中編小説『冒険者ギルド「が」追放されたんで、別ギルドに移籍してランキング1位を目指します!!』最終章

全てはドン詰まり状態。
元冒険者達は危険人物として一般市民に狩られ、正論を言う者は元冒険者と同罪と見做され火炙り。
そんな町から、逃げ出そうとする主人公だったが、意外な形で最低最悪の町の英雄に……なったはいいけど……?

「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

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第4章:ダークナイト

(1)

「やめろ、やめるんだッ‼」
「うるせえッ‼」
「クソ冒険者を殺せ〜ッ‼」
「殺せッ‼」
「殺せッ‼」
「殺せッ‼」
「殺せッ‼」
 何で……こんな事になってしまったんだろうか?
 「自分は闇堕ちして魔族になったと思い込んでる元・冒険者」じゃなくて、本当に半人半魔としか言えないナニかになった冒険者が町中に出現して、まだ2日。
 半人半魔の改造人間に変わり果てていた「暁の騎士」イキールが死んだ場所は……高濃度の闇の魔力……いわゆる「邪気」「瘴気」に汚染され、立入禁止区域となってしまった。
 あの時を境に……元・冒険者は「正義の味方にブチのめされる雑魚モンスター」から「危険人物ども」へと変ったのだ。
 そして始まった。
 善良な一般市民による「冒険者狩り」が……。
 当然ながら「冒険者が井戸に毒を入れてるのを見た」という定番の噂も広まっている。
 流石にこの都市まちから逃げ出すべきだと思って、荷物をまとめて家を出た途端……冒険者と間違われた誰かが、善良なる一般市民サマ達によって火炙りにされかけている場面に出喰わした。
 無視だ、無視。
 スーパーヒーローギルド所属の三下ヒーローが、善良なる暴徒達から冒険者に間違われた哀れな男を庇っている。
 本当に嘔吐が出る。
 全く、スーパーヒーロー様って奴は、御立派な事で……。
 僕は、現実主義者なんで、冒険者と勘違いされた可哀想な誰かが消し炭になってる間に、この都市まちから逃げ出させてもらう。
 ……ああ、待てよ、途中で、適当な誰かを指差して「こいつ冒険者だぞ‼ 昨日の夜中に井戸に毒を入れてたのを見たぞ‼」とか叫べば……もっと逃げ出し易くなったりするのか?
「違う、こいつは冒険者なんかじゃない」
「あ〜、この辺りの自治会長ですが、エビデンスを出して下さい。エビデンスが無ければ、貴方も冒険者の一味と見做して火炙りです」
「いい加減にしろ〜ッ‼」
 その怒りの声には……聞き覚えが有った。
「冒険者なら殺していいのかッ⁉」
 冒険者ギルドに所属してた頃に僕たちのパーティーよりランキングが1つ上のパーティーのリーダーだった「光の剣士」シャロルの声だ。
 善良なる暴徒の皆様は……その一言で我に返ったようで、一瞬だけ鎮まり……そして、ザワザワと……。
「何言ってんだ、このメスガキ?」
「殺していいに決ってるだろ」
「冒険者と間違って誰かを殺したって……町を守る為だ。逮捕されたって、その内、恩赦で娑婆に戻って来られる」
「うんうん、前にも、そう云う事が有った」
「あ……こいつ……見た事が有るぞ。こいつも冒険者だ」
「まぁ……メスガキだから、殺さずにわからせるだけで勘弁してやろうぜ……ゲヘヘヘ……」

(2)

