見出し画像

『珠光の庵〜遣の巻〜』韓国語版インタビュー③

『珠光の庵 製作ノート』の特別編。インタビュー・その3。
インタビュー・構成・執筆:藤本瑞樹
※公演写真:脇田友

―ここで田中さんにもお伺いしたいんですが、まず、劇団衛星との出会いはいつですか?

田中 2017年の8月ですね。京都学生演劇祭に出ていて。京都学生演劇祭は学生ドラフトというのがあって。いくつかの劇団が、いいなと思った人を指名できるという裏イベントなんですが。

蓮行 おまけイベントですね。

田中 そこで、私が出ていた団体を蓮行さんが観てくださっていて。指名をいただいて、入団しました。

蓮行 このひとが1位指名で、森谷Aが2位指名。

植村 両方とも獲った(笑)。

田中 それまで劇団衛星を観たことはなかったんですが。

―劇団衛星に入ってすぐの印象ってどうでした?

田中 衛星のお芝居にすごく関心があったわけではなくて、「演劇と仕事を両立しているプロの集団」というところに興味があって、私がもともと演劇と国際交流を組み合わせて活動していきたいという気持ちがあったので、そのタイミングで衛星を知って、ここだったら私のやりたいことを実現できそうだなと思いましたね。

―就職活動と似てますね。

田中 そうですね。ちょうど就活をしてた時期なので。

―なぜ田中さんを一位指名しようと思ったんですか?

蓮行 京都学生演劇祭には3年参加したんだけど、彼女は2年目に出会って。我々にもプロ野球と一緒で毎年補強ポイントはあって、まず『珠光』の小夜ちゃんができる若い女性の俳優を見つけたかった。そして、男性で背の高い俳優が必要だった。一位二位というのは駆け引きのアレです。

言ってしまえばレギュラー契約をしなくても付き合っていけるんですけど、『珠光』のことは常に頭にあって、小夜ちゃん役だけは、設定が14〜16歳くらいの女の子なので、演じられる年齢が限られてくるんですよ。歴代の小夜ちゃん役の女優も歳を重ねてすてきな女性になっていったんだけど、小夜ちゃん役はできなくなってくる。小夜ちゃん役のキャスティングの問題は常にあったので、入ってもらった。

森谷Aはもともとは珠光役をやらせる気はなくて。『珠光の庵』には「ほっかむりの男」という若手の一種の登竜門的な役があるので、それかなと思っていたんだけど。村田珠光は年齢的には20歳くらいと40歳くらいを往復する役なので、これまではその中間くらいの年齢の人に演じてもらってて。森谷Aは若すぎるかなと思ったんだけど勝負に出て、今回よくそれに応えてくれたなという感じですね。

画像3

―補強ポイントが補強されて、いいタイミング、いいメンバーで『珠光』の韓国語版ができた、という感じですか?

蓮行 そうですね。ただ実はこの7年って、経営的にどんどんガタガタになっていった時代で。そういう意味では田中も森谷も不遇の時代に入ってて、ちょうど今の若者と同じですよ。日本がダメになった時代しか知らないっていう。僕らは最初の10年が本当に大変で、そこから少しずつ仕事が増えていった「第2期劇団衛星」という時期があったのだけど、そのモデルが頭打ちになってきて、そういう中で公演より経営をなんとかしないといけない状況になってきた。

植村 本公演を2〜3年やってなかったのは、そういうお金の問題と、我々の体力の問題もあって。あと20年も劇団をやっていると、「やりたいこと」が20年前ほどないっていうこともありますね。

―「やりたいこと」って何ですか?

植村 いや、むっちゃあるとも言えるねんけど(笑)。

蓮行 強調しておきたいのは、僕はやりたいことをやるというよりは、やるべきと思ったことをやる、というのが基本で。『珠光の庵』の韓国語版は、今やるべきタイミングなんですよ、なんか知らんけど。それは、俺様が芸術の女神から微弱な電波を受けて俺様がやるかやらないか判断するっていう。それを実証するためには、お客さんに来て喜んでもらうというよりは、生き残ることが大事で。ずっと「プロ化するのは無理だ」と先輩方にボコボコに言われた時代があり、プロ化して、借金が雪だるま式に増えた時代があり、ちょっとだけ行けるかもしれないと思える時代があり、そしてまた借金が増えている時代に入り、今また次の展望が見えてるんですよ。それが掴めるかどうかという時期で。それを掴んで、我々第一世代が引退するまで生き延びたら、それはある種歴史が我々の正当性を証明するんですよ。そう思っているので、やりたいことがなくなったというよりは、それを具体化するために、かつてのように思いつきで活動はしなくなったということですね。来月いきなり公演するぞとか。

植村 来月とは言わないけど、半年後の公演を決める、ということは直近でもあったよ。20周年記念公演のときもやるっていうことは決まってたけど内容はまったくゼロだったし。

蓮行 タイミングやチャレンジとしてピンと来ないとできないので。やるべきだと思ったんでしょうね。でも実際はお金のことばっかり日々考えてる。次のやるべき作品とか再演をしようとかいうときに、まとまった金がいるなと。それは先に稼がないといけなくて。1億のファンディングをして、公演をやって、1億5千万稼ぐっていうのはうまくいかない。ブロードウェイなんかはそれでやってるんだけど、それだと僕らのやるべき仕事はできなくて。僕らはたとえばファンディングで1億稼いだら、公演に1億つぎ込んじゃう。それで300万しか売り上げが立たなくても、その芝居がなにかしらの複雑な影響で次の2〜3億を生むことがある。直接の投資と直接のリターンという関係になっていないんですよ。そういうことをいっぱいやっている。僕としてはそういう、まとまった金をつぎ込んだ公演をやるべき段階だなと思ってはいて……実は10年くらい前から。でもそろそろ、波動砲であの岩盤を撃ち抜くといいんだなっていう照準は絞れてきたので。我々が倒れるのが先か、撃ち抜くのが先か。さっき話した女神が言ってるようなことが具体化できるかというのが次のステップ。お金のことしか考えてないと言ったけど、どこに有能な人間がいるのかとか、どうやって彼らと関わっていくか、その両方を考えてますね。

