【デモに参加するだけで1万円】見るからに詐欺のバイトに潜入してみた
ほぼ消えかかっているバイト先から、先日「次はいつ出社なさるんですか?」と催促があった私。次のバイト先を探さなきゃなあと思っていた矢先、知り合いから一つのタレコミがあった。
「頭の狂った富豪が金をバラ撒いているのかもしれない」
彼はそういいながら、下のメールのスクリーンショットを私に送ってきた。
「ワクチンの強制接種反対デモ活動」とのこと。「これが世に言う”反ワク”かあ」と思い、気が乗らないままメールを読んでいくと、ある一文で目が止まった。
「参加してくれた方に足代をお渡し致します」
おまけにその額はなんと1万円だというではないか。どう見ても詐欺である。迂闊に参加したら、個人情報を抜かれた上で身ぐるみ剝がされて東京湾に沈められるかもしれない。そう思いつつも、デモに参加するだけでお金が貰えるという気軽過ぎる誘惑に耐えられない自分の中のダメな部分が出てしまい、友人に紹介してくれるように頼んでしまった。下馬評族のライターをもう一人誘い、いざ突入!
待つこと数日、謎の人物からLINEが来る。
LINEの名前は絵文字で、友人に素性を聞いてみるも「言っていいか確認してみる」とだけ残してその件には触れずじまいだ。これは怪しい。金と政治の臭いがする。この時点で私の心はジャーナリスト、その実ただの金の亡者である。
するとさらに他の人間に「反ワクデモ」というあからさまというか「自覚あったんだ」という名前のLINEグループに放り込まれた。
介在する人間が増えれば増える程に怪しさが増していく。発端としては金が欲しいだけなのだが、それを認めるのは余りに恥ずかしいので「この闇を暴いて記事にするぞ」という建前のモチベーションがフツフツと湧き上がってくる。ここはジャーナリストらしく、徹底的に調査をしてからデモに向おう。
紹介してくれた友人から「恐らくこのイベントのことだろう」とこのビラを紹介された。
誰だかよく知らないが、ジャーナリストから大学教授までそうそうたる面々が訪れ、映画まで撮ってしまうらしい。右側上部の「みどころその2」を見ると、「ミナサンとイッショにデモシマース!」と陽気に呼びかける外国人教授たちが客寄せパンダに使われている。
よくよく見てみると、筆者が浪人中に駿台予備校で授業を受けた有名予備校講師・茂木誠も顔を連ねている。彼は東大世界史における一種の権威で、右翼的思想の持ち主としても有名である。とはいえ講義において生徒に思想を押し付けることはなく「トルコで親父狩りに遭いかけたがその少年を返り討ちにしてガイドをやらせた」などのしょうもない武勇伝を無邪気に語っていた。世界史の論述の添削を二回ほど受けたことがあり、運命のめぐり合わせを感じる。
hw_dungeongreek5i_h_en_120 (youtube.com)
▲デモの当日はこんな動画を撮っている。
ビラから本団体「WHOから命をまもる国民運動」のHPへ飛び、「WHOは194ヶ国に陰湿なクーデターを計画している!」などの文言を交わしながら情報を集めてみると、「よくある質問」というページに以下のような文言が書かれていた。
「Q. Instagramにて、「※9/28の14時から1時間ほど空いてる人いませんか!東京の有明で新型コロナウイルスワクチンのデモ活動あるみたいで、参加したら1万貰えます!やる事は特にないです!友達誘ったら1人2500円渡せます!興味ある人反応ください!」と記載されたストーリが投稿されていました。おそらく上記にあるデモとはこちらの団体のものかと思われますが、実際に1時間で1万円が支給されるのでしょうか。
A. 全くの事実無根です。これは悪質な妨害デマ以外の何物でもありません。このような事実に反する噂を信じないようくれぐれもご注意ください。」
は?
どうやら、お金は貰えないようです。ここまで読んでくれてありがとうございました。いいね、フォローしてくれると励みになります!