「大丈夫だった……?」
 シャロルと……そして、一緒に居た魔法使いのジュリアの服はボロボロになって、路上に横たわっていた。
 いや、ゴミのように路上に放置されてると言った方が正確かも知れない。
 例によって、例の如く、小説投稿サイトの規約で詳しくは説明出来ないが、読者の皆さんの御想像の通りか、もっと酷い目に遭ったのだ。
 冒険者と間違われた男と、それを庇ったスーパーヒーローは……善良なる市民によって、火炙りにされた。
「大丈夫……慣れてるから……冒険者ギルドに居た頃から……日常茶飯事だから……」
 シャロルは、そう言っているけど……焦点が合ってない目には涙を浮かべ……。
「大丈夫……私が付いてるから……」
 魔法使いのジュリアは……シャロルを抱き締める。
 こっちも、ほとどんど条件反射みたいなモノらしく……目は死んだまま。
「何で……」
 ジュリアは僕の方に目を向ける。
「えっ?」
「何で、自分の身が安全な時になって、ノコノコ、善人ぶって出て来るんですか? この偽善者ッ‼」
 ドゴオッ‼
 無数の「魔法の矢」が放たれ……。
 でも、威嚇だった。
「あんたは、いつもそうだッ‼ 二度と……私達の視界に入るんじゃねぇ、この現実主義者にんげんのクズがぁぁぁぁ〜ッ‼」
 うわああ……何で何で何で……僕の方が怨まれなきゃいけないんだよッ?

(3)

「うそだろ……」
 城壁で囲まれた、この都市まちと外を繋ぐ門の1つ。
 そこまで辿り着いたは良いけど……。
 またかよ……。
「た……すけて……」
「ころして……くれ……」
 「暁の騎士」イキールと同じように、半人半魔と化した元・冒険者が……今度は複数人。
 あの時と同じように、頭には「呪われた作り物の角」を埋め込まれ……筋肉が異常に肥大化して……とんでもない量の闇のオーラを放ちながら……。
 またしても、肥大化し過ぎた筋肉のせいで、逆にロクに動けなくなり……戦士系らしいのは武器を、魔法使い系らしいのは「魔法の杖」を足下に落して……でも、足下に落ちた武器なんかを取る事さえままならないようだ……。
 顔には、とんでもない苦痛の表情。
 魔法使い系も、その苦痛で魔法を発動するのに必要な精神集中が出来ないっぽい。
 前回と同じなら……殺すのに何日もかかるだろう。
 僕は、すごすごと……道を引き返す。
 この都市まちと外を繋ぐ門は他にも有る。
 そこから出ればいいだけだ。

(4)

 当初の目的地だったのとは反対側の都市まちの城壁の門に向かっている途中、広場を通りがかった。
 ここでも「祭」が開催されてるようだ。
 並の人間の身長の倍ぐらいの高さの丸太。
 その周りには……薪と……冒険者を庇おうとした阿呆どもの死体。
 いい気味だ。
 いつも、こういう結末なのに、脳内御花畑の阿呆な善人どもは、その事を判っていない。
 まぁ、「正義の暴走」ってヤツをやらかした報いを受けただけなんで……同情する必要なんて無い。
 背中合わせで丸太に縛り付けられてるのは……丸裸にされたシャロルとジュリア。
 ざまあ見ろ。
 僕が親切にしてやったのに……ヒステリー起こして、あんな事を言ったから、こんな目に遭うんだ。
 けけけけけ……♥
 今更、泣いて許しを乞うても、もう遅い。
 うきゃきゃきゃきゃ♪
 あの世で仲良くレズってろ、クソ女どもが……。
 だが、この世では、レズはわからせるか……わからせ失敗したら殺されるかのどっちかだ。
 もっとも、あの2人は……既に散々、物理的わからせをされたらしく……もう意識も朦朧としているみたいだ。
 僕は……この「祭」の主催者らしい一団の元に行った。
 あれ?
 何で、この人達、僕の顔を見て……何か、関わっちゃいけないモノに間違って関わっちゃったような表情になったんだろ?
「あ……え……えっと……な……何かね?」
「あの……僕に、最初に火をけさせてもらえますか? あのクソ冒険者どもに怨みが有るんです♪」

(5)

