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第2回ガレージ勉強会

僕の知りたい事をワイワイとビールを飲みながら教えてもらったり
一緒に考える。放課後の部室のような集まりが「ガレージ勉強会」です。
第2回のテーマは
「科学系の情報ってどうやって集めてるの?」
「研究を伝えるメディアのこれから」

今回のメンバーは
・理系ライターズ「チーム・パスカル」 森旭彦さん
 ( http://teampascal.jimdo.com/ )
・「学問の箱庭」 山田Pこと山田光利さん
 ( http://www.2nd-lab.org/ )

※高井・・タ 森・・森 山田P・・山

【目次】
1:科学系の情報ってどうやって集めてるの?
 ・一番早いのは直接聞く事
 ・論文ってどう見つけるの?
 ・図書館の使い方とこれからの図書館
 ・Googleどう使ってる?〜山田レーダーのテクニック〜

2:研究を伝えるメディアのこれから
 ・JSTニュース
 ・WIRED
 ・雑誌の人格
 ・週刊プロレス
 ・透明な巨人
 ・エア月刊ニコニコ学会β

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1:科学系の情報ってどうやって集めてるの?

僕は元々、科学や学術の世界とはまったく違うところにいたので、興味のある研究分野や調べなければならない研究内容を目の前にした時に、どこから手を出せばよいのかイマイチわからない時がある。

タ「そこでサイエンスライターの森さんとか、
  学術系の情報発信をしてる山田Pは一体どうやって
  科学系の情報を集めて、精査してるのかなと思ってですね。」
森「ああ、なるほど。」
タ「僕はかつて会社案内とかの映像を作ってたんですけど、
  そういうコンテンツならその会社の事業内容とか
  事業の市場状況を理解して取材に臨めばよかったんです。
  でも科学方面って、部外者から見ると取材前に知識を得るための
  とっかかりが全然ないというか。
  教授の取材案件が来て、その先生を大学のサイトで調べても
  情報が見つからなかったり、そもそも大学のサイトが
  グダグダだったりするじゃないですか。」
山「90年代みたいなサイトだったり。」
森「わかりますねーw だいたい同じ悩みを共有してますね。」

■一番早いのは直接聞く事

そもそもどうやって情報を収集しているのか、どれくらいの量なのか。
映像と文章の取材って似てるけど手法が違うんだろうな。

タ「理系の話とかはどうやって勉強してるんです?」
森「独学でやってますね。」
タ「参考書を読んだりとか?」
森「いや、こういうサイエンスノンフィクションを
  読んだりしてますね(本を取り出す)」

『人体の物語: 解剖学から見たヒトの不思議』
 (ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス)
http://amzn.to/1vupHdM

タ「目次が潔いなーコレ。
  “第1部 肉 骨 第2部 頭部 顔 脳”・・目次だけ見ても
  内容が全然わかんない!(パラパラと読む)
  ・・あーなるほど。脳とか顔とかにちなんだ歴史や社会背景とか、
  美術ではこう扱われてるとか。
  人体に絡めていろんな研究内容の紹介が書いてあるんすね。」
森「そうです。いろいろと空想するのが好きなんですよ。
  あとニュートンとかも読んでますね。
  趣味で読んでるけど、もちろんわかんない事の方が多いです。
  勉強してますよ。」
山「その分野について、電話とかでアドバイスをもらえる人
  とかはいるんですか?」
森「取材対象者(先生)に直接メールしてますね。
  取材された新聞記事とかあったらご提供ください、とお願いしてます。
  たまに赤っ恥をかく事もありますし、そもそも送っていただいたものが
  全然理解できなかったりすることもありますけどね(笑)。」

なんとなく「(無料で)論文ください」とか言ったら怒られんのかなとか思ってたけど、どうやらそんな事はないらしい。もちろん取材という名目があるから声を掛けられるのかもしれないな、と思った。
山田P曰く、公的機関主催の研究会を開催する場合でも同様にハードルは比較的低く、面識が無くても声を掛けやすいとの事。

雑誌記事のコピーなどを送ってもらうというのはとてもいい方法で、他メディアがどういう取り上げ方をしているのかという分析以外にも、その人の人柄や研究に対する思想みたいなものが垣間見える。

