五輪テコンドーを観戦しよう!

 オリンピックのチケットが当たったけど”テコンドー”ってなんだか分からないという方、格闘技好きでテコンドーも見てみたいけどルールが意味不明という方、テコンドーを始めたばかりで競技の見方が分からないと言う方を対象にテコンドーの観戦ポイントを紹介したいと思います。

オリンピックのテコンドーの場合、格闘技や武術や喧嘩と切り離し、そういうスポーツとして捉えてください。将棋に対して「実際の軍隊では、そんな戦術はしない」的なマウントを取らないのと同様に、テコンドーというスポーツの技術に対して「それは実戦的ではない」というのは野暮な物です。

※ この記事で話すテコンドーは五輪ルールのテコンドーであり、ITFテコンドーやATFテコンドーなどの五輪ルールとは異なるルールの競技も存在しますが、此処では触れません悪しからず。

先ずは最低限のルールを抑えよう!

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 テコンドーは一対一で向き合って、互いに相手の防具を蹴ったり殴ったりするスポーツです。相手を掴んで投げたり、寝技に引き込んだりという行為は全て反則となりますのでご注意ください。

 キックは帯から上、パンチは帯から上で首から下の範囲が攻撃可能部位であり、得点の判定は電子防具が蹴りの衝撃を感知して加点していくシステムになっています。

 電子防具の仕組み自体は各メーカーによって異なるのですが、基本は接触センサーと圧力センサーの二種類のセンサーで蹴りによるポイントを判定しています。
 例えば、スペインのDaedo社が開発したシステムでは、選手は足に磁石が入ったソックスを履いており、蹴りが胴の防具に当たるとホール効果によって防具内に電流が流れ、その電流を感知する事で蹴りの衝撃を測定しています。

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 胴部への蹴りが2点、頭部への蹴りが3点、胴部への突きが1点というのが基本的な得点なのですが、回転を伴う蹴り技には追加で2点のボーナスが入ります。得点についてはリオ五輪の時から変更になっているので気を付けてください。

 相手を掴んだり、顔面を殴ってしまったり、帯より下を蹴ってしまったり、場外に出てしまったり、転んでしまったり、反則をした場合には相手に一点が入ります。

テコンドーの基本技

 テコンドーには様々な技が存在します。しかし、オリンピックレベルの試合ともなると、基本技をそのままの形で運用する事の方が少なくなってしまいます。先ずは試合の動画を見ながら、よく使われる基本的な得点技の紹介をしていきたいと思います。

 先ず、一番多く使われるのが「カット」と呼ばれる技術です。
 自分の前足の足裏で相手の胴防具を押すようにして蹴る技で、動画の様に前に出てくる相手を止めたり、相手の攻撃を防ぐ(カット)する為に使われています。胴の防具を的確に捉える事が出来れば、得点になります(2点)。

 次に良く使われる技術が韓国語でトルリョチャギ。日本語で回し蹴りと呼ばれる蹴りです。正面から蹴り上げ、腰を回して足の甲のセンサーを相手の胴防具に叩きつける蹴りです。

 上の動画では先ずは前足のカットで相手を下がらせてから後ろ足のトルリョチャギ(回し蹴り)でポイントを取っています。

「トルリョ」は「回し」、「チャギ」は「蹴り」を意味する韓国語です。テコンドーを観戦してて「あのトルリョチャギ良いね」とか韓国語交じりで言えると通ぶれると思います。道場によっては前を意味する「アプ」を付けてアプトルリョチャギ、アットラチャギ(前回し蹴り)と呼ばれる事も多く、「あのアットラ良いね」とか言えたら完全に通です。

 一番基本的な中段への蹴り技(2点)はカットトルリョチャギ(回し蹴り)です。とはいえ、トップレベルの選手たちの試合で奇麗にカットを一発蹴っただけとか、トルリョチャギを一発蹴っただけでポイントが取れる事は稀です。

