2024.02.07

  実写版ゴールデンカムイを観てきた。
実写映画にしては評判がすこぶるよいので気になってたんだけど、実際のところすごくよかったというか、面白すぎた。

  漫画原作の実写映画はいつも炎上しているイメージがある。よく言われるのは「コスプレ感がすごい」というやつで、これはコスプレイヤーたちに対してだいぶ無自覚に失礼な物言いではあるんだけど、要するに「衣装や髪型があまりにも不自然で、いかにも作り物っぽさがある。無理して作らないといけないようなものならアニメに任せておけばいいのであって、実写化などする必要は無いだろうが」ということなんだとおれは解釈している。
  製作に関わる人たちの商売相手はオタクだけではないわけで、様々な利害関係者との間で上手く折り合いをつけなければならない製作関係者の苦労を考えれば製作関係者に「おい無能な拝金主義どもよ」みたいなことを軽々しく言えないところはある。
  ただ、大好きな作品を望ましくない形に歪められ穢される気分というのは決して快いものではないので、怒りや不快感をあらわにする人々が少なからずいることはある程度仕方がないのだと思う。

  しかし実写ゴールデンカムイに関してはかなりよく出来ていたと思う。そんなに「うわ〜、作ってるな〜」って感じはしなかった。なんでだろうと思って眺めていて気付いたんだけど、なんか、肌汚くない?
  考えてみれば当たり前だ。基本的にクソ寒い不整地でみなさん活動しているわけで、そこにいかにも俳優然とした美肌人間がいたらそっちの方が不自然に映るのだろう。だからやたらと綺麗な杉元のマフラーとか白石のドテラはちょっと浮いてる気がしたけど、全体的に大して違和感は無かったと思う。
  特に鶴見がすごくて、原作の気味悪さがめちゃめちゃよく再現されていた。衣装も演技もハマりすぎだ。

  ここからは普通に内容のネタバレを含むので未見の人は気をつけて欲しい。とはいってもわりと原作に忠実な内容だったので、原作を読んでる人にはあまり関係ないかもしれない。
  まず観ていて感心したのは、「ゴールデンカムイってこんな面白い漫画だったのか!?」とおもわず感動してしまった点だ。
  おれは原作を途中まで読んでるから「面白いのは知ってるけど、既に知ってる内容の映画だしな……」とややナメてたとこあるんだけど、原作でしっかりと読み込めてなかった部分が映像化されたことでよく分かってめちゃめちゃ嬉しかった。ゴールデンカムイってめちゃめちゃ面白いじゃん。知ってたけど知らなかったよ。
  特に杉元がアシリパさんに黙って村を出ていくくだりが良かった。
原作では「村のみんなから愛をもって見守られているアシリパさんをこれ以上は血なまぐさい戦いに巻き込めない」という杉元の決意ぐらいまでしかおれは読めなかった。
映画ではそこにアシリパさんとレタラの別れのシーンをうまく重ねていた。猟犬になりきれず、誇り高き狼としてアシリパさんのもとを去ったレタラと同じように、「過去、現在、未来に渡って人殺しの業を背負い続ける杉元」と「みなに愛される純粋無垢なアシリパさん」とでは住む世界が違う。杉元がそう自覚して村を出ていくという風に描写されていたのが良い。杉元の決意も痛いほど分かるし、アシリパさんにとっては父、レタラに続く3度目の喪失となるわけで、杉元を追う動機がよりハッキリと分かりやすく描かれていた。

  それから二階堂との戦闘も良かった。
  原作では、二階堂兄弟の片割れを殺害した杉元が負傷したかのように見せかけ病院へ搬送されるソリに乗せられることで第7師団から逃亡を図る。杉元の企みを見抜いて追ってきた鶴見の馬にアシリパさんが毒矢を撃ち込み、鶴見を落馬させ逃亡に成功していた。
  実写では鶴見よりも先に生き残った方の二階堂が猛追してくる。逃げる杉元のソリに二階堂が飛び乗ってきて、ソリの上での攻防に発展。アクションシーンとしての見ごたえはもちろん十分すぎるぐらいなんだけど、杉元と二階堂を対比しているというか、紙一重でほとんど同類として描いているように感じられた。
  アシリパさんが杉元の強みを「死の恐怖に支配されない心だ」と評価しているくだりがあっての二階堂との死闘。杉元も二階堂も文字通り死物狂いで殺し合っているのが(その後も二階堂が憎しみを募らせていくことを知っているのもあり)本当に良かった。
  杉元は梅ちゃんの病気を治すため、というか生き延びるため、二階堂は双子の兄弟の仇討ちのために死闘を繰り広げていて、未来のために闘っている杉元と、既に過去となった兄弟のために闘っている二階堂の対比(だとおれは解釈した)が悲しくも美しくもあって、これはいい原作改変だったと思う。
  そして二階堂を退けた後に雪煙の中から現れる鶴見の不気味さときたらたまらない。「死神のよう」と形容するのがこれほどしっくりくる男はそういないよ。落馬してからも自分の足でちょっと走ってくるところがまた気味悪さを際立たせていて、この原作に忠実なところと映画用の改変のバランス……おれは完璧だと思いました。

  尺の関係もあってか食事シーンやアイヌ文化紹介シーンはわりと省略されていたけど、まるっきりカットというわけでもないのがまたいい。
原作のどの辺までやるんだろうかというのも気になっていたんだけど、本当にちょうどいいところまで見せてくれた。
  味噌をウンコだと思って食べたがらなかったアシリパさんが、杉元と共に死線をくぐり抜けてようやく相棒らしくなれたあとの食事で覚悟を決めて味噌を食うところまでやってくれたのが最高だった。原作ファンがみんな大好きな食事シーンを大切に扱ってくれているのがちゃんと伝わってくるし。

  とにかく最高だったのでみんなも見てね〜。

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