第2回ガレージ勉強会 外伝
前回の第2回ガレージ勉強会のテーマだった「科学系の情報の集め方」「研究メディアのこれから」について、どうしても話を聞きたかったのが新宿三丁目のバーのマスター(通称マコさん)だ。
店の営業時間と重なってしまうので勉強会にはお呼びできなかったが、それならこっちから話を聞きにいけばいいや、ということで、勉強会が終わったその足で店に追加取材に行った。ガレージ勉強会、外伝です。
【目次】
1:興味は生活に宿る
2:モテたい気持ちが足りない
3:求められた安全神話
4:興味は奪うもの
5:市場でPDFは見ないだろ
6:ご隠居の長い杖
7:わからない人の基準がわかる番組
高井・・タ マコさん・・マ
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1:興味は生活に宿る
新宿三丁目の雑居ビルの中にマコさんの店はある。
SF、科学、社会学、歴史、アニメ、プロレスなどなど様々なジャンルの話に精通していて、彼のもとに集まる客層も様々だ。自然とサロンのような雰囲気が生まれていて、この日も僕の隣の席では写真家を目指す若者達が熱心に表現について話し合っていた。週6日の営業を続けていく中で、マスターはどうやって多岐にわたる情報を効率よく集めているんだろうか。一癖も二癖もある客を相手に、彼らの話をどう拾って膨らましているのだろうか。
タ「実際、お店には毎日いろんな事を考えてる人が来るわけじゃない?マコさんはSFネタみたいに柔らかいものからサイエンスとか社会系の固い話まで、話題の幅も広く持ってるでしょ。何の話題にせよ、その話題の前提になる知識とか情報を知ってないとお話にならない訳だけど、どうやって情報を得てんのかな。」
マ「まずどうして知識が身に付かないのか、って話だけど。そもそもさ、どんな知識も情報も、結局は人にくっついてくるんだよ。」
タ「人にくっつく?」
マ「その人の主体はその人の生活なわけですよ。そこから遠いものは、どんなに簡単な事であっても遠くて届かないんだよ。」
タ「学問的にシンプルでわかりやすくてもその人にとって無価値だったら理解はされないってことか。」
マ「その人の生活にとって関係ない事、と判断されてしまったら「なんでこんなカンタンな事知らないの」って言われても「だって関係ないもん」ってなっちゃうもん。俺の場合は、幸いにも学生から社会人までいろんな人がカウンターに来るから、いろんな話を自分に身近なものとしてとらえることができるわけですよ。」
タ「身近なもの、ってのはマコさん本人は当事者じゃなくても身近に感じられるの?」
マ「当事者の関係者、ってだけで身近にはなるよ。たとえば、こないだ御岳山が噴火したよね。で、昨日の話なんだけど、まさに「友達が噴石に当たって体中骨折して、背中一面やけどして運び込まれた」っていうお客さんが来てたのね。そういう人に対面すると、噴火のニュースも実感を持って俺には受けとれるんだよ。俺の場合は、いろんな人と関わってるから、いろんなニュースが自分にとって1ホップで関係があることになるんだよね。関係ない人にとっては、ブラウン管の向こうの話になるわけじゃない?自分の生活に関係ないと興味は持てないよね。」
自分にとって関係のない事はいくら簡単でも身に付く事はない。この前提を持っておくと、目の前の人に自分が共感することから始めることができる。すると自分の中にも相手の関心と重なる情報が定着する事になる。他者を知るとは、その人と同じ情報を持つ事なんだろう。それでやっとコミュニケーションが成立する。
伝えたい事があった時には、自分の意見をやみくもに与え続けるのでも、「自分にとってのわかりやすい喩え話」にするのでもなく、相手に共感を持つことで初めて、情報を相手に伝えるための筋道が見えるということだろう。
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2:モテたい気持ちが足りない
マ「高井ちゃんとかサイエンスライターの人とかはさ、正しい情報を伝えるのが目的でしょ。」
タ「うん」
マ「俺はウケたいだけだもん。うまい事言いたいだけだよ。」
タ「直球だなw」
マ「で、人に受けたりうまい事言う時に必要なのは、常識をつかむことと受け手を想定する事なんだよ。その二つの軸がぶれてると受けないんだよね。うまい事も言えないんだよ。」
タ「相手が見えてないと独りよがっていい事言った気になってるだけだよね。」
