ドリーム名鑑 赤い機人と原子力教団 51.シャンテウ空域会戦(1)開戦
現陽(午前)11:50
シャンテウ空域に展開していた両軍の飛行船群は、すでに陣形を組み終わっていた。アルパチアとシャルメチア両軍は向かい合って横一列。アラゴ軍はシャルメチアの後方におり、すぐに前線に出られる位置に固まって布陣していた。
各軍船からは、スペイゼが切り離され、機人が発船している。
アキトとさやかが乗船している駆逐船アロンゾからも、アキトが駆るパラムスが発船。アロンゾの両翼アームからもオハジキが切り離される。
切り離されたオハジキは、アキトのパラムスの両脇後方の位置に付き、共に前方へ飛んでいった。
軍船群のさらに上空に、各機士団の機人が整列する。
ダルマ機士団の船隊7隻は、アルパチア軍の左翼の位置に布陣。アキトのブルハーン隊(機人1体。オハジキ2機)の右側には、レイカーのサーバー隊。左側には、ザッシュ副団長のマイン隊が並ぶ。
ザッシュ副団長が駆るパラムスのカラーリングは、雪機士の異名のごとく「白」。そのフォルムはスピード重視のため、軽装甲の機人だった。
対して、アキトとレイカーのパラムスは、通常使用なのでほぼ同じ装甲。違いと言えば、アキトのパラムスに、さやかが付けた頭部の角。それとカラーリング。アキトのパラムスが『薄い青』に対して、レイカーのパラムスは『黄土色』だった。
ザッシュ副団長の左側には、シャリア隊長のリッケンドール隊。シャリア隊長のパラムスは、赤の縞模様で重装甲使用。一見、他のパラムスとは違う機人に見えるほどだ。
リッケンドール隊の横にも他の隊が並ぶ。ダルマ機士団の機人が8体。団長であるマルセル・ロイナーは、団の旗船である巡洋船ガロマに乗船。自身の機人と共に居ながら、ダルマ機士団全体の指揮をとる。
遥か前方。シャルメチア軍でも同じような陣形をとっていた。
濃昼12:00
無線のスピーカーを通じて、一斉に声が響く。
「(撃)てー!!!」
会戦を告げる掛け声と共に、両軍の船隊からキャノン砲が放たれた。
ムーカイラムラーヴァリーには、基本的に火薬は存在しない。似たような物はあるが、技術的な発展はしなかった。
なぜなら、この世界には『オーラ』が存在していたからだ。物体に力を与えるオーラは、火薬を製造して使用するよりも効率良く、物体をより遠くに飛ばすことができる。
もちろん、オーラを生成する人員にも、それなりに負担がかかる。だが、オーラを持ち、生まれながらに扱ってきた者にとっては、一番楽で安易な方法なのだ。
新しい何かを発明したり、そのために苦労することの方が、精神的な負担は大きい......。
軍船に搭載されているキャノン砲は、砲術士のオーラを利用して放たれる。だが、そう簡単に命中するものではない。運悪く当たった船もあったが、まだ距離があるので撃沈されるほどの威力はない。また。軍船には『防空士』がいる。彼らの役割は、軍船の装甲を瞬間的にオーラで強化すること。砲撃から船を守ることだった。
しばらくの間、軍船だけから砲撃戦が行われたが、両軍共に目立った被害はない。
先に動いたのはシャルメチア軍だった。
アルパチア軍に向かってくる人型の物体。
空中戦闘の主役である『機人』だった。機人の後方からは、シャルメチアのスペイゼである『ベイスタ』が追随する。
アルパチア軍。機人機士と、オハジキ乗務員に向かって、スピーカーからの声が告げられる。
「突撃!!!」
「「「うぉぉーー!!!」」」
逆に、スピーカーを通じて、彼らからの雄叫びが全軍の耳に響いた。
機人が両軍の中央付近に近づくと、機人の腕に付けられているライフルボムから攻撃が放たれる。機人の後ろからも、スペイゼから放たれたショットボムが、ライフルボムの後を追う。
ある程度の距離まで近づいてからの射撃。軍船からの砲撃よりも命中率は高いが、機人やスペイゼの機動力は高く、簡単には命中しない。
機人からの射撃はあくまでも牽制。その間も敵機人との距離は狭まっていく。
機人は装備されているソードを手に取る。背中にある羽のようなブースターの横に備え付けてあるソードを機人は器用に取り外す。機人の手にも指があり、なぜかその本数は機人によって異なる。アルパチアのパラムス。シャルメチアのケアムスでは、共に4本の指があった。
機人が持つソードは、基本的に両刃が多い。オーラをよく通すよう配合された金属を使用して作られたソード。その材質は基本的に機士個人が地上で扱う剣とそれほど変わりない。そのため、機士個人のオーラによって、威力や切れ味も変わってくることになる。
