「1席」作・うまいもんだなあ

部員から、初の!自由創作作品が届きました!
もっと活発になるといいなあ、と思いながら、お届けいたします!

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「どうぞ」の一言が言えない僕は臆病者だろうか。
見るからにぎこちなく歩くおばあさんが満員電車に乗ってきたとき、席を譲るかどうか。そうやって考えているうちにタイミングを逃す。後から後悔する。なんだか悪いことをしているみたいで。
今日も電車に乗っている。それほど混んで無いけど、席は埋まっている。
そして、恐れていたその時が来た。大きなお腹を抱えた妊婦さんが乗ってきたのだ。僕は迷った。でも、後悔しない方を選ぼうと少しの勇気をだした。
「どうぞ」さっと立ち上がって、声をかけた。優しそうな、よい声を出せたのではないだろうか。ああ、いいことをしたなぁと満足感に浸りかけた。
女性は軽く微笑んで会釈した。が、その場から動かない。どうして座らないんだろう。僕は譲ったのに。早くすわってよ。
結局、次の次に電車が止まったときに乗ってきた若い男がそこへ座った。その二駅の間地獄だった。誰も座らない、正確には気まずくて座れないぽっかり一人分空いた席が僕の目の前にある。そして実感した。いらない勇気なんて出すもんじゃないと。
さらに都合の悪いことに苦手なクラスメイトが同じ車両に乗っていたらしい。教室に着くやいなや笑い飛ばされた。
「どうぞ、だってさ。あの空いてる席、誰かに見せたかったなぁ〜」

いじりは次の日も続いた。
いつものように電車に乗ると、隣にそいつが座ってきたのだ。
「お前、今日も席譲らねぇの?隣で見ててやるからさあ」
そして、ことは起きた。見るからに足の弱った老夫婦が乗ってきた。僕は迷った。が、決断は早かった。隣にあいつがいるんだし、悪いけど譲れないや。誰か席譲らないかなぁ。
「どうぞ」
隣から声がした。びっくりして振り返るとなんとあいつは席を立って手を差し伸べていた。
「ありがとう、優しいのねぇ。」
「いえいえ、ほらお前も立てよ」
えっ、
「ああ、うん。」
「おお、すまんのぅ」

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後書き
席を譲ったことってありますか?私はよく譲ることがあるのですが、先日初めて気まずーい雰囲気を作り出してしまいました。次から譲るときは勇気が入りそうだな、なんて。この気持ちを供養できるたらいいなぁ。

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このような自由創作作品も今後たくさん掲載……予定です!
あと数日で7月ですね。7月のテーマ作品もお楽しみに!

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