マ「何かの話を説明したり、自分の意見を相手に言う時に俺は比喩表現を多用するんだけどさ、それはわかってほしいとかウケたいからなんだよね。例えばここだったら(数名の常連さんを見て)・・プロレスの話だったら大丈夫かな、とか野球で喩えても大丈夫かなとか、何で喩えるかはお客さんを見て判断するのね。そういう注意を払わずに、俺の中に複数あるオタク属性の中から自分の言いたい事だけを引っ張り出すのはダメなのよ。突然オカルトを引っ張り出して「・・それはまあアレイスター・クロウリーみたいな話ですよ」みたいな事を言ってもさ。」
タ「こっちはポカーンだよねw なるほどなー。でさ、俺がすごく気になってるのは、新宿三丁目のバーのマスターはそれができるのに、どうして科学技術を広めようという人はそれができないことがあるのかってことで。」
マ「モテたい気持ちが足りないねw」
タ「あ、でもけっこうそれ本質かもね。この人にわかってほしいという気持ちが伝わらないよね。そもそもわかってほしい「人」のことを
知る努力が足りないのか。」
マ「まあでも三丁目のバーのマスターだからなのかもね。数年前からマーケティングの用語で“ペルソナ”とかっていうじゃん?」
マーケティング用語の「ペルソナ」とは、統計学を用いて分析された顧客像のこと。定量的・定性的な分析によってその企業の「典型的な顧客」を設定し、年齢や生活、価値観、行動などをストーリーに仕立てたものだ。
マ「ウチの店には架空の「ペルソナ」じゃなくてリアルな人間が毎日これだけ来るからね。で、俺は常に「この人に受けたい、この人にも受けたい」だからね。そりゃ当然その人の顔も名前も前回どんな話をしてたかも覚えてるよ。目の前に具体的な人間がいるのと、なんとなく漠然とした「社会」とか「一般人」を相手にしてることの違いだろうね。」
たまに研究者の方々から「一般の人々に伝えたいんです」という相談をいただくことがあるが、僕は「その“一般の人々”が誰かわからないのだから悩むのは当然です」と答えている。マーケティングの「ペルソナ」はとりあえず統計学的に算出されたものらしいが、そういった根拠もなく「一般の人々」を相手にしているつもりなのはいささか傲慢というものだ。
マ「まあでもアレだ。受けなかったらその仕事やってる価値はないよ、っていう覚悟が足りてないかもね。極端な話だけど、科学コミュニケーションのコンテンツは予算が降りてくるんじゃなくて、全部投げ銭方式にしたらいいかもしれないね。自分たちが伝えようとしているモノは正しい、って思うことはいいんだけど、方法に関する検討が足らなすぎる。いい事で正しい事なんだから、地道にやれば絶対広まる、評価されるって思ってるのだとしたらよくないね。まじめにやってるNPOとかを見ててもそう思うし、極端な方向に走っちゃった人も同じ事なんだけどね。」
タ「それは俺が良く言ってる、”正しくて正確な言葉を並べたら責任果たしたと思ったら大間違いだよ”ってことだよね。」
マ「目的は立派だけども、目的が立派なことが手段が適当なことの言い訳にはならないんだよね。俺はバーのマスターだけど、バーの社会的な意義について論理的に説明することはできるけど、それでわかってもらえるとは思えないな。」
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3:求められた安全神話
相手に伝わるベストな方法を探るために、相手のことをきちんと観察して共感する。伝えたい事がどうやったら届くか、という方法を検討する事が「モテたい」ということだ。だからマコさんの喩え話は、それぞれのお客さんに合わせたものになっている。
マ「でもさ、これって高井ちゃんとサシで話してるからできることなんだよね。同時に伝える人数が多くなると切れ味が鈍くなる。ギリギリのきわどい喩えってのは、相手の価値観にハマってるから効果があるテクニックだよね。俺は比喩によって内容が多少ブレてもいいと思ってるんだよ。」
タ「なるほどね。比喩表現って伝わり方に誤解が生まれるから危険だ、ってことになりがちだけど、マコさんの場合は、そこはそもそも求めてないわけね。」
マ「そうそう。相手に啓蒙する気もないし。興味あったら自分で調べれば?とも思うし。調べて分かんない人はたぶん教えてもムダだよ、ってちょっと思ってるしね。」
タ「あ、そこ結構ドライなんだね。」
マ「わからない人には安全神話を与えておけばいいよとも思ってるんだよね。」
