、かわいそうに」みたいな感じで言われて、それがちょっとやだった。

坂本 別によくない? だめなの?

オノマ いや、私は怖かったんじゃなくて許せなかったんで。その怒りをわかってもらえないのが嫌だった。「怖かったでしょう」みたいな目線でこられると、いや私は許せないと思ってるんで、みたいな感じになって、警察の担当者との間でうまく意思疎通がはかれないみたいな…。

坂本 なるほどね。

オノマ あと、調書には怖かったって書かなきゃいけないみたいなことを言われて。別に怖かったわけじゃねえし、みたいな。

石原 被害者は怖がるものだ、かわいそうなものだと、紋切り型に押し込められてしまうのも二次被害だよね。怒る被害者は嫌われる。怒りしか表現できない状況、怒るしかないぜ! みたいな気持ち、があるのに。だから、人が怒るしかない状況に置かれてたら、そのことは責めたくないなって思う。

坂本 どういうこと?

石原 ふざけんな! しか言えない時ってあるから。

オノマ すごい無下にされたりしてね。

石原 被害にあったら怒りがわくんですよ。感情を自分でコントロールできなくもなるし。先日、東京駅でフラワーデモ(※5)に参加したんです。性被害の当事者たちが、次々自分の体験を語っていくわけですが、そこで語られる感情はいろいろでした。悲しみもあるし、怒りもある。でも、そこにはどんな感情を表に出しても否定されたり、引かれたりしないで、共感してもらえるという安心感がありました。被害者はそうやって受け止められてはじめて怒りの先に行けるし、被害者と同じ思いを抱えたほかの参加者も勇気づけられるんです。いまの社会にはこういう場が必要だったんだなと改めて思いました。
でも、一般社会では、そういう場所ってなかなかないですよね。特に女性の怒りは、昔から「ヒステリー」と言われたりして、正当に扱われてこなかったので、いまでも受け止めてもらえる場が少ないように感じます。
さきほど話題にでた無罪判決に関する抗議に対しても「感情的になるな」という批判が出ていました。フラワーデモについても、デモに来てなかった男性弁護士が「判決を出した裁判官の罷免を求める運動はしない方がいい」と書いていて、いやいや、デモでは誰もそんなこと言ってなかったよ? そもそも参加もしないでアドバイスとか意味わかんないんだけど? っていう。

坂本 上からくるね。

石原 そういう批判は、女性たちの怒りの表層しか見ていないと思う。被害者の声が届かないのは、被害者が怒っているからではなくて、受け取る側の問題なんだと思う。

坂本 なるほどね。

石原 フェミニズムの団体とか、よく怖いって言われますよね。興味のない人たちに対して「もっととっつきやすいようにしたら」という意見があるし、その気持ちもわからないことはないんだけれど。一方で性犯罪とか「慰安婦」問題に取り組むときは、外部からどう見られようとも、当事者の怒りを受け止め、一緒に怒ることがなにより大事なんだよなとも思う。周りから怖いと思われようがなにしようが、これでいいのだ、とぶれない強さが必要というか。

モスクワカヌ まあ、怖いですよね、何かを主張している組織や人って、外から見ると。

石原 でも、外から見てどうかを気にするということは、そういう世間の価値観を内面化しているということでもあって、そういう団体に、当事者はいられないんじゃないかな。自分でもどうにもならない怒りを抱えていることを、受け止めてもらえないわけだから。


■今おかしなことは、今を生きている私達で変えていける

石原 劇作家女子会。でハラスメントのガイドラインを作ること、私はすごくよいと思うよ。たとえば日本劇作家協会のような団体がハラスメント対策をする時には、被害者のケアよりも、協会員や役員が加害者になった場合の対策を中心にせざるをえないと思ってる。

坂本 なるほど。いやぁ、難しいことだね!

石原 劇作家女子会。はメンバーが少なくてこまわりがきくぶん、大きな団体とはまた違った動き方ができると思うし、演劇の現場をよくしていくために、外部と共有できるところは共有して、それぞれの働きかけが出来たらいいよね。

モスクワカヌ 劇作家女子会。のガイドラインも、できたものを発表するだけじゃなくて、作成の過程も公開していきたいと考えているんです。

オノマ ガイドラインを発表した後で、それを時代にあわせてアップデートしていくことも出来るよね。世界はどんどん変わっていくんだから。

モスクワカヌ こういうミーティングも続けていきたいし、今日お話した内容も後々記事にできたらと思っています。

石原 はい、よろしくお願いします。良いものができるといいですね。

オノマ ありがとうございます。

坂本 ありがとう、燃ちゃん!

石原 そうやって、色んな人が色んな所で、色んなやり方でやらなくちゃダメなことだと思う。

坂本 今おかしなことは、今を生きている私達で変えていけるからね。ところでまだケーキの写真しかとってないから、もう少し勉強会っぽい写真もとっとかない?

オノマ 和やかだな。

坂本 ちゃんと勉強会してる感じを出そう! さあ、ケーキを片付けるんだ!

石原 あ、ケーキ片付けるんだ(笑)

オノマ 陽子ちゃん、カメラマンをお願い!

黒川 じゃあ目線をください。パソコンとか開いてそれっぽくしよう。

オノマ やらせ感。

モスクワカヌ 偽装だな。

黒川 はい、チーズ! 次は真剣に話し合いをしている感じで。

オノマ リーダーの話をみんなが真面目に聞いてる風の画を撮ろう。

坂本 じゃあ私は真剣に喋ってる感じでいきます!

黒川 はいチーズ!

劇作家女子会。 燃さん、今日はお忙しいなか、ありがとうございました!

【文章中の脚注】
(※4)PTSD:心的外傷後ストレス障害を意味する Post Traumatic Stress Disorder の略。強烈なショック体験や強い精神的ストレスが心のダメージとなり、時間が経過した後も、その経験に対して強い恐怖を感じるもの。
(※5)フラワーデモ:性暴力への抗議と被害者の連携を掲げたデモンストレーション。参加者は性暴力への抗議の象徴として、花や花のモチーフを手に集まる。2019年には相次ぐ性暴力の無罪判決を受け、被害実態への理解や刑法改正を訴えるフラワーデモが各地で開催された。

■石原燃さんプロフィール
石原 燃(いしはら ねん) 
劇作家。劇団大阪創立40周年戯曲賞大賞、第24回テアトロ新人戯曲賞佳作。2011年には原発事故直後の東京を描いた短編『はっさく』がNYのチャリティー企画「震災 SHINSAI:Thester for Japan」で取り上げられ、全米で上演された。近年の主な作品に、従軍「慰安婦」だった日本人女性ヘルと「私」を描いた一人芝居『夢を見る』、NHK番組改ざん事件を扱った『白い花を隠す』(同作品で演出の小笠原響氏が読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞)などがある。

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劇作家女子会。は「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した、坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌによる劇作家チームです。 演劇公演やイベント、ワークショップ、noteで対談記事を公開する等の活動をしています。 私達をサポートして頂ければ幸いです!