国立劇場建替え・築地再開発の融合(5)

築地再開発:民主主義を守れ
総面積196,000㎡以上の莫大な規模の、かつ都心に最後に残る一等地、築地市場跡地の再開発プロジェクト。東京の景観を変えるほどの大きな再開発であり、一度施設が建ってしまえば、それは22世紀にも東京の中心地として残り、税金としてその資金を負担する都民にも重要な影響を与える事案でもある。だが所有者である東京都は、都民とはコミュニケーションを取らずに企画を進めているようにしか見えない。公表されている少ない情報から推測すると、築地ミッドタウンや築地ヒルズのような商業施設、つまり、またも超高層ビル群が立ち並ぶビジネス街が企画されているように見受けられる。東京ドームを築地に移転するという話まであるようだ。
 
しかし実際に築地がどうなるのかは今のところ、都民や国民は一切知りようがない。本来なら東京ドームのような巨大なスタジアムが銀座界隈の場所柄に合うのか、持て余すだけになるのではないか、地元には還元されるのか、等、広い議論が必要だと思われる。都民も国民も、再開発の概要に非常に高い関心を持つ企画だけに、東京都や岸田政権が納税者の声を無視し、勝手に決めることが民主主義のもとで許されるのだろうか。この問題をその面から考えてみたい。
 
築地市場跡地の再開発企画は公募が8月末で終わった。東京都が持つ土地とは、つまり都民全員の土地である。しかし入札の内容や参加者等に関しては、東京都都市整備局は都民に対し、「どの事業者が応募したかはお答えできない」という、相変わらずの態度。審査過程として審査委員会で各グループの事業計画案を審査し、3月末までに再開発事業者を正式に決めることは公表されている。だが、実際に誰が決めるのか、何を基準に決めるのか、各提案の内容は何なのか、つまり政府の誰がどの業者のどの提案を審査するのか、納税者は知らされぬまま、3月末には決まってしまう。
 
メディアによると、三井不動産を中核とする企業連合が“もっぱら「本命」視されている”(日刊ゲンダイ)とのこと。公募期限の前日に日経新聞の第一面に三井不動産が名乗りを上げるとの報道があり、数日後にそれらの会社が提出した案の概要には多目的スタジアムの建設が含まれる、との記事も出た(三井不動産は東京ドームの親会社でもある)。他のグループの名前が一切報道されていないことからも、ほぼ三井不動産に決まっている、と考えていいだろう。小池都知事は「複数のグループから提案書を受け付けた」と言っているが、それもただの見せかけの芝居でしかなく、実際には公的な議論もせず、三井に決まっているようにしか見えない。
 
日本橋再開発や六本木ミッドタウン、八重洲ミッドタウンで知られる三井不動産なので、三井不動産グループが選ばれるなら築地ミッドタウンのような商業地域になる可能性が高いだろう。汐留、虎ノ門、渋谷… どんどんと「ブレードランナー」のような、生気のない、個性もない、どれも似たような街が増えている。そういった施設をまた築地で作ることが、本当に都民の利益になるのか。
 
多数の都民の承諾があればそれでも問題ないだろう。しかし政府は都民に内証で進めており、そこには全く透明性がない。何を基準にして企画を決める(決めた?)か等を公表し、納税者を説得する姿勢がなければ、最終的な決定は企業や政治家にしか利益がないと思われても仕方がない。
 
私が以前紹介した「築地再開発ビジョン」では、江戸をモチーフとする娯楽街を作り、江戸三座のような歌舞伎劇場や職人街、ウォーターフロントの和食街など、江戸風の街並みを提案した。それも勿論、一つの提案、発想に過ぎず、東京の将来から見て適当かどうか等、他の提案と並んで議論されるべきだろう。だが少なくとも民主主義では、政府が我々の血税を使うにもかかわらず、舞台裏で企画を決定し、都民に押し付けることは許されてはならない筈だ。
 
赤字が止まらない国立競技場、入札が複数回失敗している国立劇場の立替企画、大幅に予算を超えてニュースになっている大阪万博、開業延期によって見通しの甘さが露呈した大阪カジノ計画…。東京都や日本政府が、透明性もなく、秘密裏同然に議論を進め、失敗が続いているのは誰の目からも明らかだと思う。築地もまた、その二の舞に直面している。失敗の責任を問われないのも問題だが、今回は東京の将来と都民の生活に、非常に大きな影響があるプロジェクトだけに、独裁政権のように決まったことを押し付けるのではなく、都民と国民の声を聴く態度をとってほしい。それが民主主義の本来の姿ではないか。

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