タ「ワーー!なんか危なっかしいところに飛んだなww」
マ「いやいやいや、それがニーズに応えるってことなんだよ。」
タ「??」
普段、科学系の話をマコさんとしていて、バイオからIT、宇宙工学まで幅広く知ってるなあと感心していたんだけど、まさか「わからない人には安全神話を与えておけ」とは。しかもそれがニーズあってのものってのはどういうことなんだろう。
マ「結局、安全神話を持ってきて国は人を騙していた、とか言うけどちがうんだって。安全神話ってのはそもそもニーズがあったんだよ。だって日々会社の仕事が忙しくて追い立てられてる人に、全員が原発の安全性を自分たちでチェックしてみてくださいなんて。そんなヒマはないんだっつの。だから一旦責任を担保してもらって、安全だという事にしてくださいっていう話なんだよ。騙されたとか言ってるけど、そもそも我々が責任を丸投げしてるんだよ。」
タ「なるほどね。」
マ「それで、言ってたのと違ってたからみんな怒ったんだよね。それはわかるよね。つまり投資みたいなもんだったんだろうね。お金はあるけど時間はないからあなたに運用を任せますよと言って、「絶対儲かるって言ったのに儲かんなかったじゃん!」って怒ってるんだよ。ダメだった原因は天災とかしょうがないこともあったし、そもそも預けたのは我々だよね。じゃあその責任を自分の手元に返された結果、何を判断すればいいのかわからなくなって右往左往してる訳でしょ。」
タ「結局俺たちは何信じりゃいいの?ってことになってる原因はそれか。」
マ「俺は誰もが正しい科学的知識を身につけて判断するべきだってのはあんまり賛成してないんだよね。だって、安全神話を信じてるほうが幸せな社会っていうのが想像できるからね。」
タ「自分で調べてちゃんと理解して判断してモノを買うとかっていう社会よりも。」
マ「上から降りてきた情報を信じられる方が幸せだよね。」
タ「社会を無条件に信じられるっていうのはそりゃ幸せだよねえ。」
マ「3.11で決定的に傷ついたのはそれだよ。専門家の言う事を信じられなくなったことだよね。」
タ「科学の信頼をどうやったら取り戻せるのかってのはすごく難しいよね。でもさ、新しい安全神話をつくることが、もはや叶わなくなっちゃったわけでしょ?」
マ「うーん、どうだろう。現実的に、安全神話を信じた方がみんなが幸せだ。って思い始めればいいんだろうね。新しい権威が必要だ、っていうことじゃなくて。権威の新旧は関係ないかな。安全神話がフィットすればまた信じるだろうね。」
タ「うーん悩ましいな。」
確かに「みんなが科学リテラシーを上げて、自分たちで正しい知識を得られるようにしよう」という目標はなんだか無理筋な話だなあと思った事がある。科学について興味を持ってもらいたいと思って、楽しさを強調してみたり、必要性をアピールしてみてもなかなか届いていかない事があるよなあと感じていた。新しい安全神話を与える、というのはひとつの方法としてありかもしれないが、現実的ではない気もするなあ。情報そのものが溢れちゃってるんだから、みんなが一つのものを信じろってのは難しくないかな。
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4:興味は奪うもの
神話の話は置いておくとして、どういうコンテンツで科学を伝えればいいのかという話は、関係者の間でもよく出てくる。サイエンスコミュニケーションを傍から見ていると、大きく欠けている視点がある。
タ「どうやったら科学関連のコンテンツそのものに興味を持ってもらえるかって話題は毎度出てくるけどボンヤリしてるんだよね。」
マ「興味を持たせるってことは、相手の時間配分を変えさせるということなんだけど、その視点が欠けてるかもね。空っぽの頭に何かを入れるっていうことじゃないんだよ。すでに何かで埋まってる部分を科学に充てなきゃいけないから、他のコンテンツに勝たなきゃいけないよね。その視点がないんじゃないかな。」
タ「あー、その危機感は薄いかもしれないね。」
マ「国民の時間を奪い取らないといけないんだよ。SPAを手に取るんじゃなくて、ニュートンを手に取らせなきゃいけないって話だよ。そういうイメージ。もっと、人のどういう時間を切り取っていくのかを明確にした方がいいんじゃないかな。それこそ完全にターゲットを絞ったファッション誌くらいに。実際にファッション誌は2歳刻みとかで奪い合いしてるでしょ。」
