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自作キーボードキットTimothyができるまで

キーボード #2 Advent Calendar 2022の13日目の記事です。昨日はEwdErnaさんの「初めて金属削ってドはまりした話」でした。
金属削り出し、難しそうですが憧れますね。いつか手を出してみたいです。

今日の担当は、キーボードを作るうさぎこと、ぎーくらびっとです。
今年は、初のオリジナルの自作キーボードキットであるTimothy(チモシー)の販売を開始しました!発売と同時にほぼ週刊キーボードニュースさんや、kbd.newsさんに取り上げてもらえてうれしかったですね。

Timothyは説明してもわからないようなたくさんのこだわりが詰まったキーボードです。製品紹介ページだけではこだわりを伝えきれないので、作るきっかけから順に振り返りながらこだわりをまとめてみました。

Timothy未満

Timothyを設計するきっかけになったのはみんな大好き ErgoDash です。これは遊舎工房の実店舗に初めて行ったときに一目惚れして購入しました。大変よくできたキーボードでTimothyの設計に大きな影響を与えています。

みんな大好きErgoDash!

ErgoDashはすごく気に入っていたんですが、長期間使っていると、少しずつ不満も出てきました。そこで自分にとって、『本当に最適なキーボードとは何なのか?』を考えるようになりました。

ErgoDashから改善したい点は大きく2点。

  • 小指で遠くのキーが押しにくい

  • 長時間使ってると親指が疲れる

遠くのキーが押しにくいという課題については、自分の手の形とErgoDashが想定する手の形が一致していないと考え、自分の手を観察してみることから始めました。脱力した状態でホームポジションに指を置いたときに、どの指も自然とホームポジションに位置するようにキーを配置しました。その状態から、極力手のひらを動かさずに済むよう、多くのキーを配置しています。

脱力した状態で各指がホームポジションにいる

親指が疲れるという点については、不用意に親指クラスタのキーを押さないよう、無意識のうちに指を持ち上げてしまっていることが原因だと考えました。なぜなら、脱力した状態では親指が他の指よりも下に来るはずなのに、親指クラスタがほかのキーと同一平面上にあることでキーを押さないよう、不自然な力が掛かっていると感じたためです。

そのため、親指クラスタを他のキーよりも一段下げる設計にしようと考えました。ErgoDashを使っている当初から少しテント角を付けたほうが使い易いことがわかっていたので、当初からテント角を付けるつもりでした。そこで親指クラスタ以外はテント角を付け、親指クラスタにはテント角を付けないという設計にすることで、親指部分を一段下げることにしました。

親指も一段下がって自然な位置関係

この時点では3D形状のモデリングや回路設計するという発想がなかったため、遊舎工房さんのアクリルカットとSU120を使って作ることにしました。
そこでできたのが下のキーボード。名前はまだない。そしてこれからもない。

自分の手の形に合わせて作ったため、とても使い易い形状でした。

試作1号

大変気に入った名無しのキーボードですが、すぐに悲劇が訪れます。仮組の途中で何度もスイッチを抜き差ししたせいか、はたまた放置しすぎた罰なのか、定期的に一部のスイッチの反応が悪くなるという病を抱えていました。

常用するには厳しいので、基板設計に手を出してみることにしました。ただ基板だけ作り直しても芸がないので、筐体も3Dプリントして作ってみることにしました。

どちらも初めて!無謀な挑戦が始まりました。

なじみのない概念が多く定期的に心が折れました。。。手始めに練習用の基板を作ったり、3Dモデリングしたケースを3Dプリントサービスで作ったりと練習を積み重ねていきました。そして出来上がったのがTimothyの試作1号です。

ケースはJLCPCBさんのサービスで印刷してもらっています。素材はMJF。熱にも強いのでインサートナットを使うことができます。そのため、スイッチプレートをケースにネジ止めして固定するというトップマウント方式を採用しました。試作1号は裏蓋がないので、中身が丸見えの恥ずかしい子です。

そんな試作1号ですが、ネジ止めしにくいとか、一部はんだ付けできない構造になっているといった、組み立てることを考慮していない設計になっていました。さらに配線が間違っているというしょぼいものもありました。やっぱり、いきなり完成とはいかないですね。

設計時に組み立てをイメージすることが大事だということを学びました。また、基板とかは紙に印刷してサイズやネジ穴の位置が間違ってないか確かめることも重要ですね。そうはいっても3次元形状だと、問題に気付くのは難しいので、最後は失敗前提で発注することになると思いますが。。。

いくつもの問題を抱えた試作1号ですが、特に致命的だったのが、少しだけレイアウトを変えた親指クラスタ!名無しのキーボードよりも親指クラスタが打ちにくい。最適なキーボードを目指して作ってるのにそりゃないよ。。。

試作2号

すぐに不満が噴出してしまったので、新しく試作2号を作ることにしました。親指クラスタの不満解消はもちろんのこと、今回は組み立て易さも考えて設計したつもりでした。そう組み立てるまでは。。。