この時点で止めようかと思ったのだが、「もしかしたら公式ではバイト代が出ないが、熱心な反ワクの金持ち爺さんが個人で金を配っているのかもしれない」という妄想に近い銭ゲバ根性が私をそうさせない。
金が貰えると信じたい私は、さらなる調査をTwitterにて続けた。この情報の発信源をツイートを検索することで遡ろうとしたのだ。
数多のツイートを選り分けているうちに、全体的にツイートする人物にしろ全体的に水商売か貧乏な学生の界隈に限られていることが発覚した。「だからなんだよ」という話だが、要は金遣いが荒そうな人とお金の無さそうな学生の界隈が発信源らしい。ますます詐欺じゃねえか。おまけに「釣る側」に金が出るという情報を見つけた。「釣る側」に金が出るのかどうかも怪しいところだが、悪意あるデマであるにしても微妙にリアリティがあってますます混乱させられる事態となった。
ここまで調べても、まだ二割くらいお金を貰えるんじゃないかと信じ込んでいる私。しかし、実際に実地に赴くのは面倒くさいというか、金を貰えると信じて釣られたアホを同一視されるのは嫌という謎のプライドも邪魔して中々踏み切れない。同行するライターとわちゃわちゃ話していた所、「「1万円」とデカデカと書かれたスケッチブックを持っていたら誰か寄ってくるんじゃない?」というアイデアが浮上したため、渋々行くことにした。
9月28日、13時の国際展示場駅に到着した。見渡す限り目に映るのは、地べたに座り込む輩と、柵にもたれかかりタバコをふかす輩と、輪になり酒を煽る輩。ここは歌舞伎町のクラブかと錯覚してしまう程、一面に輩が広がっている。全員チャリで来たのだろうか。皆adidasのジャージを着ているため、視界が真っ黒。ゴキブリか、お前ら。たまに彩り豊かな服装が目に入るが、揃いも揃ってピンクの地雷系メイクというかトーヨコキッズである。
あまりこの周辺の地理に疎いので、「あれ、ここは盛り場なのかな?」と思ってしまったが、よくよく見ると散歩中の老人やベビーカーを引いた夫婦などもいる。普段は普通の駅前なのにも関わらず、今日に限ってパーティーピープル達が押し寄せるライブ会場と化してしまっていた。ラッパーのライブでもあるのかなと思ったら、「1万円」「デモ」などという単語が飛び交っており。明らかに我々と同じ「バイト」をしにやってきた若者たちだった。要は金の亡者たちである。確かに生活に困っていそうな顔と頭をしているぞ。
コイツらを見た瞬間、「ここで1万円なんてボードを掲げたら集団リンチされるな」と直感的に気づき、当初の計画は撤回。LINEを見てみると、また新しくLINEグループに放り込まれている。
さすがに行くだけではお金は貰えないらしく、その場で周囲の風景が映った顔写真撮影し、個別に送信する必要があるそうな。
ここで生来の小心者が発揮され、「いや、ここで顔写真送ってまで金を貰ったら、この辺にいる輩と同じになっちゃうよ」と謎の理屈を編み出して自分を騙すことで見事に回避した。同行していたライターもビビり散らしていたので、結局有明まで来たものの、事態の核心には迫らずに終わることに。この時点で、さっきまで燃え盛っていたジャーナリスト精神は保身に潰されて消え失せている。一万円貰えるどころか、千円近くの往復の電車賃のみが我々に課せられることとなった。
これでは余りに空しいからと、同行していたライターと共にデモを最後まで見物し、他の参加者が金を受け取れるか確かめるまでは滞在することにした。先ほど入れられたLINEグルを眺めると、「もう足代は支給できません」との悲しい報告が。
滞在しているだけで1万円相当のプレゼント? 怪しいな。そもそも「弊社」ってなんだよ。とにかく人数をサクラで増やすという魂胆は分かってはいたが、ここまでして引き留めたいらしい。引き留められた所でプレゼントを貰える保証はないが、「もしかしたら何か貰えるかもしれないし、一応残っておくか」という我々のようなアホがうっかり残ったら儲けものだろう。よくできた詐欺である。アッパレと言ってやりたい。
この時点で、我々の心中では完全にこの案件は詐欺扱いだったのと、久々に茂木誠に会いたいと思ったので普通にデモを観光することにした。
これだけ広範囲でサクラを募集しているだけあって、見渡す限り人である。デモ会場までいくと、輩だけではなく本職の活動家っぽいおじいちゃんや家族連れの姿まで見ることができた。ここにいる子供が全員ワクチン未接種だと思うと胸が熱くなる。歩いている途中、日本国旗を着たババアを見かけるなど、輩とは違ったベクトルで凄みを感じる。ステージ上では演奏だか演説だかが繰り広げられており、聞いているのかいないのか、芝生の上に座り込んで人々は見入っていた。
途中、諸外国から訪れた(多分)偉い先生方が何人か英語で講演をする場面があった。揃いも揃って「ニッポンノミナサン、コンニチハー」と言ってくるのでバカにされているのかと思い憤りを覚えたが、細かい所は英語なので何を言っているのか分からなかった。その場にいるほとんどの輩が分からなかったと思う。
デモを見て回っていたら現金受け渡しの時間になったので行くことにした。
行ってみると、案の定地べたに輩が散らかっていた。揃いも揃ってベビーカーを引いているのが彼らの繁殖力を象徴している。私はそんな奴らとは違うんだぞ、と思いながら、最後の瞬間までワンチャン貰えるんじゃないかという自分がいる。一番品性がないのは私だった。
遠目から眺めていると、LINEグループの招集人と思われる若いオニイチャンがやってきて、「金肉」の前で集合写真を取り始めた。「こんなに集まりました」ということで、どこかで使われるのだろう。詐欺に引っかかった輩は哀れだが、自分のリテラシーの無さを呪うが良い。内心ほくそ笑みながら帰路に就いたのであった。
え、マジで貰えたの?
バックレることなくグループLINEは動いている。グループの収集人であるオニイチャンは、デモが終わってから数日たった今なお報酬の分配のために連絡を取り続けている。報酬をばらまいていたのは、この「校長まりも」なる人物の知人らしい。ホスト学校の校長か何からしく、やけにトーヨコキッズや輩が多かったのはそのためだった。人を信じてみるものだなあという勉強になると共に、本当に真っ黒だったのは私の心だということに気づいた、秋の夜の徒然である。
文責【うんこうん太郎】
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追記
デモが終了してもLINEグループは動き続けている。デモ終了から数日は足代の受け渡しの業務連絡が主となっていたが、それからまたしばらくすると以下のような文面が流された。
怪しげな案件紹介が垂れ流され始め、LINEグループの名前も「有益情報不定期発信グループ」に変わった。割のいい案件でおびき寄せて、さらに危ない案件に引き込む手口だな。別のLINEグループからデモに参加した人物から違うグループにおける文面を入手したが、我々のグループにおけるものと全く同じ文面だったので、どのグループにも同じものを一斉送信しているのだろう。