 あははは……。
 かつての仲間を生贄に捧げる事で、僕は、この都市まちの英雄になった。
 芝居や吟遊詩人のうたの定番パターンだ。
 何かを犠牲にせずに英雄になれた者なんて居ない。
 見たか、これが現実主義ってヤツだ。
 シャロルとジュリアが炎に焼かれる悲鳴を聞いて……思わず(下品過ぎる表現につき自粛)しそうになった。
「いくぞ〜ッ‼ 祭は始まったばかりだ〜ッ‼ 冒険者どもの生き残りを全員焼き殺すぞ〜ッ‼ クソ冒険者を庇う奴らも同罪だぁ〜ッ‼」
 僕に従う群集から、盛大な喜びの声。
 まずは……僕達は……この都市まちの城壁の門の1つに向かった。
 思った通りだ。
 スーパーヒーローギルドや退魔師ギルドの阿呆どもは、半人半魔になった冒険者達を、まだ、倒せていなかった。
「待て、おい、危険だぞ」
 1人1人は奴らが強い。
 でも、こっちには数の暴力が有る。
 善良なる暴徒どもは、スーパーヒーローどもや退魔師どもを叩きのめす。
 しかも、奴らは、脳内御花畑の阿呆な理想主義者だ。
 暴徒化していても、一般市民に手は出せない。
 ざまあみろ。
 正義の阿呆どもは、理性的な現実主義の前に撃退され……。
 僕達は半人半魔化した元・冒険者の周囲に薪を積み上げ……油をかけ……。
「死ね〜ッ‼」
「うぎゃ〜ッ‼」
「うぎゃ〜ッ‼」
「うぎゃ〜ッ‼」
 燃えろ……燃えろ……燃えろ……人間の屑の冒険者どもが……。
 けけけけけ……。
 あれ?
 僕も冒険者じゃ……。
 変だ……。
 僕が、これまで、冒険者として何をやってきたか……何も思い出せない。
 まぁ、いいか。
 大した事じゃない。
 大事なのは未来だ。
 これからは……冒険者ギルドも、スーパーヒーローギルドも退魔師ギルドも最早不要だ。
 この都市まちの英雄は……僕1人でいい。

(6)

 どうやら半人半魔化した冒険者は、この都市まちと外の街道を繋ぐ城門全ての前に出現していたらしい。
 僕達は、それを1つ1つ焼き殺していった。
 人間の屑である冒険者どもや、その人間の屑をブッ殺すのに手間取っていたスーパーヒーローギルドや退魔師ギルドの無能どもが焼き殺される度に……僕に従う善良で理性的で現実主義者の暴徒の皆さんは喚声をあげてくれた。
 すごい……一体感を感じる。
 これまでの人生で感じた事がないほどの熱い一体感を……。
 風が吹いている。
 僕と僕に従う群集達に追い風が……。
 その風は……炎を更に燃え上がらせ……この都市まちの病を焼き滅ぼすんだ。
 うけけけけ……。
 って……あれ?
 何で……もう日が暮れてから随分経つのに……こんなに明るいんだ?
 あ……まさか……。
 その時、鐘の音が鳴り響く。
「え……と……これ……何の鐘?」
 僕は、群集の1人に訊いた。
「火事です……。火事を報せる鐘です」
 あ……。
 シャロルとジュリアの処刑。
 半人半魔と化した冒険者を焼き殺した時。
 えっと……まさか……全部……火が燃えてるまま放置プレイだったのか?
「あ……ありがとう……」
 その時、炎の中から声がした。
「えっ?」
「俺達を……殺して……くれて……ありが……とう……」
 燃やされてる半人半魔の元冒険者の声……。
 な……何を……言ってるんだ?
 苦痛で頭がおかしくなったのか?
「あ〜り〜が〜と〜ぉッ‼」
「あ〜り〜が〜と〜ぉッ‼」
「あ〜り〜が〜と〜ぉッ‼」
「あ〜り〜が〜と〜ぉッ‼」
 感謝の大合唱と共に……とんでもない量の闇の魔力が吹き出す。
 あ……「暁の騎士」イキールが死んだ場所に残留してるのの……何倍……いや、下手したら十倍以上の……邪気・瘴気。
「うわああああ……」
 炎は四方八方に飛び散り……。
 あはははは……。
 とんでもない量の闇の魔力の爆発で……。
 開いた……。
 何か……地獄か奈落か魔界か冥府か知らないけど……ヤバい世界への「門」が……。

(7)