なんと、基板を立体的に重ね合わせるという謎設計。誰の目から見ての明らかにやばい構造なのに、組み立て易くなった気でいました。

実際、前回よりは多少マシにはなっていたんですが、何台も組み立てることは考えたくなかったですね。。。

試作2号のケースは、この頃調達した光造形式の3Dプリンタで作りました。印刷に失敗しまくって大量のレジンを無駄にしましたが、最終的には満足できる結果となりました!
3Dプリンタは試作3号も含めて大活躍だったので購入してよかったですね。やはり設計中に実物を出力できると、改善のサイクルが早くなります。ただ、光造形方式はレジンのにおいが強烈なため、よく考えてから購入したほうが良いですね。とくに小さなお子さんがいるご家庭は避けたほうがよさそうです。

ちなみに、調子に乗ってchoc版まで作りましたが、こちらは不慮の事故でお亡くなりになってしまいました。残念。。。choc版Timothyもどこかで復活させたいですね~

試作2号は大きな不満もなかったので、半年ほどそのまま使い続けました。

試作3号(最終版)

長く使っていると色々見えてくるもので、試作2号の問題点も見えてきました。一つは自分の使い方だと、親指クラスタは3キーで十分だという点。これは4キーを押し分けようとすると、どのキーを押すのか混乱してしまいデメリットが大きいと気付きました。親指以外も、数ミリ単位ですが、微妙にレイアウトを修正したくなってきました。

試作2号の一番の課題は耐久性。レジンにインサートナットで基板を固定するという構造は無理がありました。熱圧入だとレジンがぼろぼろになったため、瞬間接着剤で固定していたんですが、長時間使っていると、インサートナット毎ネジが抜けるようになってきました。

新たな課題も見えてきたので、試作3号を作ることにしました。さすがにこれだけ試作してると、販売してみようかな?という気持ちも芽生えてきました。そこで、販売を視野に入れて一から再設計することにしました。そのため、試作3号といいつつ、3号の中で何度も試作を繰り返しています。

まず、最初に見直したのが、スイッチプレートの固定方法。レジンにインサートナットを組み合わせるという方法は問題があったので、別の方式を模索することにしました。インサートナットのいらないタッピングビスを採用することも考えましたが、電池交換などで何度もケースを開け閉めすることを考えると、ねじが効かなくなる恐れがあります。そこで目を付けたのが磁石。

トップケースとボトムケースに磁石を仕込んで固定しようという発想でした。これなら、スイッチプレートもトップケースとボトムケースの間に挟んでしまえば固定できます。スイッチプレートとケースの間をクッションで挟むことでガスケットマウントにすることができ、打鍵感も向上させられるという発想ですね。更にケースの開け閉めも簡単で、一石二鳥、いや一石三鳥のアイデアです。

Timothyのケース構造
銀色に見えるのが磁石です。

この構造を採用しつつ、キー配置やデザインも見直していきました。デザインについては、せっかく3Dプリンタでケースを作るんだから自作感がないものにしようという意図で設計しました。自画自賛ですが、余白の使い方などなかなか美しいデザインに仕上がったと思っています。

デザインと並行して、基板設計も進めていきました。何度も試作しなおしたのが、基板間の配線方法とマイコンの配置方法。

基板が増えれば、基板間の配線や固定方法を考えないといけません。何よりも基板が増えるとコストが増える。。。

しかし、今回はキースイッチのホットスワップ対応も行いたかったため、マイコン用の基板はほかの指の基板と独立させることにしました。これには、いろいろな長さの Pro Microに対応するという意図もありました。

制御基板
ケースとは両面テープで固定する

また、ガスケットマウントを採用するにあたり、ガスケットに使うクッションもあれこれ比較しまた。結局、ガスケットマウントによく使われるPoronが一番打鍵感が良いという結論になりました。Timothyでは、スイッチの吸音フォームを兼ねる形でPoron製のクッションを採用しており、ボトムケースを固定しています。トップケースとは、EPDMスポンジというスポンジで固定する構造となっています。

クッションフォーム兼ガスケット

専用パームレスト

ここまでいろいろ作っていると、専用パームレストも欲しくなってきます。試作2号の時も作っていたんですが、試作3号でも専用設計のパームレストを用意しています。このパームレストももちろんこだわっています。

真上から見ると親指クラスタから、少しだけ角度がついています。これも、手を置いたときに、無意識に自然な角度で使えるよう何度も試行錯誤した結果です。

専用パームレストを真上から見た状態

最後に

もうお腹いっぱいですよね?大丈夫。もう終わりです。

ここまで、いろいろなこだわりを紹介してきました。どれも自分の手の形状や好みに合わせたこだわりです。

好みは人それぞれなので合わない人もいるとは思います。ですが、この記事がきっかけでTimothyに興味を持ってくれる人や設計の参考にしてくれる人がいたら嬉しく思います。

今回紹介したTimothyは、年明けの1月中に再販予定です。興味がわいた人は入荷リクエストや、Twitterのフォローをしてくれると嬉しいです。

来年も楽しく自作キーボードライフを進めていきたいですね~
この記事は、もちろんTimothyで書いてます。

明日は、hachi868 さんです。

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