ぬくちゃんとお墓に行く。

『ガタンガタンヴィーン』
という騒がしい音がして目が覚めた。
そういえば今日からウチのアパートの外装工事が始まるとか手紙が来てたな。
昼夜逆転してるオレには迷惑な話だ。

ぬくちゃん家でも行こうかと布団から起き上がった。
外に出ると青空がとても高く、少しだけ冷たい風が吹いている。
秋だ。
季節の変わり目は体がだるい。
生きづらさを全身で感じながらヨタヨタと歩き、ぬくちゃんの家にたどり着く。
ぬくちゃんは楽しそうに車を洗っていた。
羨ましいオレもこのくらい元気だったらなぁ。
『おお、ちっくん』
『どしたのこの車』
『へへ、買ったの』
『へーいいじゃんボロいけど』
『いくらだと思う?』
『3万円?』
『なんで当てちゃうかなー、普通ちょっと高めに言って「実は…」とか言って驚くのがいい流れだろー』
『んで走るのこれ』
『走るよ、悪いところは修理したし』
そのあとぬくちゃんは難しい専門用語で色々喋っていたけど何を言っているかわからなかった。

『よし、じゃあとりあえずドライブでも行ってみますか』
『いいねぇ、そういうは久しぶりだな』
助手席に乗り込む。
ワインレッドのシートが時代を感じさせた。

ぬくちゃんが家からスプレー缶みたいなのを持ってきてガソリンを入れるところにシューッと入れてる。

『えっ?何してんの?それ』
『だからさっき説明したじゃん』

バタンとぬくちゃんが運転席に乗りエンジンをかけた。
ヒューンとボロ車には似つかわしく無い未来みたいな音を出してエンジンがかかった。

『行きたいところがあるんだけど』
『ねえこの車たぶん速くない?』
『速いよすごく』
これ車検とか通んないんだろうなと思った。
『行きたいところがあるんだけど』
『いいよぬくちゃんに付き合いますよ』
『よし』
車は加速してヒューンと心地いい音を鳴らす。

『親友がいたんだよね』
スムーズにギヤチェンジしながらぬくちゃんが言った。
『へー、今は会ってないの?』
『いや、死んじゃったんだ、今日が命日』
『そうなんだ』
『ずーっと寂しいよ』
なんとなくそのあと二人とも黙ってた。
そいつのこと知らないし、こういう時なんて言っていいかわからない。
そしてオレはぬくちゃんの親友なのかどうか考えたことなかった。
そのぬくちゃんの親友に少し嫉妬していたかもしれない。

墓園の駐車場に車を止めた。
墓の前に立って花が供えてあるのを見て
『誰か来たんだな』
ぬくちゃんは墓石の前で手を合わせた。
一応俺も。
そのあと車から持ってきた一升瓶に入った自作の泥みたいな酒を墓石の前に置くのかと思いきや、
墓石にそのままドボドボかけた。
多分この人もこの酒飲んでぬくちゃんと遊んでたんだろうな。
その後墓石を綺麗にするのに結構時間がかかった。
手がべたべたする。

『なんで死んじゃったの?』
『なんとか病って治らない病気。最後まで苦しそうで俺もしんどかったな見てるの。でもそこで死ぬの見ててくれって言ってる感じがしてさ、ずっと見てたよ。大丈夫だよ、とか思ってない事言ったりしてさ』
ぬくちゃんはちょっとだけ泣いていた。
そして自作の酒をグイッと飲んだ。
そうか帰りは俺が運転するのかと覚悟した。

『海沿いの道を通って帰ろう』
とかぬくちゃんが言うので仕方なく遠回りして帰った。
このボロ車は馬鹿みたいに速いので慣れるまで時間がかかった。
ここを抜けたら海が見えてくるはず。
少しの間ピカピカの海の綺麗さに目を奪われた。
遠くから見る海は綺麗だけど近づくとあんまり綺麗ではなくなるんだよな、とか思ってたら。
『近くで見ると海ってあんま綺麗じゃないよね』
ぬくちゃんが言った。

サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。