 冗談みたいな状況だった。
 火事は、何故か突然吹き荒れた季節外れの吹雪によって消し止められた。
 しかし、都市まち中の少なくない建物が燃えてしまい……そして、都市まちと外の街道を繋ぐ門全部の真ん前に、剣呑ヤバい異界への門が開いて、そこから本物の魔物フィーンドが溢れ出している。
 対抗出来る筈のスーパーヒーローギルドや退魔師ギルドは……善良な市民の皆様の手で壊滅状態。
 早い話が、魔物の巣窟と化した、この都市まちを元に戻す手段も、この都市まちから逃げる手段すら無いって事だ。
 この都市まちの歴史で、何度も他国や外敵から、市民を護ってきたらしい城壁は……今や、牢獄の壁だ。
「うわああああッ‼」
「やめて……」
「たすけて……」
 僕は……絶叫をあげて……目の前の獲物を斬り殺す。
 聖騎士パラディンの証である聖剣で倒したのは……婆ァと……その孫らしい幼女。
 でも、生きる為には仕方ない。
 婆ァの肉は固くて食えたもんじゃないけど……ああ……あと何日かは……柔らかい上等の肉が食える。
 誰にも渡すもんか……。
 この肉は僕のだ。
 僕だけの幼女肉だ。
 あははは……。
 生でも噛み切れるほど柔らかい幼女の肉を、ナイフで切り取り、口に運ぶ。
 暖い。
 どこぞの魔物フィーンドが起こしたらしい猛吹雪の影響は、まだ、残っていて、気温は冗談みたいに低い。
 でも……幼女肉の栄養が……僕に、寒さに立ち向かう力を与えてくれる。
 生き延びる……生き延びる……どんな事をしても、生き延びてやる……あははは……。
 僕の為に命を捧げてくれた……この名も知らぬ幼女の為にも……。
 へけけけけ……。

(8)

「居たぞ、あいつだ‼」
 僕が路地裏で楽しく食事をしていると怒号……。
 そこに居たのは……。
 誰だっけ?
 4人ほど居るけど……。
 どこかで見た気がするが、思い出せない。
 何か、殺気立ってる。
 手には……棍棒やら丸太やら包丁やら……。
 その内の1人が笛を吹き……僕は路地の反対側に逃げるが……。
「居たぞッ‼」
 ああ、クソ。
 そっちにも……。
 僕は、何も悪い事してないのに、理不尽にも何者かに狙われてるらしい。
「はい、パス」
 僕は、とっさに、その1人に、あと数日分の食料を投げ渡す。
「えっ?」
 何、呆然としてんだよ?
 この状況なら、人肉ぐらいみんな食べてるだろ。
 頭が真っ白になってるらしい悪者その1の脳天に聖剣を叩き込む。
 ドサ……ッ‼
 一撃で死んだそいつは……大事な幼女肉を地面に落し……。
 あれ?
 聖剣が頭から抜けない。
「この野郎ッ‼ 食い物を粗末に扱うなぁッ‼ 僕の肉だぞ〜ッ‼」
 僕の聖剣を咥え込んでる死体に説教しながら蹴りを入れ……。
 聖剣は引き抜けたけど……僕もバランスを崩し……。
 しかも……。
 滑った。
 ここんとこの異常気象で、たまたま、足下が凍り付いてた。
「うわっ‼」
 あははは……神様は聖騎士である僕を見捨てていなかった。
 たまたま、僕の後頭部が、背後に居た別の暴徒の顔面に激突したようだ。
 僕は、左手で後頭部を押さえ……振り向きざまに、暴徒その2の頚動脈を切断……あっ……。
 距離が近過ぎた。
 命中したのは、聖剣の刃ではなく、鍔。
 でも、結果オーライ。
 首筋に鍔がめりこんで大ダメージ。
 でも……。
 クソ、見苦しいぞ。
 とっとと死ね、この屑人間がッ‼
 そいつは僕の右腕を掴む。
「うわあああ……ッ‼」
 僕は屑野郎の腹を蹴る蹴る蹴る蹴るッ‼
 でも、屑野郎は、死んだまま僕の腕を掴み続けている。
 ドゲシッ‼
 後頭部に棍棒か何かの一撃。
 ドゲシッ‼
 ドゲシッ‼
 ドゲシッ‼
 殴られる、殴られる、殴られる、殴られる。
「殺すんじゃねえぞ。邪悪騎士ネガ・パラディン様は、生きたまま連れて来いと言ってらっしゃる」
 意識は……朦朧……。
 どうやら、僕は……地面に倒れてるらしい。
 だけど……まだ……。
「えっ?」
 暴徒どもが油断してる所で、聖剣の治癒能力を発動。
 油断してた暴徒の股間に聖剣の一撃。
「うぎゃあああ……」
「うりゃあ、うりゃあ、うりゃあッ‼」
 最早、斬ると言うより殴る殴る殴る。
 僕は、周囲の暴徒どもを聖剣で殴り続ける。
 邪悪な暴徒どもは……聖騎士である僕の奮戦ぶりを見て怯えてるようだ。
 でも……。
「おりゃあッ‼」
 暴徒の1匹を聖剣で殴った途端……。
 あ……っ。
 手まで血糊だらけになってたせいで……。
 滑った。
 聖剣が手から離れ……。

