立ち寄り場所
ふと気がつくと、私の町の古本屋は全国チェーンの大型店舗のものしかなくなった気がする。
ちょっと検索をしてみて、すぐに出てくるのは大型店舗。くまなく探したらあるのかもしれないが、もしかしたらもっと必死に探したら出てくるのかもしれないけれど、私が学生の頃はもうちょっと小規模の古本屋や中古レコードのショップがあったように思う。
今ならCDショップか。
学校の帰り、わざわざ少し遠いというのにバスを降りて本を探したこともある。
特にラーメン屋さんの横にあった(今はそのラーメン屋さんもないが)古本屋は地味だがいい本がたくさんあって好きだった。成人してからもよく通ったものだ。
口うるさい店主で、女性は化粧をしなくてはいけないとか、綺麗な格好をしなくてはいけない、とかどうでも良いわ、ということを言う人だったが、悪い人ではなくてむしろ好ましい人だった。
私のためにわざわざ詩集をまとめておいてくれて、「もってないのはどれだ?」って聞いて、ちょっとお高い本も安くしてくれたりした。風邪をひいてやしないか、と心配もしてくれた。
まだ漫画家を目指してた頃で、漫画は出来たか、とよく聞いてもくれた。
目標は一つに絞れとも言ってくれた。創作を続けるのが目標だから作品の手段は選びません、なんてえらそうなことを言った2年後に漫画を描くのをやめてしまった。詩は細々と書き続けていたが、もう趣味でもいいと思っていたりもした。
面白古本屋もあった。でもそこも1年ぐらいでやめてしまった。国道沿いの倉庫みたいなところに出来た古本屋だった。
変な本がすごく安くて面白くて買いに行った。
古本屋がすきなのである。
なかなか最近はいけないでいるけれど、古本屋の古い本のほこりっぽいにおいとか、この本はよく読まれたのだろうな、という汚れ方をしている奴とか。店主が割りとのんきそうであるとか、いらっしゃいも言ってくれないお店もあったりもして、そういうところも好きだ。
かって店の中を物色して、一人でテンションあがって、これを!とレジに持っていくと、ちらっとこっちをみて「いい本見つけたねぇ」なんて言ってもらえるとちょっとうれしくなる。
10円おまけしたよ、とか言われたり、1円だって俺はまけないとも言われたこともあったり、ちょっと面白いのだ、古本屋の店主というのは。
なんだろう、古本屋や古レコード屋に限らず、どこかのんびりしたゆるい時間が流れる場所というのが少し減ったように思う。
喫茶店もおしゃれなところが増えてきた。
昔から行っていた喫茶店もあったが、随分前に閉店して今は違う土地で居酒屋をやっていたりする。居酒屋にも何度か行ったが、やっぱり喫茶店は喫茶店のよさがあって、そこが好きだったのだ、とだんだん足が遠のいた。
居場所が欲しいわけではないのだ。
ちょっとした立ち寄り場所として、古本屋も古い喫茶店もちょうどいい場所なのだと思う。
たいした話もするわけではなく、ちょっと天気予報の話をしたりする程度で、じゃあ、とすぐに帰れるけど、じゃあ、とまた寄りも出来る。そういう場所。
気合を入れて映える写真を撮るわけでもなく、時間を忘れてすごせるそういう場所。
すごいスピードの中で静かに消えていくものたちの多くは、ゆるい速度の中で存在しているものたちばかりのような気がしている。
消えないで欲しいと思うので、もう少し店に通おう、そんな風にも思うのだった。
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