だが現在では、研究者の取材記事などの情報を大学や研究機関が整理・管理を
していることは稀なようで、本人とのやり取りが基本になるようだ。
その場合、仕事として調査するのであればハードルは低いのだけど、例えば趣味としてその分野に興味があった時、気軽に研究者本人に問い合わせられるかといえば、やはり気が引ける。

タ「大学広報とかがまとめて、検索できるようにしてほしいんですけどね。」
森「広報がしっかりしている大学とかなら、
  質の高い冊子をだしていたりしますけどね。
  しかし、ブログなどを使って研究室の日頃のフォローを
  しているところはあまり多くは見かけませんね。
  研究生がどんどん書けばいいのにと思うんですけどね。」
タ「ふむー。」
森「めっちゃ面白いと思うんですよ。
  ”今日は線虫に光を当てたら少し動きました!”とか。
  それちっちゃすぎて全然見えへんやーん!みたいな写真が
  延々と続くとw」
タ「グソクムシ状態w」
山「東大の情報学環のある研究室では、
  今は非公開になっちゃったんだけど、
  ゼミの参加者が皆でtwitterでつぶやいたりしてましたね。
  外から質問したら答えてくれたり。某大学では学内の研究が
  取り上げられた記事(地方新聞等も含む)を自動収集する
  システムを作って、情報収集に活用しているという話も聞きますね。」

そのシステムいいなあ。我々メディア側の人間にとって、リサーチの効率が上がる事はコンテンツの質に直結する。例えば映像コンテンツの場合、制作において対象の情報を詳しく知ることの他に、
・どう撮影する(ビジュアライズ)のか
・どういう時間軸で並べて構成するのか
・どの演出で伝えるのか(例:演者がいる=客観なのか/主観にするのか)
・どう補足し飾るのか(ナレーションや音楽)
など様々な要素を組み合わせて形にしなければならない。
制作に掛けられるリソースにも限りがある上に締め切りは絶対なので、取材対象の情報収集に手間取ると、調査が浅くなってしまうということが往々にしてあるのだ。

ここからは調査の効率と質を上げるためのノウハウについて、お二人に聞いてみた。

■論文ってどう見つけるの?

自分が学術の畑出身ではないこともあって、数年前まで論文を読んだ事すら無かった。もっと色々調べてみたいな、という気持ちになるのだが、知りたい情報の論文をどうやって見つけるのかがそもそもわからないのだ。

山「論文もタイトル決め打ちでいけるなら、
  最終手段は国会図書館にありますね。」
タ「でもそりゃまず無理っぽいなあ。」
山「アカデミアの外にいると大学にある論文検索のデータベースに
  当たれないですよね。」
森「国会図書館の司書に「こういう論文を探してる」って言えば
  探してくれたりするんですか?」
山「いや、そこまではやってくれないですね。」
タ「TSUTAYAの受付くらいな感じでしょ?」
森「TSUTAYAてww」

と、キャッキャしていたら山田Pからこんなブログを教えてもらった。
これを引用して教えてくれたようだ。
『自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる』
(読書猿Classic:between/beyond readers より)
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-237.html

いざ論文を調べよう、と思った時の方法として、
1:読みたい論文が決まっている場合
2:読みたい分野・知りたいジャンルくらいは決まっている場合
3:何から始めればいいか、さっぱりわからん場合