確かに20代〜30代の女性誌、というだけでも山ほどある。それぞれの狙いは雑誌によって異なっていて、勉強の時間と金を美容と恋愛に充てさせるのか、子育てとお弁当を作る時間をキャリア磨きに宛てさせるのか、など様々だ。
マ「それと同じで、ターゲットの生活スタイルを想定しつつ、そのうちのどの時間を科学技術にあててもらうか。“どの時間を削らせるか”を考える。2chまとめを眺めてる時間を奪いたいなら、極端な話だけど科学技術まとめ記事のタイトルが”ちょwおまwwww”とかになっててもいいかもね。それは広告代理店が入ってマーケティングしてもいいことだろうね。」
タ「たぶんその辺の戦略は多少なりとも考えてると思うんだけど、傍から見てて健気かつ残念に思うのが、科学コミュニケーション界隈の人たちって、その「相手の時間を奪う取り組み」を自分でやろうとしちゃうんだよね。だからアウトプットが残念になる。キャッチコピーひとつつけるのも、誌面のレイアウトデザインを組むのもそれ専門の職業があるくらいノウハウが求められることなのにね。もしかしたらその問題には気づいてるけど、許可が降りないのかな。つまり「人に頼る事」に予算が降りる環境なんだったら、とっくにプロが入り込んでるよね。」
科学技術のテーマで人々の時間を奪うことに成功しているのは、NHKの「考えるカラス」かもしれない。シンプルな実験を見せて、実験結果の謎解きを視聴者に丸投げするというものだ。誰もが知っていそうな実験なのに、想像と違う結果が出るから毎回驚いてしまう。しかも番組にもWEBにも書籍にも答えは書かれていないのだ。考える事を止められなくなるし、実験自体は簡単だから自分でも再現してしまう。
これは圧倒的に練り込まれた企画と、その練り込みをあえて感じさせないように配慮されたシンプルで巧妙な演出、実験自体を観ていて気持ちのいい映像に仕立て上げる撮影技術とリテイクを重ねた現場スタッフの力だ。プロが入る、とはこういうことだと思う。
マ「何かの事象に対して、他の出来事との関連性をどれくらい想起できるかってのはすごく大事で、空が青いのはなんでか、っていうだけでも理由を教えるんじゃなくて、そこには深く、いろんな学問の分野が広がってるってことを見せてあげるといいよね。」
タ「それが見えてくると、勉強することは自由になる事なんだなと思えるようになるよね。本当の意味でのリベラルアーツだよ。」
マ「関連性を見出すところをプロがすこし橋渡ししてあげるといいかもね。・・ていうかさ、そもそも科学リテラシーを上げたいってのはそれが良い事だからなのか、アカデミアとしてリテラシーが上がってほしいってことなのか。どっちなんだろね。もしかしたら我々市民も別に科学技術について知りたくはないし、アカデミア側も別に無理して知ってほしくはないってことはないのかな?」
タ「うーん。例えばIPS細胞とES細胞の話でよく聞くけどさ、IPSが世間で認知されて、ワーイすごーい!ってなったから、その世論をバックに研究費が増えたりしたって話あるじゃん。んで一方ESは予算を絞られちゃったとか。まあ詳しく調べてないから飲み屋の与太話だけどさ。科学リテラシーを上げて研究に対する理解を促進したいってことは、そこに税金を突っ込んでも文句を言うんじゃない、ってことでしょ。」
マ「んー・・金か。金の問題だってことはハッキリ言っちゃってもいいのかもね。そこをごまかしてるから結局ボンヤリしちゃうし。俺、さっき投げ銭方式にしたらいいって言ったじゃない?その方がわかりやすい。いまやってるのも本質はそういう事なんだから。その意識が欠けてるから漠然とした“一般社会”とか“一般人”とかになっちゃう。」
タ「俺はハッキリ言っちゃっていいことだと思うな。そういえば今日青色LEDでノーベル賞取ったじゃん、研究開発が経済にもつながってたし。あ、でも基礎研究についてはどうなのかな?我々が生きている間には形にはならないかもしれないけど、この研究は必要だ、ってのもあるよね。でもそれには金がいるのだ!って言われても素直に納得できるかな。」
マ「そこで歴史感覚が必要になるんだよ。100年前のご先祖様がセックスしなかったらあなたは今ここにいないよね、って話。銀座も江戸時代に埋め立てた場所なんだよとか。今は100年前の人が100年後のことを考えた場所に暮らしてるんだよ、と。」
科学リテラシー=理系の知識、となりがちだけど、歴史や社会についての理解と想像力も大事だなと思う。全ての分野に精通するべき、とは思わないけど、知識と知識をつなげる力があれば、物事の見え方が変わってくるんじゃないかな。
