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トイレのバンニン

 
 インドは私が考えていたより飢えていて、
活気があって、めちゃくちゃだった。
道はもちろん舗装なんてされてないし、通行区分もない。

クラクションがそこら中から鳴り響く。
人が歩いていてもガンガンバイクを飛ばす。
道の真ん中を牛が堂々と歩いていく。
インドは牛が神聖な生き物で人は轢いても牛は轢いてはいけないらしい。
そんなふざけた街。
ニューデリー駅に行く途中公衆トイレに寄った。
紛れもない公衆トイレに。
そこにはしっかり英語でpublic toiletと書いてあったのだけれど、そこには1人のおじさんが立っていた。トイレに入ろうとしたら
「シャウチャライ ダスルピー!」
 と両掌を広げて言った。
私が分からないというジェスチャーをすると10ルピー札を見せて中に入る動作をした。
私はおじさんに10ルピー札を渡すとトイレットペーパーを2巻丁寧に切ってくれ私にニコッと笑って手渡した。
トイレから出てくるとおじさんの近くには青年と少年がいて仲良く何やら話していた。私が何気なく彼らを見ていると青年が流暢な英語で話しかけてきた。
「そんなに怖い顔してどうしたの?何もしなくても太陽は昇って落ちる。それは誰にも止められない事だよ?」
 と分かりきったことを言ってきた。トイレのおじさんとの関係が気になって私は聞いた。
 すると
「あのおじさんは僕の父だよ。父はねこのトイレに20年いるんだ。20年間このトイレの番人をやって僕を大学まで行かせてくれたんだ。そしてこの子が僕の子供。僕は父を誇りに思ってるよ!」

 彼の父は自分の子供には自分と同じ思いはさせたくない。子供は幸せにしたい。そう思いトイレの番人を始めた。父を誇りに思う子供。果たして私は本当に父を誇りに思っていたのだろうか…
 

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