両軍の機人。すれ違いざまにシャルメチアのケアムスの振るったソードが、アルパチア軍。シャクテイ機士団の機人の腕を肘から切断した。切断された腕は地上に落ちて、すでに開始されていた地上戦。地上軍兵士たちの頭上に落下した。
近距離から機人に命中したベイスタのショットボム。火花とともに煙が上がったが、煙の中から機人が現れ、ベイスタにソードを振るう。真っ二つに切断されたベイスタからは乗っていた武官が舞い上がり、ベイスタが爆散した。
アルパチア軍。片足になったパラムスが後方に下がろうとする。それを追撃しようと近づくシャルメチアのケアムス。
「隊長!」
その声と共に、アルパチアのオハジキが、シャルメチアのケアムスに体当たりする。体当たりされた機人はバランスを崩したが、足でオハジキの上部を押しつぶす。墜落するオハジキを見た後、前を見たその瞬間、現れたパラムスが持つソードで胴体を貫かれた。
「おの......れ」
ケアムスに乗っている機士も、装甲ごとソードに貫かれ、口から血を吐き出して声を挙げた。パラムスは、離れ際にライフルを発射。近距離で命中して爆散するケアムス......。
アルパチアの駆逐船から放たれるキャノン砲がシャルメチアの駆逐船に命中した。シャルメチアの駆逐船は当たり所が悪く、出力部である後方から爆発する。
近くにいたベイスタが、砲撃したアルパチアの駆逐船に接近した。
「よくも、俺たちの母船を!」
ベイスタの操縦士が声を荒げる。
そのアルパチアの駆逐船へ、すれ違いざまにベイスタからショットボムが放たれる。アルパチア駆逐船に命中したと思われたが、命中した部分にオーラの光が現れている。防空士が『オーラシールド』を発動させていたからだ。
そのベイスタは、その瞬間に、駆逐船から発射したショットボムが当たり爆発。地上に落ちていった......。
地上。シャンテウ高原でも、両地上軍による戦闘が開始されていた。
地上兵器の主力である戦車から撃たれる戦車砲は、主に相手の戦車に向けて砲撃する。上空の飛行船を狙って発射する場合もあるが、そうそう当たるものではないからだ。
戦車は砲撃だけでなく、その重装甲で走行しながら敵歩兵や騎兵をひき殺す。まさに地上の殺戮者と言える。
しかし、戦車にとって一番の天敵はスペイゼだった。スペイゼには地上攻撃用の空爆弾が装備されている。戦車は、周囲の装甲は厚いが、唯一砲身がある上部だけは装甲が薄い。スペイゼからの空爆弾による上空からの攻撃には弱い。そのため、時折上空から落りてくるスペイゼは脅威となった。
だが、それよりも地上軍にとって一番の不幸は、空爆されることよりも墜落してくる空中兵器だろう。
墜落してくる軍船の真下にいる兵士たちは、自分の運命を呪わずにはいられなかった。
去陽14:25
両軍の戦力から言えば、有利なのはシャルメチア側だったが、両軍の勢いでは拮抗していた。なぜなら、シャルメチアの友軍であるアラゴ軍の戦力。その全てが投入されているわけではなかったからだ。
また、地上戦でもアルパチアに倍するシャルメチアが、思うように戦果を挙げることができてはいなかった。
その理由として、シャンテウ平原がアルパチアの領土であり、地の利があったこと。攻めるシャルメチアに対して、守りのアルパチア地上軍は、防御に重きを置いていたこと。そして、自国領内からの援軍が、時間と共に増えていたためだ。
侵略者に立ち向かう地上の兵士たち......。平民が多く、自分たちの土地を守らねばならない。彼らの士気は低くはなかったのだ。
倍する敵に対して勇気を持って戦う姿。その姿を見て、天空で戦うアルパチアの兵士たちの士気も挙がろうとしていた。
だが、その状況を見て、判断を下した人間がいる......。
「戦場も温まってきたようだし......。それじゃ~、動くとするかね」
シャルメチア軍の後方に控えていた赤髪の女機士が席から立ち上がる。
「さぁ! みんな大好き、蹂躙する時間だよ!」
燃えるような赤髪が立ち昇る。
「レンダ機士団......突撃!」
シャルメチア軍、中央の間からフォルムの異なるアラゴの船隊が前線に侵入する。
このときから、拮抗していた戦線は変化の模様を見せることになった。
「あたしもアーケームで出るよ! ジャンタ、キャンダル、ついといで!」
ムーン・ドレイク・アラゴが、赤髪をなびかせてブリッジを出ていく。
「お嬢! 俺は置いてけぼりですかい!」
レレン・ボケンが、ムーンに向かって愚痴を言う。
ムーンはその声に振り返る。
「あんたがいたらあたしが楽しめないだろう♪」
ムーンは、笑いながらハンガーへ向かった。
(つづく)
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