漫画原作「羅刹狩り」第3話


シーン1

前回の主人公の同行者の私室らしいアパートの部屋。
6畳ぐらいの部屋に、PCのモニタ・キーボード・マウスが置かれた大き目のちゃぶ台。
部屋には、万年床、TV、本や雑貨が入ったカラーボックスが有る。
眼鏡は外して、ちゃぶ台の上に置かれている。その近くに、もう1つ、前回付けていたのとは別の、洒落たデザインの眼鏡が置かれている。
ちゃぶ台の上には、焼酎の瓶と、寿司屋に有るような湯呑み、皿の上に置かれた焼いためざし数匹。
部屋の主は、パジャマ姿で座椅子に座って、足をのばし、文庫本を読んでいる。

モノローグ
「悪魔の皮肉……悪魔と楽しむ冗談……か……」
「どう言う事だ? 何が言いたかったんだ、奴は? あいつは……何を知ってるんだ?」

タイトルページ

指の骨が砕かれた方の手を、もう一方の手で覆いながらも、全身から「気」を吹き出している主人公。
「困ったな」という感じで頭をかいているアンタッチャブル・ゼロの後ろ姿。

シーン2

主人公の脳裏に研修生時代の光景(格闘技訓練)が蘇える。
ボコボコにされた顔に恐怖の表情を浮かべ逃げようとする筋肉質の中年男。
片目は潰れて血が流れている。
右手を左手で覆っている。
右足は膝関節が外れ、左足は脛の骨が折れている。
それを額から血を流している真佐木満が面白くもなさそうな表情で見下している。

主人公モノローグ
「同期の中で、成績はともかく才能だけはズバぬけてたのに……『戦士』になる事を嫌がってた、あの野郎」
「ヤツが、わざと放校処分になる為に、戦闘術の教官を再起不能にした……その時に使ったのと同じ手だ」
「だが……あの時のあいつよりも……今のアンタッチャブル・ゼロは手を抜いてるようだ」

シーン3

主人公、無事な方の手でパンチを放つような構え。
次の瞬間、無事な方の手でアンタッチャブル・ゼロに殴りかかる主人公と、無事な方の手と反対の足でアンタッチャブル・ゼロに高い廻し蹴りを放つ主人公の、2つの幻のようなイメージ。

アンタッチャブル・ゼロ
「その手は良くない」

主人公の放ったパンチ、あっさり払われる。しかし、主人公は続けて高い廻し蹴り。
どちらも幻のようなイメージそのままの動き。

アンタッチャブル・ゼロ
「単純なパワーやスピードは上がっても、動きが雑で大振りになる……」
「体の動きも、気の動きもね」
「しかも、気を押えられてないせいで、動きが予測出来る」

主人公の目に映るアンタッチャブル・ゼロ。
だが、その姿が180度回転し、頭が上、足が下になる。

地面に叩き付けられた主人公。
それを見下ろすアンタッチャブル・ゼロ。
「いい加減にしろ。気を暴走させ続けたら、キミの体も無事じゃ済まない」

指の骨が砕けている方の主人公の手の指が、ピクリと動く。
アンタッチャブル・ゼロ
「勘弁してよ」

主人公モノローグ
「羅刹の持つ高速治癒能力を再現した技……」
「しかし……羅刹じゃない人間には、元々、無い能力を気で無理矢理再現したもの……」
「しかも……砕けた骨を元に戻すなんてのは……上級の羅刹でも半日以上かかる筈……」
「確実に後で反動が来る……でも……これしか……」

絶叫をあげ立ち上がる主人公。
もはや、どちらが鬼・異類か判らないような表情。
「もう嫌だ」という感じで、顔に手を当てるアンタッチャブル・ゼロ。

シーン4

車で駆け付けた主人公の同行者。

地面に横たわり気絶している主人公。
皮膚にはシワ。
髪の毛が半分近く抜けている。

それを「やっちゃった」と言いたげな表情で見下ろすアンタッチャブル・ゼロ。

アンタッチャブル・ゼロ
「ごめん、こいつ、ボクがこいつの父親を殺したって思い込んでたみたいで、頭に血が上って、何言っても聞かなかったんで、つい……」

主人公の同行者
「えっ?……まて、あんた、たしか……」

アンタッチャブル・ゼロ、主人公の同行者に紙幣を複数枚渡す。
「この馬鹿の入院先にお見舞いの差し入れしといて。推理小説の『ブラウン神父の秘密』をね。渡す時には『世の中で一番重い罪』の所に栞か何かを挟んどいてね」
「な……何の事……?」

