短編小説『おい、本当に居たのかよ?』

民事訴訟で訴えられながら「自分は何日の何時ごろには確実にここに居るという情報が不特定多数にバレると、身に危険が及びかねない」という無茶苦茶な理由で出廷を拒否した男。
だが……?
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」「note」に同じモノを投稿しています。


「あのねえ、ここで呑気に寿司食ってて良いんですか?」
 俺は、依頼人にそう注意した。
「何で?」
「だって、出廷しなかった理由は『居場所がバレたら身に危険が及ぶ』でしょ?」
「そんなの表向きの理由でしょ」
 俺の依頼人は……名誉毀損その他山程の理由で民事訴訟の被告人になっていた……にも関わらず「自分は何者かに狙われており、出廷すると身の危険が有る」という意味不明な理由で法廷に来なかったのだ。
 当然ながら、裁判官と相手側の弁護士は大激怒だ。
「いやあ、それにしても、こんなに美味い寿司、初めてっす」
「ところで、こいつ誰なんですか?」
 俺は、同じ席に居たチンピラ風の若造を指差して、そう言った。
「彼に法廷の様子を匿名blogにUPしてもらってね。うん、俺のフォロワーは、みんな『ほら、やっぱり、相手側は頭に血が上って発狂してる阿呆どもだ』って言ってるよ」
「いや、こんな奴、傍聴席に居ませんでしたよ」
「何、カマトトぶってんすか、弁護士さん」
 ニヤケ顔のまま寿司をパクついてるチンピラ。
「糞フェミどもみたいにお堅い事言わずに、先生も好きなの注文して下さいよ。金ならいくらでも有るんだし」
 その金は……SNS上の支持者どもから集めた寄付金だ。
 ふざけんじゃねえ。
 俺への報酬を値切ったのに、自分は……こんな高価たかい寿司食ってんのかよ?
 そして、俺の依頼人はスマホで寿司の写真を撮り……。
「何やってんすかッ⁉」
「SNSにUPすんだけど」
「貴方、『本当か妄想かはともかく、何者かに命を狙われてると信じていて、迂闊に出歩けない』って『設定』でしょッ‼」
「裏アカだよ、裏アカ。非モテのオタクどもから裁判費用の名目で寄付してもらった金の御蔭で、俺、今、女にモテモテなのよ」
「いやあ、イキルさん、本当に頭いいっすね。あ、ウニの上と大トロの上、追加で注文していいっすか?」
「ああ、どんどん頼みな……ん?」
「どうしたんですか?」
「ああ、クソ。裏アカの方でも、俺、怨み買ってるみたい。弁護士さん、俺も追加注文するかも。寿司じゃなくて、弁護のね」
 いやだよ。
 糞。
 こいつに付き合ってる内に……俺も、とんだ、人間のクズと化しつつあるのが自分でも判る。
 たすけてくれ……。
 ああ、一言、「テメエの弁護なんて、もうお断りだ」と言えりゃいいんだけど……クソ、ネット上に支持者が山程居るクソ野郎と喧嘩したら……多分、俺が所属してる弁護士会に大量の……そして、文面が一字一句同じ懲戒請求が数百とか数千送り付けられる事態になる。
 折角、高級寿司店に来てるのに……味も判らず、酔えもしない数時間……いや、思ったほど時間が経ってなかった。
 苦痛のせいで、時間経つのが遅く感じただけだった。
 店を出ながら、皮肉の1つも言いたくなる。
「ねえ……本当に貴方を狙ってる危いヤカラは居ないんですよね?」
「あははは……弁護士さんセンセイも冗談キツ……あっ」
 その時、ものすごい灯りで目が眩み……。
 ようやく、モノの輪郭が判別出来る程度に回復した時には……俺達目掛けてダンプカーらしきモノが突っ込んで来て……。
弁護士さんセンセイごめん、さっき、裏アカの方に殺害予告が……」
 解説ありがとう。
 でも、俺を盾にしたって、あんたも助かりそうにな……うぎゃぁ〜ッ‼

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