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お蔵入りのヒロイン

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私小説「お蔵入りのヒロイン」 (定期更新・ほぼノンフィクション)
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2020年10月の記事一覧

これは、キミがくれた夢

「お元気ですか?最近キミが遠い人になったって、みんな心配してるよ」    一眼レフカメラとロケ台本の間に置きざりのスマホが、大袈裟な文面を映し出した。   「へぇ。オマエって、遠い人になったの?」    先輩にスマホを覗かれ地獄のいじりを受けながらボクはAD(アシスタント・ディレクター)二年目を迎えた。  父親から金を借り就職留年を経て入社したテレビ局。その制作フロアで、コンテンツ制作と呼ぶには程遠い仕事に明け暮れていた。プロデューサーが使う会議室の予約、演出家が好むタバコ

理由は、「素敵だから」じゃダメですか?

突然ですがお題です。 あなたは映画監督です。 医療系の映画を作るのに、病院での撮影ができないと言われたら、あなたならどうしますか? これは、なんてことない出会いが、かろうじて生きながらえる1人のクリエイターの人生を支えてしまった、そんなとるにたらない、だけど忘れることもままならない瞬間の記録です。 ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー 三軒茶屋に"ちょうちん"が美味しい焼鳥屋がある。ここにくるのは何度目だろうか。店員さんに立ち呑みカウンターへ通されたお一人様のボク

お蔵入りのヒロイン

心の中で静かに"お蔵入り"にした人たちがいる。 どれだけ気さくな居酒屋でだって、どれだけ気の知れた知人にだって、 決して話そうとしなかった過去の出来事がある。 ボクは映像会社に勤めて13年目になった。地上波に流す為の、大衆に受けるモノづくりをする立場にいる。「もっと衝撃を」「もっと情報性を」「もっと感動ストーリーを」偉い人たちから飛んでくるお約束の指示に必死に応えながら10年以上やってきたつもりだ。上手に応えられていたかは不明だし、あまり上手になってはいけない気もしている