の3つのケースで効率的な調べ方を紹介している。

・・毎度思うけど山田Pの索敵能力の高さはなんなのだ。
山田レーダーと呼ぼう。


■図書館の使い方とこれからの図書館

森「いいリファレンサーを見つけるのには時間がかかるんですよ。
  僕は府中市に住んでるんですけど、多摩市の図書館に
  すごく優秀なリファレンサーがいるんですよ。」
タ「それは「こんな研究に関する本を探してる」って聞くと
  いろいろ出してくれるんすか?」
森「ある研究者を取材してて、その人は猿に関する研究なんですが、
  猿の研究に関するものをと頼んだら、その人の著書はもちろん
  似たような研究のものとか、信頼のおける出版社から出てる書籍とか
  いろいろ出てきましたよ。」
タ「それすごい!」
森「めっちゃ仲良くなりましたよ。
  図書館のリファレンサーがもっと洗練されたら
  趣味の学術研究も発達すると思いますね。
  Amazonで出てくるやん、みたいな本は全然求めてないわけですよ。」
タ「図書館に行っても、普通は本って自分で探して
  自分で借りるだけじゃないですか。
  だから図書館の受付ってただのバイトだと思ってましたよ。」
森「まあ今実際にはバイトのような状態にもなっていると聞きますけど。
  予算がなくて自分の名刺を印刷できない図書館もあるほどです。
  信じられないじゃないですか。」
タ「へえー。」
森「もっと市民に求められるような図書館になっていくべきですね。
  でも、そのためには図書館をうまく維持できるような環境を
  図書館の内側と外側の両方から整備しなければいけないですし、
  課題は山積みです。」
タ「外側というのはつまり、市民が図書館をどうとらえてるかって
  話でもありますよね。あの分野について知りたいんだけど
  ・・よし、図書館に行って司書さんに聞いてみよう!
  とかには今はなってないですよね。」

図書館司書さんをただの本の管理人だと思っていたのは僕だけではないはずだ。でも名刺が印刷できないほど困窮している、というのも困った話だなと思う。そんな状況に甘んじているのなら、その組織に所属している司書さん本人にもリファレンサーとしての自覚がない可能性だって疑ってしまう。
名刺が無い、とはつまりその人個人が求められる機会を逃しているということだ。それではいつまで経っても図書館は受験生の”背水の陣スペース”か老人達の憩いの場にとどまってしまうような気がする。

この辺りについては是非、岡本真さん( http://www.arg.ne.jp/ )や
ありらいおんさん( @myrmecoleon  )に
いろいろ伺いたいところだ。近々の勉強会のテーマにしよう。

(近々、岡本真さんが図書館のこれからについての本を出版されるとのこと。
 これは出版直後に突撃するしかないな。)

■Googleどうつかってる?
 〜山田レーダーのテクニック〜

僕はGoogleの使い方がヘタクソだ。毎度すごい早さで的確な情報を拾ってくる山田レーダーはどうやっているのだろうか。

タ「そうだ、Googleどうつかってます?」
森「すごいざっくりした質問やねw」
タ「や、僕超ヘタクソなんですよ。「〇〇 とは」程度しか
  やったことなくて。なんか特殊な使い方とかしてんのかなーと。」
山「僕は特許の仕事をやっていたので検索はそれなりにやってきました。
  僕がイメージしてるのは、調べたい事に対して、
  ”こういう検索結果があるとしたらそのページにはこういうことが
  書かれているはずだ”
と思ってキーワードを選んでいますね。
  検索結果にはどんなものがあり得るか、ということを予想してます。」
タ「ホワー・・そうなんだ。」
山「知財の仕事は、技術の新規性を評価するための先行技術調査が
  めちゃ重要なんです。自分もしくは自分の同僚がぽっと思いついた
  程度の技術は既に誰かが考えていて、
  既に公開されていると仮定して、先行技術を探すんです。
  それと同じように”世の中にはあらゆる情報があるはずだ”という
  前提をおくと、自分の想像した「こんな情報が載っているレポート」
  は必ず誰かが作っているはず。で、「その場合目次はこうだな」とか
  「こんな統計データが載ってるだろうし、図表のタイトルが
  こうなってるだろう」とか妄想するんですよ。
  それを検索キーワードにする。
  結果として誰かのブログとか残念なのに行き当たることも
  ありますけど、望んだものが見つかる可能性は高いです。」

探している情報に含まれるであろうキーワードを想像する。そのレポートなどの完成系を妄想して目次に含まれそうな単語を検索する。というノウハウ。
キーワードを妄想する力は、その人の体験や教養の積み重ねで磨かれていくものなのだろう。特に論文は「型」が明確に決まっているので、フォーマットを体得すれば望んだ結果にヒットできる打率を上げてくれるはずだ。

