妄想 17 工場で働く男

まだ作業は終わらない。
8年もここにいるから作業にはもう飽きている。だからもう考えなくても勝手に手が動く。
とりとめもない事が頭をめぐる。
時間は全然進まない。
さっき時計を見たときから10分も経ってない。
私語は誰もしない。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶし、妹と言っても血は繋がっていない。
親父の再婚相手の連れ子だ。
一軒家に年頃のふたりが同居している。
両親は仕事で海外を転々としていて帰ってくるのは年に一度あればいい方だ。

妹は引きこもりだ。
夜中パソコンに向かって話しているので
生配信的な事をしていると思う。
『うちの兄貴がウザくてさー。兄貴って言っても血は繋がってないんだけどね。
さあ今日は私の口に何個コロッケが入るか挑戦したいと思いまーす!』

まずいボーっとしてた。
普通こういうシチュエーションだと可愛い妹じゃないとダメだろうくそ。

作業に戻ろう。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶし、『成田くんあの時モテてたから…』と彼女は言う。
同窓会から僕らは抜け出し飲み直していた。
あの頃と変わらず可愛い。
僕は言う。
『まあ、本命以外にはね…』
僕はそっと結婚指輪を外し
今日僕が泊まる部屋の鍵をポケットから出した。

まずいボーっとしてた。
同窓会呼ばれた事ないしこれからも呼ばれないからこんなベタな展開は期待できない。

作業に戻ろう。

黒いゴムの暖簾のような所をくぐって豚肉が出てくる。
それを叩き柔らかくして
小麦粉をまぶして、パン粉をつけたら『きれいな顔してるだろ。うそみたいだろ。死んでるんだぜ。たいした傷もないのに。ただちょっと打ち所が悪かっただけで、もう動かないんだぜ』

まずいボーっとしてた。
カッちゃんが死んで俺が代わりに甲子園目指すところだった。

ふたたび時計を見る。
まだまだ先は長い。

配役
・工場長の天狗
澁谷くん
・タッチの原田くん
野口
・自動運転のマジックミラー号が発売されて購入を考える男
部長
・Apple Musicのオススメが全部気に入らなかった男
宮本

サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。