母校野球部の憂き目


https://news.yahoo.co.jp/articles/40137d069b3d26b68be86b1a13276eed9c86c014
「聖隷クリストファーは頭とハートを使う高校生らしい野球で、2回戦、準決勝で9回に見事な逆転劇を見せた。立派な戦いぶりでした。個人の力量に勝る大垣日大か、粘り強さの聖隷クリストファーかで賛否が分かれましたが、投打に勝る大垣日大を推薦校とします」

 第94回選抜高校野球大会の選出校を発表した選考委員会の言葉だ。また大垣日大高校を推薦校にした選考理由について、

「特に前評判の高かった静岡高校の吉田投手を打ち崩した連打は見事だった。また、2回戦で優勝候補の一角だった愛知1位・享栄高との戦いぶりはレベルが高く見応えがあった」

 としている。

 大垣日大高校も、聖隷クリストファー高校も、甲子園という夢を目標に日々努力を重ねてきた事実は賞賛に値する。しかし肝心の選考委員会の言葉は、それが選考の明確な“理由”として足るものか疑義を呈さざるを得ない。筆者に意訳させれば上述のコメントは「決勝に進んだのは聖隷クリストファーだけど、本当に強いのは大垣日大だから」という暴論に過ぎない。極論を言えばこれでは二回戦あたりで敗退しても通用してしまう。

 まず第一に「前評判の高かった静岡高校」を打ち崩したという表現だ。前評判とは、誰から見た評判なのか。新聞記事か、スポーツ雑誌なのか。いずれにしても該当の相手高、相手投手の実力を裏付けるものではない。静岡高校も甲子園の常連高として名高く非凡な実力であることは間違いないが、静岡県中部予選から始まる過程で件の「前評判」とやらが示すほど圧倒的な勝ち方をしてきたわけではない。なにより、静岡県からの東海大会出場は聖隷クリストファーが2位、静岡高校は3位という順位だ。

 次に「投打に勝る大垣日大」を選んだとのことだが、聖隷クリストファーが大垣日大よりも投打に劣っているとは誰の判断なのか。両校は直接戦ったわけではなく、実力の判断は選考委員当事者の主観に基づいたものでしかない。試しに両校の県大会以降の得点を見ると聖隷クリストファー高校は1試合平均6.125点、大垣日大高校は同6.375点と大きな差はない。失点は聖隷クリストファー高校が1試合平均3.625点、大垣日大高校は同2.625点である。明確なのは平均失点の差が1点あることだが、この差は東海大会準優勝の聖隷クリストファー高校の甲子園出場を妨げる壁となる程だったのだろうか。さらにレベルが一層均衡になる東海大会の数字だけを挙げれば、一試合平均の失点の差はさらに縮まり、得点の差については聖隷クリストファーの方が優位である。何よりも大垣日大高校は優勝した日大三島との対戦で10失点を喫しており、投手有利の春の選抜で勝ち抜けるのは失点が少ない大垣日大だとした根拠は謬論でしかない。

選考委員は自身が野球の有識者だという自負だけで万人を納得させるつもりだろうか。明確ではない要素ばかり挙げて明確である結果には目を瞑ろうとしているのではないか。

秋の地方大会は予選ではないから、という意見もあるかもしれないが、結果として、本当にどちらが強いかの検証はし得ないまま、強そうな方を選びたいという恣意的な判断すら感じられる結論が出されている。仮に「恣意的な判断」が言い過ぎだとしても、少なくとも自分の期待に都合のいい判断を無意識に誘導されているとは言えるだろう。誰かを傷つける結果になるくらいならこのような選出形式はいっそ再考したほうがいい。

 筆者自身、18年前は高校球児だった。母校や特定の学校に思い入れを深くし、躍進を強く期待する学外の人間が多くいるのが高校野球の特徴だ。高校野球は教育であり、伝統であり、地域・世代の絆でもある。聖隷クリストファー高校、大垣日大高校、いずれにも賞賛を惜しまない一方で、本来であれば大多数の人々が納得いく結論を出せたものを、少なくとも半数が不満を抱く結果になっていることを鑑みてほしい。何よりも、今回の曖昧な説明で当事者が不必要な不信感を社会に抱くことがないよう、遠巻きながら応援を続けたい。

【メモ】

県大会から東海大会

聖隷(8試合)失点33(3.625/試合) 得点49(6.125/平均)

大垣日大(8試合)失点21(2.625/試合) 得点51((6.375/平均)


東海大会のみ

聖隷(4試合)失点21(5.25/試合) 得点28(7/試合)

大垣日大(3試合)失点14(4.66…/試合) 得点15(5/試合)

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