さらにその情報の信頼度をはかるためには、重複している検索結果はないか、
信頼のおける出所かどうか。などを確認する。ファイルタイプを絞って、PDFにしたり、ドメインを絞って政府系とか大学系に限定したりするというテクニックもあるとのこと。

・・山田レーダーやっぱすごい。(小並感)

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2:研究を伝えるメディアのこれから

サイエンスライターの森さんも、映像作家としての僕もアウトプットは違えどメディア側の人間だ。科学技術のジャンルで、今後どんな表現ができるのかについて盛り上がった。

森「科学系のネタは”ノーベル賞受賞!”とかならいいけれど、
  そうでない場合は興味のある人しか買わないですからね。
  やっぱり出版社としては売れたいし、
  そのためには面白いネタを持っていかないと。
  でも面白さの質はいろいろで、面白くするためには
  理屈が深くなるんです。そうするとわかりにくいという事になる。
  噛み砕き方にもよりますけど。」
タ「科学系の見せ方としてやりやすいのは「研究者の人間性」に
  フォーカスするというものですよね。でも、それってもったいなくて、
  研究も面白いんだよ、というのは伝えたい。」

科学技術や研究に興味を持ってもらう入り口としては「研究者のロマン」でいいと思う。憧れが最初の一歩を駆動する、と僕は思っているからだ。
だけど、それで気になっちゃった人が次の情報にアクセスしづらいのがもったいない。できれば興味の深さにあわせて、多様な楽しみ方ができる情報があるといいと思う。

そこで、科学系に関わらずいろんな雑誌媒体をあれこれ引っ張り出してみた。

■JSTニュース

創刊は1996年。「独立法人 科学技術振興機構(JST)」の活動内容の報告や、最新の科学技術・産学連携の取り組み・教育関連の情報などが掲載されている。
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/

タ「フリーペーパーなんですけど。
  読む限りではおそらく文科省がサポートしてる研究事業の進捗報告を
  兼ねているっぽいですね。」
山「ほんとだ。ページのタグにしっかり(国でサポートしている)
  プロジェクト名が書いてありますね。」
タ「読んでみるとすっごい面白い。毎号特集される研究の分野について、
  今研究はこれだけ進んでいて、今後の展開はこんな感じ。
  課題はこんな感じってのが書かれてますね。
  本文の内容を補足する図版とか写真もあるしキャプションも
  しっかりしてるし。研究のブレイクスルーのエピソードとか
  研究者のキャラクターも魅力的に書いてある。」
森「ちゃんと取材してますね。」
タ「内容は濃いんです。が、妙な違和感があるんです。
  正直、これは誰に向けて書いてるのかさっぱりわからない。」

記事全体を通して、視点が俯瞰になっているためか没入感や共感が湧かない。
ターゲットがあいまいなのかな。上から目線ってわけではないんだけど。
なんとなく”人ごと”っぽい距離感を感じ取ってしまう。

山「これはきっと省庁内の報告用につくってますね。」
タ「16ページくらいだけどフルカラーでお金かかってるよね。」

内容もここまで掘り込めばすごくおもしろい。この研究はここまで進んで、
近い未来はこうなるかもしれないぞ、という話がわかりやすく解説されてる。
でも伝え方が惜しい。読者はガラス張りのラボの外で見学してる感じ。

タ「この媒体の目的としてはこれでいいのかもしれないですけどね。
  でも広く人に伝えて巻き込むなら、例えばWIREDとくっついたら
  もっと面白くなるはず。」
森「WIREDは面白いですね。僕も関わってます。」

■WIRED

(ヘッダ情報)未来をつくるIDEAS + INNOVATIONS。最新テクノロジーニュース、気になる人物インタビュー、ガジェット情報、サイエンスの最前線など、「未来のトレンド」を毎日発信。US/UK/ITALIA版WIREDからの翻訳記事をいち早くお届け。日本発、注目の動向を追ったオリジナル記事も満載。

マガジンURL
http://wired.jp/magazine/

タ「これは読んでいる人と同じような疑問から始まったりするし、
  読者とシンクロしつつリードしてくれる。
  あまり深堀りはしていないけれど。」
森「それは誌面のスタンス、見せ方の違いですね。」
タ「WIREDの目線でJSTニュースの情報が読めたら
  めちゃめちゃ面白いですよ。」

