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テコンドーに必要な生命科学の超基礎知識(原子からセントラルドグマまで)

 人間の身体を構成する物質のうち、約20パーセントを占めるのがタンパク質です。例えば、髪の毛を構成するケラチンも人間の目の水晶体を構成するクリスタリンもタンパク質という括りで言えば同じタンパク質です。しかし、身体の様々な部位で使われるタンパク質は全く違う性質を持っており、その種類は人間の身体を構成する物だけで10万種類もあるといわれています。では、タンパク質の違いというのは何によるモノなのでしょうか?

カラダを構成するタンパク質|大塚製薬

 大前提として世界中のありとあらゆるものは原子から出来ていて、例外はありません。あなたの身体も私の身体もアンドロイドも全て分解すると原子に行きつきます。原子は一つ一つの大きさが約0.0000000001メートル($${10^{-10}}$$[m])と、非常に小さい粒粒で、その構造はプラスの電気を持った原子核の周りをマイナスの電気を持った電子がまわっているという非常にシンプルな物です。原子核を構成するのは陽子と中性子で、陽子の数によって原子の種類が決まります。
 例えば、僕らの身体の大部分を構成する水を元素記号(原子を表記するために使われる記号)で書くと$${H_2O}$$と書け、これは水素Hという原子が2個と酸素Oという原子が1個結合した状態で水の分子(原子の結合体のこと)を構成していることを意味しています。
 水素は陽子が1個だけの原子であり、酸素は陽子が8個ある原子です。

 水を除いた残りの人体を構成する原子の内訳は、炭素原子$${_{12}C}$$が50%、酸素原子$${_{8}O}$$が20%、水素原子$${_{1}H}$$が10%、窒素原子$${_{7}N}$$が8.5%、カルシウム原子$${_{20}Ca}$$が4%、リン原子$${_{15}P}$$が2.5%、カリウム原子$${_{19}K}$$が1%で残りはその他の原子で構成されています。この時、元素記号(HやOなど)の左下の数字はその原子が持っている陽子の数を意味しており、これを原子番号と呼んでいます。

 そして、人体を構成するメインの物質であるタンパク質は20種類あるアミノ酸という分子(原子の結合体のこと)を繋ぎ合わせて作られています。アミノ酸の基本的な形は下の図のようになります。

 青で書かれた部分($${NH_2}$$)はアミノ基と呼ばれており、赤で書かれた部分($${COOH}$$)はカルボキシル基と呼ばれています。残るオレンジ色のRの部分なのですが、Rという原子はありません。このRの部分は側鎖と呼ばれる塊でこの部分がアミノ酸の種類の違いになります。

2-3:アミノ酸[amino acid]|ニュートリー株式会社

 この20種類のアミノ酸の並べ方によってタンパク質の性質は決まります。例えば、下の図は血液運搬に関わるタンパク質であるヘモグロビンを構成するアミノ酸がどのような並び方によってできているのかを示したものになります。このように特定のタンパク質を合成するにはアミノ酸の並べ方が厳密に決まっています。そして、そのタンパク質を合成するための配列が記録されているのがDNAなのです。

 人間の身体は物質で見れば、水・タンパク質・脂質などで出来ているのですが、構造で見た場合には細胞と呼ばれる小さな部屋が60兆個ほど集まってできたモノになります。一般的な細胞の作りは細胞の真ん中に核があり、その中に染色体がしまわれており、染色体を構成するDNAには人体を構成する各タンパク質を作るために必要なアミノ酸の並べ方が記録されています。

生物図表オンライン| 浜島書店

 DNAは重要な情報を持っているため、保存性を高めるために二重らせん構造となっています。これは片方の鎖が壊れてももう片方の鎖の情報をもとにして修復ができるという利点があり、情報保持の面では非常に優れています。DNAからタンパク質を合成するための流れをセントラルドグマと呼んでいます。流れは簡単です。まず、DNAの必要な部分を解いてコピーを取ります。そのコピーはmRNA(メッセンジャーRNA)と呼ばれており、これが核の外側に出てタンパク質合成装置であるリボソームの所まで行き、リボソームはこのmRNAにコピーされた情報に従ってタンパク質を合成しています。

 感染症などでよく話題になるウイルスですが、ウイルスは生物と違って単独では自己増殖することができません。したがって、細胞内に自分の身体の作り方が書いてあるRNA(ウイルスの種類によってはDNAの場合も)を注入し、リボソームを騙して細胞内で自分の身体と全く同じコピーを作らせるという戦術を取っています。今話題のmRNAワクチンというのは、設計図のコピーであるmRNAを人間の身体に注入し、免疫系に練習試合を行わせて本番に備えるという仕組みなのですが、全部をコピーするウイルスと違い、一部分(スパイクと呼ばれるタンパク質)だけをコピーさせて模擬戦を行うという仕組みです。

 タンパク質を合成する為には、DNAに記録された配列通りにアミノ酸を並べなければなりません。そこで足りないからと言ってほかのアミノ酸で代用してしまうと全く違うタンパク質となってしまうので代用が出来ません。
 したがって、摂取したアミノ酸のバランスが悪くて一つでも材料が足りなければタンパク質を合成できなくなってしまいます。これを「アミノ酸の桶の理論」と呼んでおり、特にアスリートのように身体を酷使する(タンパク質の分解・合成のサイクルが早い)人にとって、バランスよいアミノ酸接種が大切になります。

タンパク質とは?特徴や種類、体を作る働きについて|グリコ

 アミノ酸には体内で合成できる非必須アミノ酸と体内で合成できない必須アミノ酸の二種類があります。そのうちバリン・ロイシン・イソロイシンを分枝鎖アミノ酸(BCAA)といいます。

 筋肉を構成している必須アミノ酸の約35-40%がBCAAで、筋肉のタンパク質分解を抑制するといわれており、活動する際にはエネルギー源となることから、運動時に摂取すると良いと考えられています。大豆・チーズ・マグロの赤身などに、100 gあたり4-7 g程度と多く含まれているのですが、多くのトップアスリートはBCAAを含むサプリメントを使用しています。

 また、体内で合成できる非必須アミノ酸だからと言って軽視してはいけない物もあります。例えば、グルタミンです。グルタミンは体の中に一番多くあるアミノ酸なのですが、これを摂取することでアスリートにとっては筋肉の分解抑制、消化管機能のサポート、免疫力向上、傷の修復などに効果があると言われています。特に、激しいトレーニングをするアスリートは免疫力が下がるといわれているのですが、グルタミンは免疫力を上げる働きもあります。下のグラフはマラソン完走後の感染症発症率に及ぼすグルタミンの影響ですが、有為に感染症にかかるリスクを減少させていることが分かります。また、傷の修復にも免疫を担当する細胞の働きが必要になりますから、傷の修復効果も期待できます。

グルタミンは筋トレの味方!効果や摂取タイミングについて|グリコ

 グルタミンは多くの食品に含まれているのですが、熱によって変性してしまうという弱点があります。そこで、刺身や卵かけごはんなど、生で食べられる方法だと効率よく摂取できます。ロッキーの生卵一気飲みなども意外とそういう理由があったのかもしれません。