 そこで、実際の試合では上の動画の様に蹴り足を下ろさずに連続攻撃で得点をする場面が多く見られます。

 動画ではカットを蹴った後に続けて上段廻し蹴りを蹴るフェイントを入れて相手の意識を上にそらせてから中段廻し蹴りを蹴って得点をしています。

 上級者の試合ほど、高度な連続攻撃が見られるのですが、足を下さずに蹴り続ける事は武術的価値が低い事から、同じ足で下さずに三回以上蹴る場合は4回目で反則が取られてしまいます。

 次に回転を伴う中段蹴り(を見ていきます。上の動画は背中越しに回転して、馬蹴りの様に足の裏で相手を蹴る、ティッチャギという技です。「ティ」は後ろという意味であり、「チャギ」は先ほどと同じで蹴りという意味です。日本語に訳せば後ろ蹴り。主にカウンターで用いられることの多い技です。回転で+2点なので4点の大技です(動画は旧ルールの為に中段1点+回転2点で3点の時代)。

 試合の流れを変える事が出来る蹴りですが、攻めに使うティッチャギは相手に避けられたりカウンターを取られたりするリスクが大きくなってしまいます。そして、それを逆手に取った蹴りが次の動画です。

 上の動画では青の選手は対戦相手(赤の選手)がティッチャギを蹴る事を予測してバックステップして蹴りを避けています。しかし、その青の選手のバックステップを予想していた赤の選手はティッチャギを蹴らずに回転しながら追いかけて蹴りを当てています。

 これはターン蹴りと呼ばれる蹴りです。韓国語では英語名のトルネードが訛ってドルゲチャギと呼ばれていますが、日本では単にターンと呼ぶ人が多い蹴りです。普通に蹴っているだけだと格好つけて回転してるだけだと思われがちですが、回転はフェイントと距離を詰めるフットワークを兼ねています。一見、簡単に避けられそうだったり、当たりそうに思えない様な蹴りであっても、相手の動きを読んで当てると言うのがテコンドーの駆け引きの醍醐味です。

 また、WTFテコンドーでは蹴り終わりや蹴った後に距離が詰まり過ぎて「クリンチ」と呼ばれる状態になる事が有ります。

 この状態では蹴りを出す事が難しい為、消耗している選手は敢えて相手の蹴りをディフェンスしながら距離を潰して、相手も自分も蹴れない状態を作り時間稼ぎをしたり体力回復を測ったりします

 この時、選手は相手を掴んで振り回したり、投げたりする行為は反則となる為、押して蹴りの距離を作るか、自分がバックステップして下がるかしないとクリンチを解く事が出来ません。そんな時に使われるのが上の動画のパンダルチャギ(パンダルは半月を意味する韓国語)です。

 足を振り上げて相手の顔面を外側から内側に蹴り込む技です。相手の顔面を蹴る技の為、3点という大量得点を取る事が出来ます。

 背が低い選手が背が高い選手と試合する時など、せっかくステップで近い間合いに入れたとしても其処には長身選手の鋭いパンダルチャギが待っていたりします。

その他にも3点が取れる上段蹴りにはトルリョチャギ(廻し蹴り)をオルグル(頭部)に当てるオルグルトルリョチャギ(上段廻し蹴り)があります。ただし、こちらの蹴りはレベルが高い選手同士ではディフェンス技術も高くなるので中々当たりません。なので蹴りのコンビネーションや蹴り合いの流れの中で使われる事の多い蹴りです。

また、テコンドーの上段蹴りの中で有名なのはゲームなどでも出て来る踵落としだと思いますが、韓国語ではネリョチャギ(下ろし蹴り)と言います。特に試合では前足からのネリョチャギが多用されており、この蹴り方をロンノと呼んでいます。

最後にボトルキャップチャレンジで流行ったこちらの蹴りは、テコンドーではティフリギもしくはフェッチュと呼ばれています。日本語では後ろ回し蹴りと呼ばれており、ティ(後ろ)トラ(回し)チャギ(蹴り)と呼ぶ人も居ます。