(9)

「おっと」
 暴徒の1人が、宙を舞った僕の聖剣を掴んだ。
「返せ……僕のだぞ、それはッ‼」
 ドゲシッ‼
 ドゲシッ‼
 ドゲシッ‼
 ドゲシッ‼
 暴徒どもは卑怯にも武器を失なった僕を攻撃。
 僕は……再び倒れかけ……。
「ぎゃあああ……」
 とっさに、目の前に居た男の股間を握る。
 更に力を込める。
 僕が去勢してやった男の手から……握っていたトンカチが落ちる。
「ぐえっ‼」
 ボクは、そのトンカチを取ると、別の男の足に叩き付け……。
「でりゃあッ‼」
 僕は立ち上り、周囲の暴徒どもをトンカチで殴る殴る殴り続ける。
 ぎゃははは……。
 これが主人公補正ってヤツだ。
 ある者は脳天をカチ割られ……他の奴も脳天をカチ割られ……次の奴も脳天をカチ割られ……。
 暴徒どもは、次々と戦闘不能になり……。
 残るは……僕の聖剣を持って……あ……逃げるな。
「返せ〜ッ‼ 僕の聖剣だぞッ‼」
 そう言って、僕は、トンカチを投げ……。
 トンカチはコソ泥野郎の後頭部に命中。
 コソ泥野郎は地面に倒れ伏し……。
 ぎゃははは……僕の完全勝利。
 暴徒どもは、全員倒した。
 ん?
 何で、コソ泥野郎が握ってる僕の聖剣が光ってる?
 おい。
 聖剣の力を引き出せるのは……聖騎士だけの筈だぞ。
 待て。
 それも……今日は……残り2回しか使えない筈なのに……その2回分を使い切ったぁッ?
 苦労して倒した暴徒たちは……全員じゃないけど……聖剣の治癒能力で、ヨロヨロと立ち上がり始めた。

(10)

「待ちやがれ〜ッ‼」
 逃げる。
 逃げる。
 逃げる。
 ひたすら逃げる。
 何故だ? 何故だ? 何故だ。
 何故、僕の聖剣の力を……どう考えても聖騎士の資格なんてなさそうな暴徒が発動出来たんだ?
 おかしい。おかしい。おかしい。
 お……おかしい事は……他にも有る。
 な……なんで……何年も冒険者をやってきた筈の僕が……たった、これだけ走ったぐらいで、息切れを起こすんだ?
 うわっ?
 また、足を滑らせて……コケる。
 ゴキっ。
 思わず地面に右手を付いたと同時に……変な音。
 そして、肘や肩に激痛。
 ウソだ。
 聖騎士である僕の人生の終り方が……こんなマヌケなモノの筈が……。
「うわあああ……ッ‼」
 右腕が痛みで動かなくなったんで……左手だけで予備の武器のナイフを抜こうとするけど……片手、それも利き手じゃない方の腕なんで巧く抜けない。
 ついさっきまで食事に使ってたナイフ。
 ああ……あの幼女肉も、今頃、どこかのコソ泥のモノになってるんだろうなぁ……。
 あははは……。
 僕の冒険の旅の終りが……こんなのなんて……ん?
 思い出せない。
 何でだ?
 頭を打ったせいか?
 僕は冒険者だった筈だ。
 なのに……僕が今までやってきた冒険を何1つ……思い出せない。
 おい……冗談じゃない。
 僕は……誰なんだ?

