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MDSによるBechet病様症状の特徴と治療(trisomy8を中心に)

ぶっちゃけMDSによる自己炎症の話は一通り広がってて,その道の人には今更感が否めないと思うのだが,今自分で引き当てて診ている人がいるのでちゃんと自力でまとめておこうと思い作成.


症状とその頻度

■過去のMDS-Bechetの報告52例のシステマティックレビュー.
Esatoglu, S. N. et al. A reappraisal of the association between Behçet’s disease, myelodysplastic syndrome and the presence of trisomy 8: a systematic literature review. Clin. Exp. Rheumatol. 33, S145–51 (2015)

trisomy8あり(39例),なし(12例)とも含んだレビュー.
Bechet病(様症状)の診断が平均45.7歳,MDSの診断が平均46.9歳.
症状は口内炎が98.1%と最多.続いて陰部潰瘍78.8%,皮膚病変・消化管病変とも69.2%.
一方眼病変11.5%と少ない.HLA-B51も28.6%と少ない.
既存の診断基準について,ISG criteria満たすのは76.9%,日本の分類では完全型5.8%,不全型65.4%.

trisomy8の有無による症状の差は,発熱が多い(79.5% vs 33.3%)程度で他は有意な差はなし.


■フランスのネットワークから11例のトリソミー8のMDS-Bechetを評価. 63例の純粋なBechet病と比較.更に過去のLiterature reviewも含めた39例も評価.
Wesner, N. et al. Gastrointestinal Behcet’s-like disease with myelodysplastic neoplasms with trisomy 8: a French case series and literature review. Leuk. Lymphoma 60, 1782–1788 (2019)

トリソミー8陽性のMDS-Bechetは純粋なBechet病と比較して
高齢(75歳vs48歳).
仮性毛嚢炎が少ない(11%vs62%),CNS,眼病変とも0例.
消化管病変は多い(60%vs13%).


Literature reviewを含めると平均年齢は下がるものの,他は概ね同じ傾向.

Bechet病様症状の有無でMDSの予後やAMLへの進展率は変わらない.


治療

■トリソミー8のMDS-Bechetについて自験の2例を含めた31例の症状や治療反応についてレビュー.
Toyonaga, T. et al. Refractoriness of intestinal Behçet’s disease with myelodysplastic syndrome involving trisomy 8 to medical therapies - our case experience and review of the literature. Digestion 88, 217–221 (2013)

〇症状については
消化管潰瘍が74.4%と多い.
眼病変は5.1%のみ.

口腔内潰瘍87.2%,陰部潰瘍74.4%,皮膚病変69.2%.

〇治療については
・用いられている治療はステロイド,メサラジン,サラゾスルファピリジン,コルヒチン,アザチオプリン,インフリキシマブなど
61.3%で一時的なBechet症状の改善を認め,29%で悪化(全例に消化器病変あり)し,9.7%で変化がなかった.
といっても改善している報告の大半でステロイドが入っている.各文献の量までは未確認だが.
・この報告の自験例2例はインフリキシマブ無効,過去の症例報告の1例はインフリキシマブ有効


これ以外は個別の症例報告ぐらいになるのだが,

アダリムマブ単剤で維持できている症例.
Esatoglu, S. N. et al. A reappraisal of the association between Behçet’s disease, myelodysplastic syndrome and the presence of trisomy 8: a systematic literature review. Clin. Exp. Rheumatol. 33, S145–51 (2015)

アザシチジンが有効だった症例①
アザシチジン各サイクル終了後に高熱が出るが,それに目をつぶれば単剤継続でコントロールできている.
Tanaka, N. et al. Long-term maintenance of the mucosal healing induced by azacitidine therapy in a patient with intestinal Behçet’s-like disease accompanied with myelodysplastic syndrome involving trisomy 8. Immunol. Med. 42, 135–141 (2019)

アザシチジンが有効だった症例②
アザシチジン継続しつつ,PSL併用している(おそらくアザシチジンの投与サイクル終了後の発熱に対して使用,間欠的投与かも).
Tanaka, N. et al. Long-term maintenance of the mucosal healing induced by azacitidine therapy in a patient with intestinal Behçet’s-like disease accompanied with myelodysplastic syndrome involving trisomy 8. Immunol. Med. 42, 135–141 (2019)

■最後にもうどこにでも出てくるJAK阻害薬について
(※こちらは厳密にはBechet病様症状に限らずトリソミー8の自己炎症症状の報告)
Fu, Y. et al. Trisomy 8 Associated Clonal Cytopenia Featured With Acquired Auto-Inflammation and Its Response to JAK Inhibitors. Front. Med. 9, 895965 (2022)

使用した4例では全員ステロイドのsparing効果が認められた.といっても・・
Case1:抵抗例にトファシチニブ(TOF)15mg使用でPSL25→15mgに減量できた.更に減らすとflare.
Case2:抵抗例にTOF15mg使用でPSL15→10mgに減量できた.そのままTOF10mgに減らせた.
Case3:抵抗例にTOF15mg使用でPSL30→20mgに減量できた.そのままTOF10mgに減らせた.
Case5:mPSL40mgで治療開始した症例にバリシチニブ4mg併用して,mPSL4mgまで減らしても維持できている.

と多くはステロイド依存度が高く,著効には程遠い.


まとめ

過去の症例報告のliterature reviewなので頻度は参考程度だが,症状の特徴としては
・口内炎はMDS-Bechetでも最多の症状(ただ報告によっては必発とまで言えない可能性も)
・消化管潰瘍が多い
・眼病変は少ない

といったところ.

治療は結局ステロイドで無理やり押さえつけている報告が多そう.
TNF阻害薬は一部に効く例はあるかもしれないが,本家Bechet病程の期待値ではない可能性.
JAK阻害薬もgame changerになる程の期待はなさそうかも.
アザシチジンは忍容性があるなら期待できる.ただそれでも投与間欠期にflareが残る可能性.

特に根拠のない個人的な意見としては,VEXASもそうだが骨髄造血レベルでおかしくなってる病気に対して,(中等量~高用量ステロイドを除いて)免疫治療のみで立ち向かうのは基本的には厳しいのではないかという感想.

自分の症例もIFXがまったく無効でアザシチジンに移行した状態.
幸いなことに今の勤務地では血液内科の先生が診断時から積極的に介入して下さっており,治療の連携や移行も大変スムーズでした.本当にありがたい.
血液疾患と自己免疫/炎症もそうですし,もっと先にはCar-Tを当科疾患で使う未来が来るかも知れず,今後ますます血液内科ー膠原病リウマチ科の連携は深めていきたいところです(と無難な優等生結論で占めさせていただく).


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