僕がことあるごとに雑誌を引き合いに出すのは、かつて出版社に勤務していた事もあるが、雑誌はそれが「誰のためのものか」がはっきりしているからだ。
入れられる情報量に制限がある紙媒体であり、販売収益を上げなければ廃刊になるものだからこそ、WEBよりも明確にターゲットを設定しているように感じる。

メディアの向こう側。読者やユーザーが「どんな顔をしているのか」について
とても面白い資料がある。それが『雑誌の人格』だ。

■雑誌の人格

能町みね子さんが『装苑』で連載していたイラストコラム。
国会図書館で雑誌を読み漁り、筆者の独断と偏見でその雑誌を読んでいる人が
どんな人なのかを妄想している。
http://amzn.to/11zNzjI

タ「これは編集部に取材してターゲットを教えてもらったりとかではなくて、
  ひたすら雑誌を読んで、その読者はどんな人かを想像して
  描いているんです。で、その読者像がめちゃめちゃ的を得てるんですよ。
  例えばゲイナー(※1)だったら
  [オシャレを知らない男子学生から羽化した、
   成り上がり志向の強い社会人デビュー組]
が読んでいるww
  なんかすげーわかる!みたいな。」
森「あはははwすごいなー。めっちゃおもろい。」
タ「SPA(※2)君、とか。SPA君は、
 [男性ホルモンと社会性の狭間でバランスを取りながら暮らす社会人]
森「うわー!その通りや!めっちゃわかるわーwww」
タ「たぶん売れてる媒体って、編集部が設定するとかは関係無しに、
  これくらい顔が見えるんですよ。」
森「確かに。あ、『真夜中』(※3)だ。」
タ「真夜中さん、ありますね。えーと
 [未熟さを自覚し、あらゆる知識を渇望しながら、
  背伸びをして生きている若い男女]

森「あーなるほどwww」
タ「いいですよこの(イラストに書かれたキャプション)
  ”将来何になるかは分かんないけど、
  とにかく快適で本棚の多い部屋に住みたいんだ”

森「wwwふわっとしてる感じねwわかるわww」

的を得すぎて爆笑できるイラストコラムの他に、本文ではきっちりと雑誌の分析もしている本だ。オススメです。

勉強会の様子(音声ファイル)

※1『Gainer』(光文社) http://gainer.jp/
※2『週刊SPA!』(扶桑社) http://nikkan-spa.jp/ (日刊SPA!)
※3『真夜中』(リトルモア) http://www.littlemore.co.jp/magazines/mayonaka/

山「学会とか研究分野でもこんな風に楽しめる斬り方を
  してほしいですよね。」
森「あー、それはいいですね。」
タ「そうそう、俺そういうことが研究分野でもできると思ってるんだよね。」

森さんが話してくれた「面白さを追究すると理屈が深くなる。しかしそれでは分かりにくくなる」ということやそのために研究者の人柄にフォーカスするという伝え方に偏ってしまいがちな状況をなんとかしたいと考えているのだ。
『雑誌の人格』の切り口を研究分野に持ち込むと、それもまた「研究者の人柄」に焦点を当てる事になるのだが、ありがちな「研究者個人の人間性」ではなく「その研究分野の人たちの属性」という、すこしカメラを引いたような見え方になる。

研究者個人→研究分野の人たち→その研究分野の流れ、とズームアウトしていくために、さらにジャンルを跨いで雑誌を見てみよう。

■週刊プロレス

かつて、単一競技を扱うスポーツ情報誌としては異例の60万部を獲得したと言われる老舗スポーツ誌。すでに廃刊になってしまったが『週刊ゴング』との舌戦を繰り広げていた時期もあったとか。
http://www.sportsclick.jp/pro_wrestling/