(11)

 この都市まちに出現した魔物フィーンド達同士で、勢力争いが起きて……その勝者になったのは……邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンを名乗る奴らしかった。
 そして、僕は何故か、その邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンとか言う奴から指名手配されていたそうだ。
 この都市まち魔物フィーンド達の巣窟になる切っ掛けになった、あの夜の火事……それを起こした奴を生きたまま連れて来いと……。
 ああ……。
 ほんの数日前の事なのに……遠い昔みたいだ。
 自分がやった事の……筈……なのに……自分がやったって実感が無い……。
 あれ?
 ここは……?
 かつての冒険者ギルド本部。
 僕を連行した暴徒達は……ゴブリンから、大金が入ってるらしいズダ袋を受け取る。
 金なんて……この状況で何の役に立つか判んないけど……。
「言ッタダロ……出来損ナイノのっぽガ……オ前ハ……所詮……出来損ナイダ。出来損ナイノ癖ニ、下ラナイ夢ヲ見タ神罰ダ……。俺達ヲ『ざまぁ』出来ルトデモ思ッタカ?『ざまぁ』スルノハ俺達ダ。『ざまぁ』ッテノハ、オ前ミタイナ出来損ナイジャナクテ、俺達ミテェ〜ナ、マトモナ人間ノ方ガヤルモンナンダヨ……ケケケケケ」
 縛られたままの僕を……この建物内のどこかに連れて行こうとしているゴブリンは……意味不明な事を言っている。
「な……何を言ってるんだよ? 人間って言うのは僕みたいなのの事で……お前は……ゴブリンだろ」
「違ウ。忘レタカ? 俺達ノ村デハ……俺達ミタイナノガ、マトモナ人間……オ前ハ……神様ニ引キ取ラレル事ガ無イ欠陥品ダ」
「神様? どんな神様だよ?」
「ココガ……神ノ館。神ニ選バレタ、まともナ人間ハ……ココデ……新シイ姿ニナリ、神ニ仕エルシモベトシテ、崇高ナル御役目ヲ担エル。ソシテ、御役目ヲ果タシテ死ネバ、天国ニ行ケル。ダガ、欠陥品トシテ生マレタオ前ハ……欠陥品ノママ死ニ地獄ニ堕チルダケダ」
 何を……言ってるんだ……。
 いや……何かが……。
『冒険者になってランキング1位になる? 夢見てんじゃね〜よ、ばぁ〜か♪』
 突然……頭に浮かんだのは……子供の頃の記憶。
 僕をいじめた奴を見返ざまぁしてやる為に……冒険者になった筈……。
 でも……記憶の中のいじめっ子達の体は……。
 小さい……。
 何で……?
 何で、僕よりも小さい奴らが……いくら集団とは言え、僕をいじめる事が出来たんだ?
 いやだ……。
 だから……僕は……誰……?
「連レテマイリマシタ」
「そいつだけ、この部屋に入れて……お前は下がれ」
「ハイ……」
 ギルド本部の地下の一室。
 どうやら、ここが……僕の……冒険の……旅の……人生の終着点らしい。
 そこに居たのは……。
 3人。
 人間? 人間とエルフ? 何で、魔物フィーンドじゃない奴らが……魔物フィーンド同士の内輪揉めの勝者なんだ?
 1人は顔まで隠れる鎧に腰にはサムライのカタナ風の曲刀。
 1人は……如何にもな「聖女」風の格好の人間の若い女。
 もう1人は……魔法使い風の格好の若いエルフの女。……って言ってもエルフなんで実際の年齢は知れたモノじゃないけど……。
「あ……あ……え……えっと……どこかで見たような顔……」
 そう言った奴が……おそらく、邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンを名乗ってる奴なんだろう……。
 でも……その口調は……威厳もクソもないマヌケな……何か……混乱してるような声。
「おい、シュネ……ローア……何で……こいつの顔は……」
 待て……その名前は……。
 邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンらしき男は兜を取った。
「ど……どうなってんだよ? 何で……こいつの顔……?」
 兜の中から出て来た顔は……顔は……顔は……ああああ……そ……そんな馬鹿な……。
 聖女風の姿の女は……聖女らしからぬ舌打ち。
「ま……まさか……手前てめえだったとは……
「おい……ローア、何を言ってる。俺の2号機? ドワーフじゃあるまいし……」
「お前、本当に底抜けのマヌケだな……。小人症の人間をドワーフやゴブリンに改造して、使い捨てにするような組織が……普通の人間を使い捨てにしないとでも思ったのか」
 その時、エルフの魔法使いが……邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンだか……もう1人の僕だかの頭に手を置いた。
「ふにゃっ?」
 ドタン……。
 邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィンだか……もう1人の僕だかは……マヌケな声と共に……床に倒れた……。
「あの……お姉様……こいつ、精神操作のかけ過ぎで、脳味噌ブッ壊れかけてんで……」
「判ってるわよ。でも、丁度良かったじゃない。代替機が、ここに居る」

