妄想23 ゆきこさん

同じ会社の男の人にちょっとときめいている。
私に彼氏はいるんだけど、ときめくのは仕方がない。
喫煙所でよく一緒になる。
『そのタバコ随分渋いの吸ってるね』
『たまに売ってないとこもあってめんどうなんですよ』

私の彼はタバコを嫌う。
電子タバコとか勧めてくるが私はこれがいい。
『ゆきこの体が心配で言ってるんだよ』
とか言ってるけど疑わしい。
女がタバコを吸うのが嫌なだけな気がする。
私は私の好きなものを他人にとやかく言われたくない。
やめたかったらやめるし。

田町さんとは映画とか漫画とかそういう話がすごく合う。
年代がちょい上なのがいい。
好きな作品の話をすると
『懐かしいね、だったらコレも好きじゃないかな』
と勧めてくれる。
そしてそれがドンピシャなのだ。

私の彼は私の趣味のことをあまり理解してくれない。
最初の頃は
『この漫画面白そうだから貸して』
とか言ってくれてたけど
今はそんなことはない。
ワン○ースだけ読んでたら満足のようだ。
私の部屋に最新刊を置いていかないで欲しい。

『今度ごはんでもいかない?』
誘われてしまった。
私もそういう感じ出してたんだけどね。
田町さん結婚してるじゃん。

ごはん食べた後やっぱりそういう感じになった。
田町さんはなんだか下手くそで一所懸命だったのが可愛らしかった。

『そんなつもりじゃなかったんだけど』
そういうつもりだったのは明らかだったな。
うなだれて
『今日の事は忘れよう』
とか言うのはちょっとなんかアレだな。
用意してたかのような芝居じみた言葉。
いや演出?

『そうですね』
とか言った。
なんだつまんないんだなこの人。

それから田町さんとは喫煙室で合わなくなった。
奥さんに言われてやめたんだってさ。
根性なしめ。

帰って窓開けてタバコを吸った。
少ししたら彼が来た。
『またタバコ吸ってんの?やめなよ、体に悪いよ』
『幸せってやつがあたいにわかるまではやめません』
『なんじゃそりゃ』
『プカプカ』
『プカプカ?』
『そう、プカプカ』
『なにそれ?』
『昔のうた、私たちが生まれる前の』

彼がユーチューブで検索して『プカプカ』を流した。

『プカプカは意味わかったんだけど、スウィングドゥビドゥビドゥってなに?』

『さあ、何だろ』

私が吐き出した煙がいびつな夜の空に吸い込まれていった。

配役
・喫煙室にいつもいる天狗
澁谷くん
・喫煙室にいつもいる背の高い男
野口
・マジックミラー号を禁煙にした
部長
・喫煙室にいつもいる奴
宮本

サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。