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5:市場でPDFは見ないだろ
タ「さっきガレージで勉強会やった時はさ、みんなにどうやって情報収集してんのか聞いて回ってたのよ。マコさんはいつも何を調べてんの?まさか2ch??」
マ「2chは見てないねww可能なら原典にあたるよ。日本一PDFを開いてるバーテンダーかもねww記者発表とかがあったらプレスリリースを見に行って、一応目を通すし、学術系のやつだったら専門的なことはわからなくても、 サイエンスポータルみたいにプレスリリースをまとめて見れるところがあるから、そこいってみてる。数式とかはわかんないけどね。気になった単語があったらwikiで調べて、他のところも読んでるよ。」
タ「・・すごいな。」
マ「しっかり理解しようとはしてないよ。流し読みのスキルじゃないかな。ダーっと流して見る。それを繰り返すと何度も見かけるモノが出てくるのね。何度も出てくるってことは自分の生活や興味に近い情報なはずだから、それなりに調べることができる感じかな。」
タ「ホオー・・」
マ「・・まあこれ店がヒマだからできることであってww」
タ「www」
マ「普段仕事で忙しい人にはまずできないよね。だから安全神話でいいし、と思っちゃうよね。俺みたいに調べる事ができるのはヒマだからだよ。日々忙しく働いてるエリートビジネスマンだけに限らず、朝早くから築地に行って魚を仕入れてる人とかにそれをやれってのはおかしいだろ。」
タ「じゃあそのために噛み砕いたメディアが必要なのだ、となるけどマス媒体の取り上げ方には信用はないんだよね。」
マ「近所のご隠居が復活すればいいんだけど、それも今ダメになってるかw」
タ「マコさんがご隠居になった時に、マコさんが言ってる事ならまあわかるんだけど。ほかのご隠居の中にはどんどん凝り固まったり威張るだけの人も出てきそうでしょ。」
マ「それの勝負になったら受けたい気持ちの強い俺が勝つんだよ。」
タ「そこなのか。」
マ「俺は誰からも愛されたいからね。」
タ「知らないよww」
マ「いやいやそこだよ!間違った情報を与えちゃったら、もうそのお客さんは来てくれないんだよ。聞いてて楽しく、しかも間違っていない情報を与え続けるのが自分の利益にかなうんだよ。バーだけじゃなくてご隠居としてもそうなんだって。正しい知識は確かに必要なんだけど、それだけじゃご隠居はやってけないよと。」
知識、というより知恵と呼ぶものを授けてくれる年長者がいる社会。祭そのものや祭のコミュニティを研究している西嶋一泰さん( @souryukutsu )と長老や年長者の役割について、以前イベントでお話をした。年長者は若者の自由を見守りつつ、彼らの経験に無い危険を回避するための存在だとのこと。年長者の存在についてもう少し詳しく聞いてみた。
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6:ご隠居の長い杖
タ「・・うー。俺はご隠居そのものへの警戒心も少なからずあるんだよなあ。」
マ「それは老害みたいになっちゃうからでしょ?」
タ「そういうこと。」
マ「ご隠居ってのは本来社会的な地位を捨てたものだから。」
タ「あー、えーと・・水戸黄門?」
マ「水戸黄門は副将軍だから。最後は権威でねじ伏せるからwwwほんとのご隠居ってのは、家の商売を息子に譲り渡して、店には口を出さないよと。俺はもう何もやらねえよ、と引っ込んでる人だから社会的な影響力なんて無いんだよ。でもたまに30年に1回しかない大惨事とかをご隠居は知ってるから、息子たちが聞きにくるんだよ。」
タ「長老が口を開いたらその時点で問題は起こってる、って話か。」
マ「一般的に知識人とか文化人ってのは、村のお情けで飼ってもらってる人間なんだって話があってね。普段は何の生産性も無いし役には立たない存在なんだけど、何かあった時にもしかしたら役に立つかもしれないと。で、何かあった時にヨロヨロやってきて役に立つ事を言って、それが終わったらおとなしく村はずれに帰れ、と。」
タ「うーんなるほど。・・でもそれは聖人だね。」
