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『猫を埋めたとき』

だいじなくろいのらねこがしんだ。いえのまえでくるまにはねられてしんでいるのをわたしがみつけた。七夕のあさのことだった。どじでやせていたけれど、あいくるしいねこだった。わたしはそのねこをとても愛していた。がっこうにいかないといけなくて、なきながらはしって行った。いえにかえってから、お母さんも、わたしも、いもうとも、枯れるほどないた。そのときのわたしたちは、つながっているようだったけど、つながってはいなかった。みんなじぶんの殻のなかで、ちがう残像をつなぎ合わせていた。だから、みんなおなじばしょにいるけど、みんなちがうものを見ていた。夕暮れになって、家の庭にスコップでふかく土をほって、その底に硬直したそのからだをおいた。くろい体に黒い土をかぶせたとき、くらやみにとけこんで、もといた場所へかえっていった。わたしは、そのねこのたましいが、そらへかけあがりくもになるのをみた。まいとし七夕になるとおもいだす。そのねこを想いながら七夕のほしぞらに祈りをささげることは、わたしは死んでしまうまでやめないだろう。


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