森「これは・・濃いなーw」
山「うわあ。」
森「なんか写真がこれ・・人間の野菜炒めみたいですね。」
山「脂っこい。」
タ「wwプロレス全然詳しくないんだけど、これは読ませ方が面白くて。
  ページの横っちょに【親日】【全日】【ノア】とか
  団体が色分けされていて、ガイドになっているんです。
  知らない人が見ても一発でわかる。
  あと、例えばNumberだと、あるスポーツの勝敗に関する記事の方向性は
  スポーツ的な分析になるんです。つまりどういうトレーニングをして
  フォームがどう変わったからこの結果がでたのだ、とかなんです。
  でもプロレス雑誌では物語の展開を綴っているんです。
  この選手の勝利で、あの師弟関係が崩れてしまった!みたいな。
  まあプロレスは物語を楽しむものでもあるんだろうけど。
  ただ、物語は学術でもあるじゃないですか。」
山「iPSとESなんてそれこそそんなパターンですよ。
  ※△?◆◎(自主規制)とか」
タ「・・それタブーになりそうだけどねw
  でもそういう物語を見せてあげるっていうのは、
  楽しみ方のひとつの方法でもあると思います。
  受賞をしたことでなければ耳目を引かないというのは
  ちょっと違うよね。」
山「プロレス的に研究者移籍情報とかあればおもしろいですよね。
  たとえば△!◎※?(自主規制)とか。
  大御所から若手までそういうドラマはあるんですよ。」

傍でおもしろがるのはどうなんだ。不謹慎だ、という議論はあるかもしれないけど僕はそれは悪いことではないと思っている。もちろん野次馬のせいで研究が進まなくなってしまうのは良くない事だけど、研究の「世界」が面白くて研究自体に興味を持ってくれる人が増えるのであれば、様々な切り口があっていいんじゃないかな。僕のような畑違いの人間こそ、リスクを理解した上で多様な関わり方をした方がいい。

以前京大の講演でご一緒した
堀川大樹さん( http://horikawad.hatenadiary.com/ )が
「研究の支持をしてもらう以前に、自分の研究分野について”知っている人”の
母数を増やさないと意味が無い。支持者は”知っている人”からしか出てこない」という内容のことを話していた。認知される事、興味を持ってもらう事は研究を持続させることにも通じると思う。

森「時々Facebookとかで「このままじゃ科研費があぶない」とか
  つぶやいている人もいるけど、そういう人に横のつながりが
  生まれるだけでも価値はありますね。」
山「仮にすぐに研究成果がでなくても、その人の研究過程を
  綴っていくことでファンが増えたり、
  その結果マネタイズができるんであればいいと思いますよ。
  その人が研究者としての一生を楽しく送れるのであれば。」

■透明な巨人

ここまではエンタメ的な切り口での研究活動の伝え方について話してきたが、
もっと研究の「内容」を伝えていくためにはどうしたらいいのか。
つまり、「過去の研究の積み重ねに新たなページを足していく」という、研究活動の本質とも言える部分をどう表現すればいいか、という事だ。

例えばノーベル賞を取った研究者の報道なんかを見ていると、あたかも、とある天才が偉業を成し遂げたかのように伝えられている。でもそれは過去何十年と積み重ねられた多くの研究者の努力の上に成り立ったものであって、それこそが研究活動の素晴しさだと思う。だが、僕らはその積み重ねの素晴しさをどれほど具体的に知っているのだろうか。

タ「”巨人の肩に乗る”というけど、その巨人って透明じゃないですか。」
森「うん・・どういうこと?」
タ「過去の研究の積み重ねが大事なのは知っているけど、
  何を積み重ねているのかはわからない。
  どうやったらそれがわかるのかもわからないんです。
  研究者からすると、そんな疑問は自分も
  その分野の昔の論文を紐解いて理解するしかないのだ、
  という話になるんだろうけど。僕はその分野の専門研究者じゃないし。」
山「仲のいい大学院生に話を聞くと、彼らは博士課程の後期に
  入ったくらいで、100本とか論文をガーッと読んでマップを描くんです。
  その「マップ」っていうのは、“その分野の研究の現状を理解して、
  自分が追究する方向性を明確にしたもの”のことです。
  で、それ面白そうだから見せてって言ったんだけど
  「秘中の秘だからダメ」と。
  みんな持ってるけど見せられないものなんですよね。」
タ「なるほど。」
山「でもそれを我々に1からやれっていうのはムリですよね。
  その子達は研究者として生きていくという覚悟の上で
  100本マラソンをしているわけで。」
タ「まさに寝食忘れてやってるんだもんね。」
山「数ヶ月かけてやってるんですよ。」