マ「隠遁者だね。最近の知識人は前に出過ぎじゃないかなと思うけどね。でも科学の話に寄せて考えると、長老というよりその杖が大事で。自分の目の前によくわかんない話があったときに、その杖とか棒を刺すんだよ。ズブズブって刺して、ああこの話はこれくらい深いか、あの時の印と同じくらいだな、っていうようにざっくりとした当たりを付ける。我々市民が科学技術を身につけるっていうのは、専門的な知識を間違いなく覚えるってことではなくて、わからない事に当たりをつけるための棒を持つことなんだよね。詳細に測れる10センチの物差しではなくて、ざっくり目盛りがついてるけど1mくらいまでの深さならだいたいわかる、っていう能力が役に立つ事が多いんじゃないかな。」
科学と触れ合おうと思ったときに、細かいデータまできちんと覚える必要はない。わからない事へ探りを入れられる程度の情報があればいい、というのは研究を生業としていない人にとっては正しいと思う。だが夜な夜なPDFを流し読みする、というのも結構大変な話だ。情報を斜め読みするには新聞を数紙購読して読むといい、なんて話をサラリーマン時代にビジネス書で読んだ記憶があるが、そういうこともバーテンダーはやるのだろうか。
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7:わからない人の基準がわかる番組
タ「マコさん新聞情報とかどうしてる?何紙か購読してるの?」
マ「紙は読まないけど電子版は1紙入ってるよ。登録しなくても読めちゃうのもあるけどね。」
タ「バーテンとして気をつけてる情報収集とかってあるの?ほら、銀座のキャバクラではキャバ嬢がすごい勉強してるとかそんなやつ。」
マ「意識的にやってんのはめざましテレビを見る」
タ「え、めざまし?なんで?」
マ「何を売ろうとしてるのかがわかるから。難しいニュースとかがわからない人の基準がめざましテレビだからだな。視聴率が高いってのもあるし、雑誌で言うと広告記事に近いコーナーが多いよね。タイアップが多いってことは金が動いてるってことだから、企業が何を売ろうとしてるかはわかるんだよ。「あ、めざましが取り上げたな。ってことは・・」って想像するんだよね。」
タ「たしかにキー局の番組でのタイアップなら大きく経済が動いてるね。」
マ「自分の興味があることの何個かが2日、3日遅れとかでめざましテレビで取り上げられてたりするんだよ。Twitterで話題になったこととか。それを継続して見ていくと、自分が普段触れている情報とめざましテレビの偏差みたいなものが見えてくるんだよね。エンタメ情報も含めて、いろんな企業が売り出したいことの一番トップ集団がめざましテレビでの告知にはまとまってるんだよね。マーケティングのまとめを見てる、っていう感じかな。」
タ「でもさ、番組はプロデューサーとディレクターのフィルターがガッツリ入るじゃん?報じ方とか演出で内容が偏ることについてはどう見てるの?」
マ「報じ方は関係ないんだよね。」
タ「そういうもんか。」
マ「ほら、俺は構造主義者だから(真顔)」
タ「いや知らんしwwカッコつけなくていいしw」
マ「つまりさ、昔やってた”お父さんのためのワイドショー講座”ってあったでしょ。1週間の内でどの話題がどれくらいの時間(分数)報じられたのかってやつ。お父さんはアレを見て世の中の話題がどれくらい有名なことなのか測ってたんだよ。目覚ましテレビを毎日見るのはそれに近いことだよ。この話題は毎日やるんだ、とかあの商品6時台と7時台の両方で扱ってるってことは今流行に乗せたいってことなのか。とかね。フジテレビの自社広告になってる映画の特集とかは省くけど、何度も話題にするってことは情報として価値があるんだろうっていう判断をしてるよね。」
タ「それは面白い見方だなあ。Yahoo!のO君とかどう思ってるんだろうねそれ。」
マ「Yahoo!トピックスやってるからね、ど真ん中だよ。」
タ「そういう人を交えた勉強会って絶対楽しいだろうな。」
めざましテレビを構造的に見る、というのは誰でもできそうな(起きれれば)情報収集だと思う。僕の勉強会は、毎回「科学技術をどう伝える・広めるか」ということが根幹にあるのだが、それを語り合うメンバーはあえて様々なジャンルの人を巻き込むつもりだ。例えば文科省の人×大手広告代理店×大手WEBポータル×バーテンダー×デザイナー×研究者とか。お互いが気がつかない視点も出てくるだろうし、どうしても越えられない問題点だってゴロゴロ出てくるような気がする。
その後もマコさんとはプロレスの話やらキノコの話で盛り上がり、千鳥足で新宿の闇に消えて行くのでした。
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