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劇作家女子会。のQuest① 女子会。の 「ゲリラチラシ」活動について(後編)

「ゲリラチラシ」作成の理由

2019年、「劇作家女子会。のQuest」という企画の一環として、ハラスメントのガイドライン作成を進めていた私達は悩んでいました。
私達が作ろうとしているガイドラインの完成には時間が必要でした。しかしそうしている間にも、演劇の現場で起こる様々なハラスメントの話が耳に届いていました。

特に、演劇に関わりだしたばかりで後ろ盾や仲間の少ない若い人達が、

・オーディション後に選考に関わるスタッフからホテルに誘われるというセクハラを受けた。
・無茶なノルマや高額なワークショップ等でやりがいや金銭を不当に搾取された。
・理不尽な暴力や暴言をうけても「自分が未熟だから」「演技が下手だから」と思わされて沈黙させられた。

そういった話や相談が相次ぐことを、問題だと思いました。
現在進行形でおこっている演劇の現場でのハラスメントに、なにか一石を投じることはできないか。そう考えて生まれたのが、これから演劇をしていく若い人たちへと宛てたお便りを、チラシ束に折り込む形で配布するという「ゲリラチラシ」作戦でした

「ゲリラチラシ」1通目

宛先は「これから演劇をしていく若い人たちへ」、差出人は「演劇やってる大人より」。

若手の演劇関係者が主体的に関わっている公演や、若者が多く観劇に来るであろう公演の折り込みチラシ束のなかに、私達はそのゲリラチラシを折り込みました。どこかの劇場で目にとめた方もいらっしゃるかもしれません。

なぜ「ゲリラチラシ」だったのか

ここまで読まれた方は、なぜそれが「ゲリラチラシ」という乱暴な形でなくてはならなかったのか、疑問に思われるのではないかと予想します。

何故、劇作家女子会。の名前をだしてホームページやブログ等のSNSを使って発信せず、劇場という限定的な場所でだけ手に取るチラシ束のなかに忍ばせたか。

さまざまな理由があります。
まず、「ゲリラチラシ」は、私たちのことを知らない人、私たちがまだ出会っていない人、私たちに対して苦手意識がある人にも、演劇界のハラスメントのことについて考えてもらうための手段でした。
また、2019年当時、SNSなどで発信はしていなくても、演劇の現場で起きるハラスメントに問題意識を抱き、その対策に地道に堅実に取り組んでいる関係者がいることを私たちは知っていました。でも、そういう方々の活動や存在は、今よりずっと見えにくいものだったと思います。
演劇の現場でのハラスメントを問題視している人がいること、ハラスメントの起きやすい環境や慣習を変えようとしている人がいること。
チラシの差出人を「演劇やってる大人より」とすることで、そういう大人も少なくないことを、演劇を見に来てくれる人達や若い人たちに知ってもらいたいと考えました。
また、変わろうとしている、変えようとしている大人の存在が、彼らが演劇を諦めないためのエールになればという思いもありました。

「ゲリラチラシ」公開の理由

昨今、映像や演劇の現場における様々なハラスメントについて、勇気のある告発が続きました。
「#metoo」や「#演劇におけるハラスメント撲滅宣言」等ハッシュタグをつけた呟きで、ハラスメント被害を受けた方への連帯や、演劇の現場でのハラスメント被害をなくすために行動していくことを表明する人々もいます。
それにより、ハラスメントの防止策や、ハラスメント  を許さないというステイトメントを発表する団体が増えてきました。
私たち劇作家女子会。も、「劇作家女子会。は誰もが尊重される演劇製作の過程と上演を求めます。」として、ハラスメント予防のためのステイトメントを発表しました。

私たちの「ゲリラチラシ」折り込み作戦は、2通目の配布を始めたときにコロナ禍がはじまり、演劇公演も折り込みチラシも自粛を余儀なくされた影響で、長く中断しておりました。
その時間のなかで、「舞台芸術関係者向け性暴力・ハラスメント相談窓口リスト」や、「芸術分野におけるハラスメント防止ガイドライン」を作り出してくれる方々もいました。
また昨今のハラスメントに対する意識の高まりもあり、2019年の「ゲリラチラシ」の内容は、都市部の劇場で折込をするには"耐用年数"がすでに切れたと感じています。

これは、喜ばしいことなのだと思います。
少なくとも、3年前、渋谷のカフェの机の上に原稿用紙を広げ、4人で代わる代わる文章を綴ったあの頃には考えられなかった未来の姿です。

健全な演劇製作の過程と上演への関心がこれまでになく高まっている情勢のささやかな追い風にしたく、この度、あのお便りの送り主として自分達の名前を明らかにし、これまでに配布したチラシ内容の全文を公開することにしました。

以下、ゲリラチラシの1枚目と2枚目の画素データ、およびダウンロード可能なPDFデータとなります。
(オープンソース。どなたでもダウンロード可能です)


「ゲリラチラシ」1通目


「ゲリラチラシ」2通目 表面


「ゲリラチラシ」2通目 裏面


数年前に作成した文章のため、現在の状況にそぐわない内容もあります。2022年にこのままご利用頂くのは難しいかと思います。
ですが、ハラスメントに対して活動しようとしている方々の参考になることがあったら幸いと思い、公開いたしました。
今さらとなりますが、この「ゲリラチラシ」の文責は坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌでした。


リンク


・舞台芸術関係者向け性暴力・ハラスメント相談窓口リスト

・芸術分野におけるハラスメント防止ガイドライン
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScs_z0-VQW9y7Sp22Bc8XVCk_DSbtlkUmFoGWyqKAaJ-zhI1Q/viewform
※ダウンロード形式の無償配布資料です。

・劇作家女子会。ステイトメント
『劇作家女子会。は誰もが尊重される演劇製作の過程と上演を求めます。』
http://gekisakkajoshikai.blog.fc2.com/blog-entry-258.html


劇作家女子会。は「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した、坂本鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌによる劇作家チームです。 演劇公演やイベント、ワークショップ、noteで対談記事を公開する等の活動をしています。 私達をサポートして頂ければ幸いです!