たしかに研究者が文字通り血のにじむ想いで作り上げたマップを公開しろ、
というのは酷な話だ。我々メディア側は別の目的で研究の「世界」をとらえる必要があるという事なんだろう。でも難しいなあ。これは大きな課題になると思う。

僕がプロレス雑誌を観察したのは、実はこの問題に関係している。
ある「世界」の歴史や勢力図を理解する事は、リアルタイムで進むプレイヤーへの興味に直結する。大河ドラマのメディアミックスの手法はまさにそこにある。ドラマでは順を追って歴史を見せるけど、タイミングを合わせて「ドラマの舞台になった場所の観光ガイド」や「主人公の周辺で活躍した人の自伝」「関連する歴史小説の復刊」「記念日イベント」などで盛り上げていく。

現在進行形で進む研究分野でもそんな取り組みがあったら楽しい。
しかも多様なやり方で。広告代理店のプロデューサーとかに聞いてみるのも
面白いかもしれない。

透明化してしまった巨人を可視化すること、その方法や実践結果については
今後の勉強会の課題としたい。


【補足】
研究のための「マップ」について、後日山田Pに詳しく教えてもらった。
それをもとに僕が理解した範囲での補足をつけておく。

研究の第1歩は「先行研究の読み込み」から始まるようだ。
1本の論文にはたくさんの先行研究からの引用が含まれていて、それらを芋づる式に時にはインスピレーションによる飛躍も交えながら紐解きつつ、それぞれの関連性を“構造化”していく。(Aという論文では〇〇であり、それはBと△△について共通点がある、一方Cは・・)

先行研究をたくさん調べ、全体像を構造化していくと、これから取り組むべきポイントがいくつか見えてくるようだ。で、さらにその「取り組むべきポイント」が既出のものでないかどうかを調べていく。

そうやって磨き上げていって、自分が取り組む未踏の課題(リサーチクエスチョン)を1点に絞ることこそが「マッピング」であり、その研究分野についての自分の位置づけとなる。1点に絞るのは、論文の原則として
「One paper, One research question, One conclusion」というものがあるためだ。「マップ」自体の表現方法はそれぞれ異なるものの、過去の研究者の立てた「究極の1問」を敷き詰めて、そこに自分にしかできない「あらたな究極の1問」を加える事が、研究を”積み重ね、前に進める”という作業に他ならないのだ。

そのため、山田Pの話していた「100本マラソン」は、100本の選び方の方にオリジナリティが強く現れるのだそうだ。

で、ここからは感想なんだけど、その「自分だけにしか取り組めないであろう未踏の問い」を見つけられた瞬間というのはさぞかし感動的なんだろうと思った。そしてその過程の先行研究の読み込みと構造化は、とても真摯な取り組みだと思う。過去の何百人という研究者が遺していった知識を受け継いで、さらに先に進んでいく感覚はまさに「巨人の肩に乗る」ということなんだろうな。かっこいいなあ。

※山田レーダーより参考資料
「先行研究をまとめる5つのプロセス、陥りやすい3つの罠」
http://www.nakahara-lab.net/blog/2011/10/post_1803.html
「僕が中原研で学んだ「先行研究の読み込み」に必要な3つのポイント」
http://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-176.html
山「このコメントは重要。」
https://twitter.com/ikejiriryohei/status/514709337550245888
https://twitter.com/ikejiriryohei/status/514712299894886400
https://twitter.com/ikejiriryohei/status/490789669513076736
https://twitter.com/ikejiriryohei/status/490791361604358144


■エア月刊ニコニコ学会β

今回の勉強会のメンバーはニコニコ学会βとしても活躍していて、中でも森さんは『月刊ニコニコ学会β』の書き手でもある。

『月刊ニコニコ学会β』
http://bit.ly/1qGozwT

月刊ニコニコ学会βは、ニコニコ学会βの活動を紹介する電子書籍だ。
雑誌、というよりは「放送メディアでしか残っていないニコニコ学会βの活動をテキスト情報で記録しておく」という目的が強いかもしれない。
だが、「ユーザー参加型研究」を促進させるという目的においては、もっと多様な切り口があってもいいなと考えている。もし『月刊ニコニコ学会β』が「野生の研究総合誌」になったらいいなあ。