上段3点プラス回転で2点の5点が取れる大技であり、当たりどころが悪い場合はノックアウトしてしまうこともあるダイナミックな蹴りです。

その他にも多数の蹴りがあるのですが、試合で多用されてる蹴りは以上の通りです。上級者同士の試合では基本から逸脱した変則的な蹴りも多いので、注目してご覧下さい。

東京五輪の注目選手

それでは、オリンピック各階級で金メダルを取れそうな選手を紹介していきたいと思います。オリンピックのテコンドーは階級制で男女体重別で4階級ずつ全8階級あります。

男子-58kg級 ジャン・ジュン(韓国)

 男子最軽量級(-58kg級)は韓国期待の新鋭ジャン・ジュン選手が優勝候補の最右翼です。細身の身体ながらパワフルな蹴りを持ち、特に一瞬のスキをついて放たれる精確無比なパンダルチャギで得点の山を築き上げる若き天才です。

男子-68kg級 イ・デフン(韓国)

 男子-68kg級は韓国のベテラン、イ・デフン選手が優勝候補です。まさにテコンドーという技術体系を体現するかのような多彩な蹴り技を持ち、何を蹴っても点が取れるという元祖天才テコンダーです。しかし、過去の二大会では圧倒的下馬評の高さながらも優勝を逃してきました。2019年の世界選手権でも優勝を逃すなど、ここ最近の成績は振るいませんが3度目の五輪こそ悲願の金メダルを期待したいと思います。

男子-80kg級 マクシム・クラムツォブ(ロシア)

 ロシアの若きスーパースター、マクシム・クラムツォブ。2019世界選手権王者でアゼルバイジャン代表のミラド・ベイジに唯一勝ち越しており、長身ながら力強さと軽量級顔負けのスピードが武器の選手で、オリンピックでも金メダルの獲得が期待出来ます。

男子+80kg級 マイコン・デ・アンドラーデ(ブラジル)

 群雄割拠の男子最重量級。正直、優勝候補が多すぎて予想するのが困難なのですが、リオ五輪の銅メダリスト、マイコン・デ・アンドラーデを推したいと思います。正直、ナイジェリアのイスフ・アルファガ・アブドゥルラザクと悩んだのですが、確実に競り勝つ強さを持った選手であり、オリンピックのような負けが許されない大舞台で力を発揮できるタイプだと思います。

女子-49kg級 パニパク・ウォンパタナッキ(タイ)

ここ数年は強すぎて手が付けられないタイの元天才テコンドー少女のパニパクですが、リオ五輪でも惜敗を乗り越え、東京五輪では初の金メダル獲得なるか?女子最軽量級で一番金メダルに近い選手です。

女子-57kg級 ジェイド・ジョーンズ(イギリス)

説明不要のヘッドハンター。ロンドン、リオとオリンピック2連覇中の絶対王者が東京五輪でも金メダル獲得を目指します。全日本テコンドー協会の問題で、榊原師範が「ポールジャーマンみたいな世界の一流コーチを招聘しないと勝てない」と仰ってましたが、そのポール・ジャーマン氏の最高傑作が彼女です(現在は別のコーチの指導を受けている様ですが、、、)。

女子-67kg級 ヌル・タタル・アスカリ(トルコ)

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2017年の世界チャンピオン。一度は現役引退を表明するも撤回して2019年の世界大会では銀メダル。テコンドー大国トルコが誇るレジェンドの復活に期待します。

女子+67kg級 ビアンカ・ワークデン(イギリス)

全日本テコンドー協会のホームページの動画でターン蹴りで対戦相手をノックアウトしてる選手(アーロンクック)の嫁。世界選手権3連覇中の名選手。いまいち戦績のパッとしない旦那の分も東京五輪では活躍して欲しい所です。

まとめ

と言うわけで、オリンピックテコンドーを観戦する上で必要な知識などをまとめてみました。テコンドーの詳しい戦術や歴史、別の流派に関する話は別の記事に書いているので、良ければそちらもご覧ください。