短編小説『因習村じゃないっぽいけど日本一怖い村』

メンバーの1人の故郷を因習村に仕立て上げてPVを稼ごうと目論む動画配信者グループ。
しかし、例によって例の如く何かがおかしい。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」「note」に同じモノを投稿しています。


 いや、ここ、どう考えても「因習村」だろ。編集トリックとかで、「因習村」に仕立て上げる必要すらねえよ。
 仲間の1人で、ここの出身の今村は「どこにでも有る普通の町だし、何だったら、1人当りの納税額は隣のT市より上で、『大人の事情』で市にならずに町のままなんだ」って、言ってるけど……。
「朝飯の用意が出来たズラ。食ってけろ」
「あ……どうも……」
 昨晩から泊まってるのは、今村の実家。
 今村のお袋さんが俺達を起こしに来てそう言った。
 台所に行ってみると……白米の筈なのに、妙にくすんだ色で……炊き立ての筈なのに、何故か微かに何とも言えない臭いがするご飯。
 どろりと妙に粘度が有る赤黒くて具が入ってない味噌汁。
 白菜の漬物をポリポリと噛ってみても……塩味しかしない。漬物にかけた醤油も……色は異様に濃く、そして味の方は……。
 おい、九州の連中って、キッ○ー○ンとかヤ○サとかを「黒い塩水」って馬鹿にしてたよな?
 こっちの醤油こそ、「黒い塩水」じゃねえか? 醤油らしい匂いも味もしない。
「高広から、まだ、こっち来んのに時間がかかりそうだって連絡が有っただ。下手したら、今日の夕方になりそうだとか言ってたズラ。まぁ、のんびりしていけや」
 今村の親父さんは、飯を喰いながら、そう……。
 ズズズズズ……。
 あ……妙に鼻声だと思ったら……でも、食事中に鼻をすするかね?

 ちょっと外に出たら……村の人間が俺達に向けるのは「何だ、この他所者よそもの」って感じの表情。
 昭和四〇年代ごろにタイムスリップした感じだ。
「やなとこっすねえ……」
「おい、小さい声で言え」
 俺はカメラマンの望月に、そう注意する。
 その時……。
 ブブブブブ……。
 スマホから着信音。
「えっ? 今村?」
『おい、お前、今、どこに居る?』
「どこって……お前の実家の辺り……」
『昨日の夜にUPした動画の場所……あれ、どこだ?』
「どこって……お前の実家の少し手前あたりの……」
『少し手前って、具体的にどの辺りだ?』
「いや、だから、お前の実家が有る、いかにもな有りがちな因習村っぽい集落とこの……1㎞ぐらい手前……」
『因習村って何だ? 1㎞ぐらいだと? 1㎞は1㎞でも、ウチの実家は、快速が止まる駅まで1㎞のとこだぞ』
「な……なに言って……? 途中に線路っぽいモノは見当らな……」
『あの動画を撮った時点で何か変だと思わなかったのか?』
「おい、まだ、変なとこが有るのか?」
九州こっちに来る前に地図見せたよな? ウチの実家の辺りって、山沿いの西のふもとだったろ? なのに、何で、山の方に夕日が沈んでるのに変だって、気付かなかったんだ?』
「あ……。ああ……でも、お前こそ、どこに居るんだ?」
『俺の実家だ』
「いや、でも、お前の親父さんが『高広から遅くなるって連絡が有ったズラ』とか言ってたぞ」
『大学の頃からの付き合いなのに、忘れたのか? 俺の親父は5年前に、俺のお袋は2年前に死んだ。俺の実家に住んでんのは姉夫婦だ。あと、何で、九州の人間がインチキ東北弁使う?』
「お……おい、待て、だったら、ここは……一体全体、どこ……?」
『訊きたいのは、こっち……』
 その時……。
 轟音。
「ぐえっ?」
 続いて望月の悲鳴。
「あ……あ……あ……あ……あ……」
 倒れた望月は……まだ死んでないけど……どう考えても助かりそうにない傷を負って、もがき苦しんでる。
 気付いた時には……周囲には散弾銃を手にした能面っぽいモノを被った連中が何人も……。
 待て……。
 だから、ここ、どこなんだよ?
 あと、誰か助けて……。
「因習村へ、ようこそズラ。残り短かい人生だけんど、せいぜい、楽しんでけろ」

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