タ「あれだけ号数を重ねたのはすばらしいと思うけれど、
  中身は主にシンポジウムの報告書みたいになってますよね。
  それが目的だという事ももちろん知ってますが。」
森「もっと売りたい、というのもあります。何が必要なのかな。」
タ「うーん。遊べる余地じゃないですかね。
  今のものは読んでいてもワーすごい、とはなるけど
  そこにユーザー参加はない。
  つまり読者にとって、自分でも研究してみようとか、この集まりに
  参加してみようという欲求を駆動させていないように思います。」
森「ニコニコ学会はニコニコ学会の中の人に最適化されているよね。
  ニコニコ学会はオープンというスタンスではあるけど、
  そのコミュニティに深く入り込んで閉じてしまう要素を
  もっているのかもしれません。」
タ「今までは誌面のフォーカスポイントがシンポジウムしかなかったし。」
森「ニコニコ学会β自体がシンポジウム以外にお客さんがいないですよね。
  シンポジウムの間をサステインする存在に、月刊ニコニコ学会βは
  なっていくべきです。」
タ「年2回のお祭りであるシンポジウムだけではなくて、
  日常的な研究活動の場として分科会を盛り上げていこうというのが、
  最近のニコニコ学会βのスタンスです。」
山「月刊ニコニコ学会βの誌面内容もシンポジウムの中で閉じてないで、
  今日はあの研究会に誰それが参加してきた、というのでも
  いいと思うんですけどね。」

・・とはいえ、角川ミニッツブックの出版物なのでコストなどを考慮すると
なかなか無茶は言えないのだが。なので「エア月刊ニコニコ学会β」としてどんなことがやりたいかを妄想してみた。

山田Pの「シンポジウムの中に閉じない」とはとてもいい指摘だと思う。
ニコニコ学会βのメンバーは、シンポジウムの活動以外では個人で様々な取り組みをしている人が多い。足しげくハッカソンや勉強会に通う人もいたり、
仕事でエンジニアだけど趣味でも開発をしているような人がいたり。
僕は(エア)月刊ニコニコ学会βでは、”ニコニコ学会β”の冠すら不要で、
彼ら「野生」の視点で「野生の研究活動はこんなに多様だ」ということが伝えられると面白いなと思う。

【エア月刊ニコニコ学会β 妄想台割】
特集:義足で世界新記録。それってどこまでが「人間」なの?
   サイバースポーツを考える

→現在注目されている分野の研究についてのレポートや対談

バトン連載:野生の研究、行ってみた・研究してみた
→日本全国で開催されているさまざまな研究系イベントに参加。レポを書く。
 書き手は現地の人でもいい。交代で連載

連載:研究戦国絵巻
→毎号様々なジャンルの研究分野について、どんな歴史があるのか、
 どんな競争模様なのかなどを解説。
 「なんとあの研究者があの大学へ移籍!」という
 少々ゴシップ気味でもよいかも。

コラム10連発:有名研究者〜キャラの濃いアマチュアまで。
       テーマ不問で400字

→書き手はプロアマ問わず研究者。研究に関係ある必要はなし。

メンバー募集、友達募集:一緒に少女漫画の研究をしませんか?
            /3Dプリンタファン募集 などなど

→読者投稿ページ

研究会告知版:○月×日、菌研究者とエクストリームキノコ狩り!など
→読者投稿&ニュースページ

公募情報:人材&研究費公募ニュース

・・こう書いてみるとなんか普通だなw コスト無視してるし。
妄想するのは自由(とはいえいつか実現したい)なので、今後も勉強会では折に触れてメディアのあり方については考えていきたい。

追記:この勉強会の後、どうしても話を聞きたかったのが新宿三丁目のバーのマスター。市民のサロンになっている店の店長は科学コミュニケーションに何を思うのか。
→ 「第2回ガレージ勉強会 外伝

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