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生線〜kisen〜脚本

作:林田雅樹

①失った命
夕焼け小焼けの時報の音が遠くで聞こえる。徐々に色濃くなっていく夕焼けの茜色に照らされ、ソファに腰掛けている男が視界に入る。ソファ、テーブル、机、机の上にはノートパソコン。部屋の片隅にはダンボールが積み重ねられている。シンプルなつくりの部屋のようだが、くしゃくしゃになった紙がたくさん転がっている。男(尊人)はソファから外をぼんやり眺めている。ふと目をこらすと部屋の隅、尊人の対角線上に女が座っている。外からは帰宅中の子供達の元気な声が聞こえてくる。

尊人  「この時間の無邪気な声は、頭に響く。…身体を芯から締め付け、苦しくて苦しくて、でも何も出来なくて、ただ生きていく事だけしか出来なくて、それがまた苦しくて、逃げるためだけに、もしもあの時こうしていたら、もしも避ける事が出来たなら、今頃幸せに包まれて生きていたのかな。なんて妄想に沈んでしまって、」

​尊人の台詞とともに茜色の空は徐々に暗くなっていく。

尊人  「俺には前を向く資格も権利もないんだって思い知る。」
女   「そんなことない。」
尊人  「…人を殺したんだ。そこにあった命は、俺のせいで消えてしまったんだ。」
女   「あなたのせいじゃない。」
尊人  「だから安心して。幸せになんてならないから。」

​いつの間にか二人の視線が交わっている。ゆっくりと闇に包まれていく。

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