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5年後のある一日。午後の部

【昼食】

 昼食は,ツレが石窯で焼いてくれたピザ。石窯は耐火レンガ,耐火モルタルと鉄筋でつくった。本格的なものではないが自家用やホームパーティ用にはこれで十分。ピザをぱくついていると,Bさんが刈払機の調子が悪いと言って持って来た。聞けば,明朝また草刈りがあるので今日中に見て直してほしいと言う。相変わらず無茶言うなあ。間に合わなければ私の刈払機を貸すからと言って引き取ってもらった。おそらく点火プラグの取り替えかオーバーホールが必要だろう。明日の午前中にチェックしてみよう。

 そう,私は2年前から農具・農機のメンテナンス・修理をやっている。鎌の研ぎ直しから,トラクターの修理まで,時給1,000円+部品代など実費で請け負っているのだ。3年間篤農家のもとで農具・農機のメンテナンス・修理を学び,必要な機械(グラインダやボール盤,溶接機など)もタダ同然で手に入れたので,一通りのメンテナンス,軽度の故障の修理,ちょっとした部品の製作もできるようになった。

 このメンテナンス・修理請負のなりわいは意外とニーズがあるのだ。自分が使っている道具・機械であってもメンテナンスや修理ができない人は意外とたくさんいる。いやむしろできる人が少数だろう。ホームセンターなどで安く手に入るし,メーカーに修理を依頼すると,高額の修理代金を請求されたり,買い替え(廃棄・新規購入)を勧められたりする現状にあってはそれが当たり前になってしまっている。実に「もったいない」。SDGs(持続可能な目標)の逆を行っているではないか。そうした社会的な価値があるなりわいだという自覚はあるものの,一番大きな思いは,「メンテナンスや修理は面白い」「道具・機械の仕組みと物理や化学の原理がわかってうれしい」というものである。要するに「機械好き」なのだ。こうしたなりわいをやっている関係で「故障したからもう要らない」「買い換えたから古いのやるよ」として持ち込まれた農具・農機が私の納屋にたまっている。

 午後からゼミがあるので大学へ。現在のゼミは「適正技術の実践」がテーマ。適正技術とは,田中直『適正技術と代替社会-インドネシアでの実践から』(岩波新書,岩波書店,2012年)によれば「近代科学技術から多くを学び,そこからさまざまな要素を積極的に取り入れつつも,近代科学技術のもつ,人間を客体的に従属させる性格,資源浪費的性格,環境を傷つける性格を捨象した,新しい地平で成立する技術群」である。ゼミでは,この適正技術についての文献を読みながら,適正技術が実践されている現場に通っている。

 真庭市や陸前高田市の小水力発電の現場に通っているゼミ生もいるし,インドネシアの農村に調査に出かけている学生もいる。私の自宅でも雨水トイレや杉皮葺の屋根,太陽熱温水器を使っているので,それをテーマにしている学生もいる。「はにわの森」でストローベイルハウスの建設をしている学生もいる。「焚き火は適正技術だ」と主張して焚き火ばかりやっている学生や「ナマケモノこそ適正技術の体現者だ」としてナマケモノ研究をしている学生もいるので,いまやゼミはカオスと化している。来年は「真庭なりわい塾」に参加する学生が出てくるだろう。

【夕食】

 ゼミの日の夕飯は自分たちで持ち寄った食材で自炊するのが最近の傾向だ。今日は,真庭市から戻った学生が,ジャガイモやニンジンを,田植えイベントでコメをもらって来たのでカレーライスとなった。どうやらインドネシア産のスパイスもきいているようだ。入ゼミ当初は包丁すら持ったことがなかった学生たちが,この2ヶ月間でおいしい料理をつくれるようになってきた。

(「真庭なりわい塾」第4期基礎講座修了レポート課題「X年後の自分を描いてみる」)

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