エピローグ

The Man from Nowhere

「ちょ……ちょっと待って……そ……それ……まさか……」
 僕と同じパーティーのメンバーだった筈のシュネとローア……。
 そう名乗っている2人に会ったはいいけど……わからない。
 本物のシュネとローアなのか……何かの理由で、そう名乗っている別人なのか……。
 そして……やっぱり……思い出せない。
 シュネとローアの顔やしゃべり方の特徴……何も……。
 冗談じゃない。
 やっぱり……。
「僕は……『聖騎士ロンメル』なの……」
「そうだよ。2号機だけど」
「2号機?」
「『聖騎士ロンメル』ってのは芸名。あんたの前任者は……精神操作で記憶を封じてるとは言え、マズい事を知り過ぎてた。だから、新しい『聖騎士ロンメル』を。たまたま、良く似た顔のが手に入ったんでさ……魔法の美容整形で初代そっくりの顔に変えて、自分が『聖騎士ロンメル』だって偽の記憶を植え付けてね」
「な……何で……そんな事をする必要が有るの?」
「ま……色々とね。半分は冒険者ギルドの都合、半分は……あたしとお姉様の都合」
「ね……ねえ……芝居みたいに、悪役が自慢気に自分の悪事の詳細を説明してくれたりとか……」
「あんたは急拵えの2代目『聖騎士ロンメル』なんで、あたしらが今までやってきた悪事を自慢気に説明してやっても……それを理解するのに必要な前提知識が無い」
 僕は……ベッドに縛り付けられ……これから、あのみじめに死んでいった元冒険者達と同じ半人半魔の改造人間に変える為の手術を受ける所だった。
 手術用具は……2種類しか無い。
 頭に穴を開ける為のドリルと……作り物の……でも、呪われたマジックアイテムである「角」。
「作り物の角を頭に付けて、自分は魔族になったと思い込んで、町中で暴れた馬鹿が居たんで、それをヒントにしたんだ。いいアイデアだろ?」
「で……でも……その角付けたら……」
「大丈夫、改良型だから、前のヤツより魔力そのものは落ちるけど、筋肉が膨張し過ぎて動けなくなるなんてマヌケな事は無い。ああ、そうだ。今の『邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィン』が、いよいよ壊れたら……あんたを次の……あたしらの大将リーダー……2代目の『邪悪騎士ネガ・パラディンエルヴィン』にする手も有るか……」
 そう説明しながら、ローア(多分)は、僕の頭に穴を開ける為のドリルの調子を確認していた……。
「じゃ……じゃあ……これだけは教えて……。僕は……本当は誰だったの?」
「誰でもない」
「誰でもない人間なんて居る筈が……」
「『誰でもない』が言い過ぎなら……名前は無かった」
「えっ?」
「冒険者ギルドが、ドワーフやゴブリンの素体にする為に生み出した小人症の家系……その家系から突然変異か先祖返りかで生まれた普通に近い体格の人間……同じ家系の奴から『出来損ない』と見做され、名前さえ与えられずに虐待され続けた哀れなガキ。……それがお前だ」

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