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どこへでも

人生で最初かつ最後になるだろうと思いながら脚本を書いていた去年の初夏には、まさか一年越しに二度目の作演出をやらせてもらえることになろうとは、思ってもみませんでした。
今度こそ人生で最後だと思って今夏の脚本を書きましたが、公演が終わってみると不思議なことに、もしまたやる機会があったらこういうの書いてみたいな〜などと考え始めてしまいます。演劇ってキリがないですね。

そんなこんなで、常に演劇に出てるか書いてるか観てるかのいずれかに当てはまるような状態で絶え間なく演劇をやり続け、あっという間に2年が過ぎてしまいました。体感では4年くらいやっている気持ちです。
2年の間に幾度もやめどきがあったのに、なんでこんなに続けているんだろうとふと思ったりしますが、ただやめられなくて、気がついたら引退公演までミチミチに演劇をやりまくることになってしまった、というのが実際のところです。幸せなことだと思います。
そしてまた、作演出として携わる公演を最後に劇工舎プリズムを引退できたことも、とても幸運なことでした。

作演出という仕事の一番うれしいところは、座組のみんなと一緒に仕事ができるところだと私は思います。
私はいい仕事をする人のことが好きで、そういう人の仕事そのものが大好きです。
今回の公演では、いい仕事をする人たちと一緒にものを作って、これいいねえ!って言い合える瞬間が無数にあり、それが毎回本当にうれしくて、やっててよかったと何度も思いました。
私の書いた脚本を演劇として形にするべく、座組のみんなが惜しみなくその技術と創造性を貸してくれることに、すごく大きな愛を感じていました。

去年の秋公演ぶりに一緒に本公演を作る後輩たちは見違えるほど頼もしくなっていて、そのこと自体もうれしかったし、単純に、いい仕事をする人たちと一緒に仕事ができる喜びをもたらしてくれました。
特に小屋に入ってからの一週間、たくさん話して、あれいいねこれもいいねって言い合いながら実際の演出を組んでいけたこと、かけがえのない思い出になりました。今までで一番楽しかった。思い出してつい、にやにやしてしまいます。
後輩たちが、引退する我々のやりたいことをできる限り全部やれるように力を尽くしてくれていることを、ひしひしと感じていました。
かように、愛に溢れた素晴らしい後輩の皆さんの存在があったればこそ、いろいろありつつも私は引退まで辞めずにサークルを続けられ、最後の公演良かったな〜と思いながら引退することができました。すげ〜いい座組!

私にとっては、座組の素晴らしさを実感する公演であると同時に、駒場小空間という劇場の素晴らしさを実感できた公演でもありました。
やろうと思えば、それだけで見応えがあるような面白い演出を実現し得る劇場であるということ。駒場小空間という劇場を最大限に使えたとき何ができるのか、その一端を垣間見た気持ちです。
稽古場で役者と一緒に芝居を作っている時間が長いと、どうしても役者の芝居を演劇の主要な部分として認識してしまいがちになるのですが、今回の公演では、芝居以外の演出が、作品全体を構成する部分として芝居と同等かそれ以上の効果を発揮していました。
それは、見事なスタッフワークが、全体を構成する部分として巧みに設計され、この上なく適切に機能していたからに他なりません。すげ〜いい仕事!
そのおかげで、作演出としては、演劇を構成する部分の一つ一つがそれぞれに強度を持ったパーツとして、有機的につながった形で全体を把握できるようになり、なんというか、視野が広がって、しかも解像度が上がったような感覚でした。
去年の夏に初めて作演出をやったとき、私がちゃんと認識できていたのは稽古場の範囲のことだけだったので、その認識の拡張は実に貴重な実感でした。
そして、そのような認識のもとで演出のパーツと役者の演技が想定通りに組み合わさって、想定以上の強度を持った場面として目の前に立ち上がってきた瞬間の快感と言ったら!何物にも代え難い体験だったと思います。
初めて戴冠式の場面を合わせてやってみたときのみんなの反応は今も忘れられません。またにやにやしてしまいます。
2年間ここで演劇をやっていて初めて、駒場小空間を劇場としてちゃんと「使えた」と感じられた瞬間でした。

片や、全体を構成する部分としての自分の仕事には色々と反省すべきことがあります。それでも、舞台、音響、照明、映像、宣伝美術、小道具、衣装、制作、web、そして役者たちの素晴らしい仕事が私の脚本を救い上げてくれて、私個人としても、いろんな人にたくさん救い上げてもらいました。
本当は一人一人の顔を見ながら話して回らないといけないくらいに深い感謝の念と、いろいろ個人的な思いがありますが、恥ずかしいのでこの文章をその代わりにさせてください。
尊敬する同期や後輩たちと、作演出として最後に一緒に公演を作って終われたことは、私にとって何よりも幸せなことです。
暑い中、あるいは雷雨の中で劇場に足をお運びくださった皆様、公演にお力添えくださった皆様、気にかけてくださった皆様にも、心から感謝申し上げます。おかげさまで、無事に引退公演を終えることができました。

長々と書いてしまいました。
そういうわけで、これからのプリズムは本当に素晴らしい座組ですし、駒場小空間は本当に素晴らしい劇場です。
そんな劇場で、数十人規模の大きな座組で演劇をやる機会を得られるのは、おそらく多くの人にとってはサークルをやっている間しかありません。
駒場小空間でこれからも演劇を続ける後輩諸君には、素晴らしい劇場を使って作ることができる残りの公演を、目一杯楽しんでほしいと思います。
駒場小空間は、君たちをどこへでも連れて行ってくれます。いい夢見ろよ!
一方、今や駒場小空間を後にした我々はと言えば、文字通りどこへでも行ける、というわけです。プリズムで過ごした2年間の悲喜交々を道連れに、どこへでも、行きたいところへ行きましょう。
我々にできないことは何もないと、まだ私は信じていたいと思います。

22 鈴木

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