『音楽サロン』にみる「映画修辞学」の全盛

サタジット・レイ監督・脚本『音楽サロン Jalsaghar』
インド, 1958年, モノクロ, 99分, 35mm, ベンガル語
メゾンエルメス, 2008年5月24日(期間:4月19日〜7月5日)

 三十一文字(みそひともじ)の別名をもつ短歌や、世界最小の定形詩といわれる俳句は、その切り詰められた形式のため、表現に工夫を凝らさざるをえない。たとえば「句切れ」。結句以外の句で終止する(句点[。]がつく)場合、そこにも感動の中心があるとする表現方法だ。限られた字数で、2つの中心をもつ「楕円的世界観」を詠む。そのために不可欠なこの技法には、極限の条件で創作をしてきた歌人や俳諧師の「執念」すら感じられる。
 映画の中にそんな「執念」が生きていたのはいつごろまでだろう。いまも生きているかもしれない。ただ、すくなくとも表現の工夫 -- 映画の修辞学 -- の全盛期は1950年代と言ってよい。

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