緊急事態宣言のゆきこさん

昼寝から目が覚めた時
圧迫されてた目の玉の毛細血管に血が流れ出しているのか天井でチカチカとアニメーションが始まった。
ボールペンで描いたような細い線で何がどうなっているかわからなかったが、コミカルな動きでしばらく見ていた。

自粛。
不要不急の外出以外は控えてください。
緊急事態宣言。
仕事は休み。
実家に帰りたいな。
症状が無いだけで私もコロナに感染してるかもしれない。
んー。
やる事がない。
やる気がおきない。

何件かLINEが来ていた。
地元の友達、前の彼氏、ちょっと前にセックスしてしまった年下くん。
年下くんは付き合ってると思ってるのかもしれない。
私はそんなつもりはない。
じゃあセックスなどしなければいいのに、と思われるかもしれないけど、あの時はすべての流れがセックスに向かって進んでいた。
そんな事で私はセックスする。
つかず離れずでゆるく関係を続けられれば一番いいな、と自分勝手な事を考える。
傷つけたくないし傷つけられたくない。
年下くんに返信はしないでおいた。
君も自粛してください。

窓開けてタバコを吸う。
はじめてはっきりと『死んでもいいなぁ』と思う。
想像力が足りないんだ。
ただの平面の『死』を立体で想像できない。
今いきなり死に直面したら涙も鼻水もおしっこもうんこも垂れ流して情けない声で『死ぬのこわいー』とか言うかもしれない。
ダサくて認めたくない私。

ドラッグストアに行っても、スーパーに行っても、マスクは売ってない。
アルコールのシュってするヤツも売ってない。
トイレットペーパーの束を4つくらい持って自転車に乗ってる気の強そうなじじい。
マスクをしてない私を怪訝な目で見るばばあ。
『手に入んねーんだよ』
とか言いたいがぐっとこらえる。

TVを通して伝えられたルールが思考停止状態のこういう人間を量産していく。
それさえ守っていれば正しく生きられるという幻想。
気持ちはわかるけど。

結局マスクもアルコールもトイレットペーパーも手に入らなかった。
自宅のトイレットペーパーは残りわずかだが、まだ大丈夫だろう。
晩ご飯は自分で作るのめんどくさいからピザでも頼もう、とビールだけ買った。

スーパーからの帰り道、ビールを飲みながら歩くのがクセになってしまった。
暗く曇った空が私からまたやる気を奪っていく。
『雨降りそー、めんどくさ』

『ゆきこさーん』
年下くんだった。
『返信くれないから来ちゃったよ』
あらら。
極力冷たい顔を意識して
『何しに来たの?』
『いや、何しにって、、』
『用事無いの?』
『まあ会いたかったっていうか、、』
『急に来られても困るよ。子供じゃないんだから、こんな時だし、ちゃんと約束してから会おう?ね?』
ほんとに子供をさとしてるみたいだな。
『、、、ごめん』
『悪いけど今日は帰って』
『わかった、、』
年下くんは帰って行った。

ちょっと冷たくしすぎたかな。
連絡もしばらくは来ないだろうな。
仕方ない。
今はそんな事よりピザを注文しよう。
ピザ屋の電話に出た奴がなんか嫌々喋ってるように聴こえてちょっと腹立った。
みんなイライラしている。
『20分くらいでお届けします』
30分くらいだと思ってたのでちょっと嬉しかった。
お腹空いてたから大きいの頼んじゃったなー。ハッシュポテトとかもいらなかったかな。
『ビール飲みながら待ちますかー』

チャイムが鳴った。
ピザ頼んでからすぐだったから年下くんだとすぐわかった。
『どしたの?いきなり来ないでって言ったよね?』
『あ、いや渡すの忘れてて、、』
カバンの中をガサゴソやってビニール袋を取り出して顔の前にブラブラさせた。
『マスク。こないだ無いってLINEで言ってたから持って来たんだけど、さっき渡すの忘れてて』
『え、どしたのこれ?』
『いや、実家から送られて来たやつでさ。俺の田舎には売ってるみたいで、洗って使えるいいやつみたいだから、、、』
『、、、ありがとう』
さっき冷たくしたからどんな顔して良いかわからなかった。
『今ピザ頼んだから食べてく?多分頼みすぎちゃったし』
『え、いいの?じゃあ食べてこうかな』

やっぱりピザはひとりじゃ大きくて、ハッシュポテトも思ってたより量があった。
『ひとりでこんなに食べる気だったの?』
年下くんがそう言って私達は笑った。

食べ終えてキスをしながらお互い服を脱いだ。
色んな事がどうでも良くなった。
緊急事態宣言?
そんな事よりももっと私達は大事な事をしている。

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サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。

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シュリスペイロフというバンドのボーカルとギターをやっている。
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