ターミナル駅までの所要時間が長くなる!マンション等不動産表示の変更案

2021年10月27日、衝撃的なニュースがネットを流れました。
https://www.sfkoutori.or.jp/information/1835/

不動産広告の表示ルール、「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」の改正案が業界で承認されたということです。これは今後消費者庁、公正取引委員会の審査・認定のあと、半年後に施行されます。

今回の改正では、不動産七不思議の多くが解消される結果となっています。

1.不動産7不思議①:実現不可能な所要時間

某つつじヶ丘駅物件の、ターミナル駅までの所要時間の表記をご覧ください。

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すごくないですか?渋谷駅まで14分!新宿駅まで16分!つつじヶ丘からですよ!(すごく小さな文字で、通勤時は渋谷駅まで20分、新宿駅まで20分と書かれています。それでも20分で渋谷駅に着ける!すごい!)

でも、実際に住んでみると分かります。どうやっても、どんなに頑張っても、絶対14分で渋谷駅にたどり着けない。その理由は、同じページの下の脚注に書かれています。

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「乗り換え・待ち時間は含みません。」

え?なんで?乗り換えないといけないのに乗り換え時間を含めないの、なんで?千歳烏山駅で準特急を待つのに、その時間を含めないのなんで?

マンションを探し始めたときに最初に戸惑うのが、この謎の「乗り換え時間を含めない、ターミナル駅までの所要時間(しかも何故かドヤって表示されている)」ルールです。

明大前駅で、京王線のホームから京王井の頭線のホームまでテレポートできる能力のある人、京王井の頭線の乗り換え電車を即座に明大前駅までサイコキネシスで引っ張ってこれる能力のある人だけが、つつじが丘駅から渋谷駅まで14分でたどり着けます。

でもね、京王線のホームから京王井の頭線のホームまでテレポートできるサイキッカーは、多分、電車乗らなくても渋谷駅までテレポートできると思うのですよね。この、渋谷駅14分という表記、どういう能力者を対象にアピールしているのか全然分からない。

というのがこれまでのルールでした。
これが、今回の改正で以下のように変わります。

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「電車等の所要時間は、朝の通勤ラッシュ時の所要時間を明記」し、「乗り換えを要するときは、所要時間に乗り換えに概ね要する時間を含めること」。

当たり前ですが、これ、凄いルール改正です。これを適用すると、つつじヶ丘から渋谷駅、新宿駅までの所要時間は以下のように変わります。

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つつじヶ丘→渋谷駅は29分(乗車時間26分、乗り換え時間3分)。元の14分(通勤時20分)から2倍以上の表記になりました。

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つつじヶ丘駅→新宿駅は26分(乗車時間24分、乗り換え時間2分)。こちらは元の16分(通勤時20分)から1.5倍以上になりました。

実際には、この表記には「通勤ラッシュの遅延時間」は想定していません。それでもなお、少なくとも「渋谷駅14分(通勤時20分)」という夢の数字からはだいぶ現実に近づきました

2.不動産7不思議②:敷地に帰れば、そこが家。

従来のマンション等の駅徒歩表記では、多くのケースで、(マンション内のどの地点を起点・着点とするかのルールの明記がなされていなかったことから)駅の出入口から「マンションの敷地内の、最も駅から近い地点」までの表記がされていました。

例えば、潮見駅から徒歩1分表記がされている某マンション。

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このマンションの敷地の1点と潮見駅の出口(東口)との距離は76.4mです。分速80m換算で駅徒歩を求めますので、76.4/80 =0.955→徒歩1分と表記されるわけです。

これが、今回の改正で、「建物の出入り口を起点とする」ことが明文化されました。

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上記のマンションの例でそれを適用するとどうなるでしょうか。

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188.04m。188.04/80 =2.35 →徒歩3分表記となります。
※googleの荒い確認なので、実際には徒歩2分表記となる可能性もあります。
駅徒歩表記が1分→3分と、3倍になってしまいました。

実際に、特に建物の出入り口からマンション敷地入り口まで100m以上離れているような物件で、マンション敷地入り口に立って「よし、自宅に帰った」と思う人は少ないと思います。
「徒歩1分だと思って買ったのに、どんなにがんばって早歩きしても1分でたどり着けん」と思うことが多いのではないでしょうか。

実態に即した改正案だと思います。

3.今回の改正の適用対象は?

先に紹介しましたプレスリリースは、このように記載されています。

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今回の改正内容は新築物件にのみ適用するとは書いていません。ので、新築物件だけではなく、施行後に販売を開始する中古物件にも適用される可能性が高いと思います

4.実態に即した改正だと思うけれど…

今回の「不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則」の改正案、とても実態に即した改正ですし、消費者保護の観点でも妥当な内容だと思います。

ただ、これまでの表記も「おかしいやろ!」と突っ込みながらも、「まあ、でも、売るときにも駅徒歩○分表記で売れるならいいか」と割り切って物件購入をしていた人もいたのではないかと思います。

駅徒歩9分物件だと思って買ったのに、売るときには駅徒歩11分物件になって検索サイトで引っかからなくなった。そんな事態が起きるかも知れません。

悪法も法、これまでネタ扱いされながらも存在していた一定の秩序が変更されるので、中古物件にもこの表記が適用される場合、最初は混乱が生まれるかも知れません。