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お蔵入りのヒロイン

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私小説「お蔵入りのヒロイン」 (定期更新・ほぼノンフィクション)
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2020年11月の記事一覧

カモミールの花束を

「ねぇ、テッペンは、どこにあるんですか?」 よれたスウェットを身に纏う17歳の少女が、オトナたちから身を隠しながら、か細い声で問いかける。あれは入社4年目の初夏のこと。ボクが初めてロケ現場でカメラを回した日のことだった。 あの日を思い出しながら、今ボクが渋谷に向かっているのにはワケがある。渋谷駅の宮益坂口はいつも何かしらの工事を行なっており、この日も例に漏れず道に迷ってしまった。 「5分ほど遅れます、ごめんなさい。」 渋谷の街は平日の午後だというのに多種多様な人たちで