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小夜子の書き出しブックトーク【家族シアター】

『家族シアター』辻村深月・作(講談社文庫)

本稿は2024年7月に下北沢駅前劇場で上演する『ANGERSWING/アンガーズウイング・アンガースウィング』に寄せて、“書き出し”の一文をご紹介するブックトークです。ANGERSWINGのキーワードを拾って、「そういえばあんな本読んだなぁ」「読もうと思って読んでなかった」「これを機に出会った」という作品たちを、それぞれの冒頭1行と共にご紹介します。

今回のテーマは「家族」。
書き出し文はこちら。

✤✤✤

いってきます、という声とともに廊下を横切った幸臣(ゆきおみ)が全身紺色に見え、おや、と首を傾げてすぐに、あ、そうか、と気づく。

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〈あらすじ〉
息子が小学六年の一年間「親父会」なる父親だけの集まりに参加することになった私。「夢は学校の先生」という息子が憧れる熱血漢の担任教師は積極的に行事を企画、親子共々忘れられない一年となる。しかしその八年後、担任のある秘密が明かされる(「タイムカプセルの八年」)。家族を描く心温まる全7編。

講談社より

家族は難しい

家族というテーマって、実はものすごくセンシティブですよね。
どんな人にもあるのに千差万別で、幸せな家族もあれば(たとえ幸せそうに見えても)そうじゃない家族もあって、「普通は」という言葉が通用しない、そういう世界なんじゃないかと思うんです。

サスペンス的なドロドロじゃなくたって、周りから見たらなんてことないことだって、当事者たちには大事件かも。
だから“家族もの”の作品ってすごく取り扱いが難しいし、生半可に扱ってほしくないと思ってしまいます。
(というか、そういう雑な扱いの“家族もの”作品ってかなり多くないですか!?)

何十年もかけて醸造された粘度の高い不満が、何かのきっかけで全て解消してチャンチャン♪となるなんてやっぱりあり得ない!

「普通」はないけど「あるある」はある

…とか言いながら読んだ『家族シアター』。とても素敵なお話ばかりでした (笑)

いずれも中流家庭のいわゆる「普通の」家族たちの物語を集めた短編集です。
端から見れば特に破綻したところのない家族。でも内情は、大小様々な不満を抱えている親子やきょうだい、お祖父ちゃんと孫…などなど。

普通なんてないんだ!なんて言っておいてなんですが、これは「家族あるある」集です(笑)
いちいち取り合っていたらキリが無いようなモヤモヤイライラに、ほんの少し向かい合ってみる物語。

ハッピーエンドだけどハッピーエンドじゃない。
家族生活の通過点でしかないようなささやかさ。良いことも悪いことも日常って感じ。
色んな人の視点から語られるので、共感できる人の話だと鼻の奥がジンとしてしまいます。

庭先から覗く他人様の愛憎劇

さて、『ANGERSWING』では一家の父親が亡くなり、家族が一同に会す所から物語は始まります。
そこで明かされる父の秘密。

これだって、この家族には一大事でも周りから見たら些細なことなのかもしれません。
或いは、他人にはセンセーショナルに見えるけど当事者達には取るに足りないことだったりして。

所詮は他所の家族の話。
ちょっと決まりは悪いかもしれないけど、庭先からこっそり覗いてみてください。

文・北澤小夜子

「日本の演劇人を育てるプロジェクト」
新進劇団育成公演
劇団Q+特別公演『#ANGERSWING』
脚本=弓月玲 原案・演出=柳本順也
2024年7月3日(水)〜5日(日)
下北沢駅前劇場にて
チケット絶賛発売中✨

▼詳細は以下をご参照ください。


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