シーン5

病院のベッドに寝ているらしい主人公の目から見た光景。
目が、まだ、ぼやけているらしい描写。
主人公の顔は写さない。

第一話の最後に出て来た背広の男が居る。
「貴様……マヌケか? 貴様を、ここまで育てるのに、どれだけの金がかかってると思ってるんだ?」

主人公
「……」

背広の男
「貴様の体はボロボロだ。日常生活はともかく、戦士としては愚か予備調査でも現場に出るのは無理だ」
「ぶっちゃけ、単純な筋力が、元の半分まで戻れば御の字だそうだ」
「リハビリが終りマトモに歩けるようになるまでの入院費と、『組織』のフロント企業への再就職の世話だけはやってやる。有り難く思え」
「あと、国民年金は納めなくてもいいぞ。支給されるまで生きられる可能性は5%未満だ」
「ついでに、他の入院患者と、専属の医療スタッフ以外とは絶対に口をきくな。やったら、お前の口封じをする羽目になる。これ以上『組織』に手間を取らせるな」

主人公の顔の下半分だけ写る。
ボロボロになった皮膚に涙。
かすかに開く口。

シーン6

歩行器でトイレに行く主人公。
このシーンでは、特に明記なき限り、主人公の顔は描かない。
手足は見る影もなく痩せ細っている。

主人公モノローグ
「他人の事を『何、ムキになってんだ』と揶揄する奴ほど、怒りに呑まれ、怒りに酔いやすい……」
「知識としては知ってたが……俺もそうだったらしい」
「『秀才に徹する事の天才』……教官達は俺をそう評してたらしいが……メッキはあっさり剥れた」

男性用トイレ。
主人公の姿は描かず、水が流れる音。

手を洗う主人公の顔が鏡に写る。
主人公、恐怖の表情。
髪や眉毛が抜けた主人公の顔は、憎んでいた実の父と似たものに変っていた。

主人公
「ち……違う……。奴は……俺の親父なんかじゃない。俺の親父は……」

トイレから主人公の絶叫。
いぶかしげな表情の他の患者や病院スタッフ。

シーン7

暗闇。

謎の声
「緒方亮二君だね?」

主人公の血走った片目
「誰だ?」

謎の声
「君の父親の死に関して、組織上層部の発表に嘘は無い」
「だが、前提となる、ある情報が隠されていると、我々は疑っている」

主人公の血走った片目
「……だから……誰だ、あんた?」

謎の声
「組織内の反主流派と言っておこう……」
「組織は本当に羅刹から人間を守る為のモノだと思うかね?」

謎の声の主らしい初老の男、身をかがめ、寝ている主人公の耳に口を近付け、何かをささやく。
主人公の目、見開く。

謎の声の主
「我々と共に来たまえ。我々には、君にかつての力を……いや……かつて以上の力を与える手段が有る」
「正直に言えば……まだ、成功率がイマイチなのだが……それでも来るのなら……」

シーン8

時刻は朝ごろ。
前回の主人公の同行者、病院の駐車場に停めた車から出る。

バイク・自転車用の駐輪スペースの方から、アンタッチャブル・ゼロが着ていたのと同じデザインのライダースーツとヘルメットの女性的な体型の人物が近付いてくる。
だが、アンタッチャブル・ゼロより小柄で、スーツ・ヘルメットの色も青ではなく明るめの水色。

ライダースーツの人物、ヘルメットを取る。
「緒方の上司の方ですよね? あいつの同期の真佐木と言います」

主人公の上司
「え……? あの……」

シーン9

エレベーターの中

主人公の上司
「おまえらの同期で、あいつの見舞に来た奴、他に……」

真佐木
「わかりません」

主人公の上司
「噂は聞いてる……。戦前から何代にも渡って、戦士を出してきた一族の出身の……『やる気の無い天才』だってな」

真佐木
「天才はやめて下さい。そう言われてた齢の離れた兄達が立て続けに3人死んだんです。一番長生きしたのでも、戦士になって1年半」

主人公の上司
「なるほど……。そう言や、真佐木家は金だけは有るそうだな。2代続けて、退職金でやった投資で大儲けしたとか……」

2人、エレベーターを下り、廊下を歩く。

真佐木
「ええ……1代に1人ぐらい放蕩息子・放蕩娘が居てもビクともしない程度の財産は有ります。そんな一族の家を継ぐ必要のない末っ子だったんで、芸術家か学者にでもなって、好きに生きようと思っていたら……家業を継げそうなのは私1人になってしまった」

主人公の上司
「因果なもんだな……そんな奴に限って、有り余る才能だけは有ったと……」

何故か、病院スタッフが病室の1つの前に集っている。
病院スタッフの横には、食事を運ぶ為らしい台車が有るが、台車に乗っている膳は1つだけ。

主人公の上司
「あの……見舞の者ですが……どうしました?」

スタッフ
「ど……どなたのお見舞いで?」

主人公の上司
「ここの個室の緒方って者の見舞に……」

スタッフ
「居ないんです」

主人公の上司
「へっ?」

スタッフ
「その緒方さんが……病院内のどこにも……」

呆然とする主人公の上司と真佐木。

そのコマに小説からの引用文。

悪魔の心のなかでも、ときには真実を告げることが喜びとなるのです。
それも、真実が曲解されるようなやり方で告げるということが。

G.K.チェスタトン「ブラウン神父の秘密/世の中で一番重い罪」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?