大喜利は何が面白いのか 「お笑い講座 入門編」補遺11

「お笑い講座 入門編」(以下、本作)補遺11を上げさせていただきます。当記事にも本作の内容に触れざるを得ない箇所がありますので、ネタバレを好まない方は事前に本作をご一読ください。
 
「大喜利が得意ではありません。どうしたら面白い答えを出せるようになりますか」
というメッセージをいただきました。
もともと寄席における大喜利とは、一度出演した芸人たちが中トリや大トリに再登場して、そのうちの誰かが司会役となって他の芸人たちに、なぞかけ・ベンベン・あいうえお作文・とんち問答などの軽い余興をさせるものでした。
すなわち正式な演し物というよりは、お客様に対する顔見せサービス的な色合いの方が濃かったのです。また、大喜利ではネタ中には禁止されている誘い笑いも許されていましたので、面白い「答え」にはメンバー全員で笑い合ったり、ひねった「答え」には司会役が笑いどころを示唆したり、面白くない場合には司会役が芸人の顔に墨を塗ったりと楽しげな雰囲気を作り出していましたし、お客様もそんな和気藹々としたチームワークを評価していたのです。
 
このような大喜利の構造は現代でも変わりません。
つまり大喜利は個人技で笑いを取っているのではなく、トータルとしての団体芸で笑いを生み出しているのであり、「お題」という前フリに対する「答え」でボケて、そこに司会役の「判定」とツッコミが加わって笑いが起こるという建て付けなのです。なお、「写真で一言」の出題写真はボケですので回答者の「答え」はツッコミとなりますし、司会役の芸人のいない大喜利では、会場のお客様の笑いや回答者のリアクションなどがその代わりを果たしていると考えられます。
このことは、いわゆる競技大喜利でも同様です。個人戦という体裁を取っているのでわかりにくいのですが、同じイベントや番組に出演している別の芸人さんたちが審査役として「続行」などの判定をしていることを見ても明らかな通り、全員参加の団体芸であることに変わりはありません。
要するに大喜利の面白さは、構成・お題・答え・判定・ツッコミ・リアクションなどの合わせ技によるものであって、個々の「答え」の果たす役割は実はそれほど大きくないのです。
にもかかわらず、冒頭の芸人の卵さんのように大喜利の面白さが「答え」にあると考える方が多いのはなぜなのでしょうか。
それは大喜利のイベントや番組が、そう思い込ませるような演出をしているからです。
まず出場する人気芸人たちを格闘技の選手のごとく仰々しく紹介し、続いて「お題」を声高にアナウンスします。すると、期待感が高まってきたお客様は笑いのスイッチに指がかかった状態になります。そこにひねりの利いた「答え」が出て司会役や観客の誘い笑いが起こり、さらに絶妙なツッコミや回答者のリアクションが加われば笑いのスイッチが押されて、お客様は「答え」で笑ったと感じるのです。
 
さて「大喜利のコツ」と題した多くのコンテンツを拝見していると、「答え」の広げ方について紹介しているものが大半で、笑いへの収束に言及しているものはほとんどないということに気がつきました。そこには、笑いに変えるのは誰か他の人がやってくれるという暗黙の前提があるように感じます。
また、誰も知らない架空の存在を「お題」にするという大喜利の実験企画を拝見しましたが、案の定「答え」が散らばりすぎてほとんど笑いに結びつかないという結果になっていました。
他方、ある人気芸人さんは大喜利に関する特技を持っていらっしゃるようです。それは、あらかじめ用意しておいた数個の「答え」から一つを選んであらゆる「お題」にあてはめることができる、というものです。
これらの例はいずれも、大喜利において「答え」の果たしている役割はそれほど大きくない、言い換えますと大喜利では「答え」だけで笑いを取っているのではないという事実の傍証になっていると思われます。
そもそも「お笑い」とは磨きあげられたネタとパフォーマンスによって生まれるものであり、大喜利におきましても考え抜かれた「お題」や選び抜かれた「写真」が前フリやボケとして大きな役割を果たしていますし、ヒネリの利いた「答え」や司会役の鋭いツッコミも日ごろの鍛錬の賜であって決してその場しのぎの思いつきや反射神経によるものではないのです。
そういう意味では、練り上げられた団体芸である大喜利をまるで個人の瞬発力の争いであるかのように見せることができているとすると、イベントや番組の演出はかなり秀逸だと言えるかもしれません。
ということですので、お笑い芸人の卵さんたちは必要以上に「答え」に集中しないようにしましょう。
今後、皆さんが所属する劇場でも大喜利的なイベントがあると思いますが、やみくもに「答え」を出して爪痕を残そうなどとは考えず、団体芸の中で自分が期待されている役回りを把握することから始めてください。たとえば、正解を出す役割なのか、裏笑いを取りに行くべきなのか、にぎやかしに徹するのか等々。
 
とはいえ、どうしても大喜利が得意になりたいとおっしゃるのなら、「お題」を作ってみることをお勧めします。的確な「答え」を導き出せるような「お題」を考えることができれば、その後のネタ作りにも生きてきます。その際に気をつけていただきたいのは、なるべく正解のある「お題」を作るということです。正解とは出題者が想定している「答え」の方向性のことであり、それがあると回答者は出題意図を汲んだ上でヒネリを入れやすくなります。
そして、さらに余裕があれば司会役になったつもりで、どんな「答え」でもすくい上げて笑いに結びつけられるようなツッコミの練習をしてみてください。相方さんと司会役や回答役を分担してみるのもいいかもしれませんね。
そうしている内に、「答え」を出す力もついてきますよ。

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