―お話を聞きながら考えてたんですけど、初めてお会いしたときからブレてないことのひとつとして「経営」という感覚が常にベースにある、というのは劇団衛星の大きな特徴ですよね。「やりたいこと」をなんらかのロジックに半ば無理やりに当てはめるのではなく、先に「やるべきこと」を見つけてくる。それがさっき「ユーザーフレンドリー」と言いましたけど、それにつながってくるのかなと思いました。

蓮行 なるほど。そんな調子じゃないですかね。あとは再演をしたいんですよね。『サードハンド』とか『ブレヒトだよ!』とか。本当は東京オリンピックにぶつけたかったんですけどね、ただ金がないので。やるべきことをやるべきタイミングでできないというのが忸怩たる思いではありますね。

画像1

―では最後に、『珠光の庵』韓国語版をなぜ今のタイミングでやることにしたのかというのをお聞きしようと思います。

植村 まずなぜ韓国か、というのから言うと、単純に「近いから」です。金銭的な意味でも実現可能性が高そうだから、海外に行くならまず韓国だと思っていたというのがひとつ。そうしてるうちに、個人的に韓国に行く機会ができ、なんとなくつながりができたというのがあった。そこに韓国語のできる田中が入団したから、「条件が与えられてるよね」と思った。「これはもう、韓国公演をやれってことだよね?」って。

田中 これまでにも何回か『珠光の庵』に参加させていただいたんですけど、今回の韓国語版が大きな転換期というか、ここからまた新しく何かが起こる感じがしていて。あとはいま植村さんが言われていたようなことを何度か言っていただいているので、「やらねば」という気持ちです。

―田中さんの今回の『珠光の庵』の役割としては、小夜ちゃん役以外には……。

植村 韓国側との制作的なやりとりの通訳として入ってくれてます。稽古場でもウンミと田中が通訳としていてくれてます。

―田中さんの入団が今回の国際的な創作になんらかの影響を与えている、というのはありますか?

蓮行 今回は実は劇団衛星の創作プロセスとちょっと違うんです。さっき藤本さんが言われてた「衛星っぽい」というのからすると、「衛星っぽくないもの」に近い。既成の脚本をまず覚えて、立ち稽古して、通し稽古をして、上演みたいなプロセスに近いやり方なんですよ。つまり韓国キャストが何かについてのアイデアを思いついたりするっていうのを、彼らはすごく優秀なので、多彩な引き出しから示してくるんだけど、それはあくまで脚本の解釈とか演技の範囲であって、今回は弁証法的にひねり出すっていう現場じゃなかった。彼らが2か月滞在するんだったらそういう作り方もできたんだけど、今回とにかく翻訳をして、それを送って、ほとんど覚えてもらっておいて、映像も見て動けるようにしておいてねっていう状態で「ハイ来て!」ってなって、実際来てもらってすぐに動けるわけ。

植村 稽古を2週間もやってないからね。10回もやってないかな。

蓮行 そういう中でのチューニング作業だったので。通訳という意味での田中の貢献はすごく大きいけど、「創作」ということについては我々が今までやってきたやり方とちょっと違うので。

―来年の韓国公演も同じキャストなんですよね?

植村 そう。だけどそこでもそんなに稽古期間は長くしないと思う。

蓮行 神は細部に宿るので、ほんのちょっとのチューニングとか翻訳の違いで、アジャストするのが大きな違いになる可能性はある。それは私たちくらいの能力と感性があれば、現地に入ってチューニングされるだろう、と思っている。

画像2

植村 最後にもうひとつ、話しておきたいことがあるのだけど。関連企画の話なんですが。これまでも関連イベント的なことは公演に絡めてやってきたんだけど、前回やった『ガリヴァー』のときは「学会」という作品のテーマに絡めて、そのフォーマットで関連企画をやったのですが、今回は作品にそういうフォーマットはないのだけど、たくさんやっている。でもそれが、劇団衛星が公演以外にやっている様々な演劇活動の発表の場になっていると私は感じてます。最初はひとつかふたつくらい関連企画をやろうとは思っていたけど、こんな、10個近くやる必要は全くなかったんだけど。でも「韓国キャストが来るんだったら一緒にこういうことをやりたい!」というアイデアが劇団員から次々と出てきて、「どうせなら茶道の体験もやりませんか?」とか言ってきたりして、それをラインナップすると関連企画がこんなに増えてしまった。これが劇団衛星の活動そのものなんだろうなと思って。関連企画に全部参加してもらったら、「劇団衛星のすべて」がわかると思う。

蓮行 たしかに。なるほど。

植村 そして、今回、その全部を見ているのは、私と韓国キャストしかいない。劇団員も全部は参加していないので。実は劇団員も気づいていない劇団衛星の価値が、ここにあるんだと私は思っています。

蓮行 植村さんの説明はなるほどなと思いますよ。いいじゃないですか。最後に上手いこと言わはるわ、という感じです。

―ありがとうございました。

<終わり>

藤本さん、本当にありがとうございました。
韓国での上演に向けて、引き続き頑張っていきます!




劇団衛星の活動継続と公演の実現に向けて、みなさんのサポートを、ありがたく受け取っております。応援ありがとうございます。