成人痙性脳性麻痺患者の歩行パラメータおよび下肢筋活動に及ぼす杖使用の影響:横断的研究

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概要

脳性まひ(CP)における歩行能力は,日常生活動作や生活の質(QOL)と関連している 。成人の脳性麻痺患者では,歩行能力が低下・喪失し,杖などの歩行補助具が必要になることが報告されている。Loganらは、歩行補助具を正しく使用すれば、運動能力が向上すると報告している。

【杖の利点】                             ・歩行の安定性を高める。
・下肢への体重負荷を軽減し、垂直方向の地面反力を軽減することができる。
・生体力学的な安定性だけでなく、感覚入力による中枢神経系(CNS)によるバランスの制御にも有用である。
・痙性CP児の杖使用時に歩行速度やケイデンスの低下、歩幅の増加する。
・杖使用時に腰部の筋活動が低下し、疼痛の予防につながる。

【目的】成人痙性CPにおいて杖を使用することが,歩行パラメータ,下肢筋活動,下肢筋共働化に及ぼす影響を明らかにすること。

本研究では,先行研究で報告されているように,杖使用時には歩行速度とケイデンスが低下し,歩幅が増加するという仮説を立てた。さらに,杖使用時には,下肢の筋活動および共働化が低下するという仮説を立てた。

方法

11名のCP患者(平均年齢28±10.3歳、総運動機能分類システム(GMFCS)クラス:I、3名、II、5名、III、3名)が参加。                  

組み入れ基準:(1)18歳以上                                                                                                     (2)痙性CPの診断                                                                                             (3)補助具なしで10m以上の自立歩行が可能                                                   (4)簡単な指示に従うことができる
除外基準: (1)過去6カ月以内に整形外科手術を受けている                                           (2)過去3カ月以内に下肢へのボツリヌス毒素注射を受けている
使用の杖:T字杖(0.35kg)、データ測定前に杖の長さを調整。       杖の長さ:足尖から150 mm斜め前方に杖を置いたときに,グリップが大腿骨大転子の高さになるように調整。                  

杖は,1本の場合は使いやすい方の手で持ち,2本の場合はそれぞれの手で持って使用した。2本杖の場合は、データ取得前に4点往復歩行(右手/左足、またはその逆)の訓練を行った。                             訓練は10mの歩道を3往復。全員が素足で快適な歩行速度で10mの歩行テストを実施。16mの歩道を使用し,加速と減速のために3mのエリアを設けた。各被験者は,以下の3つの条件で無作為に評価した。(1)杖なし、(2)1本杖歩行、(3)2本杖歩行。それぞれの条件で2回のテストを行いました。歩数と歩行時間を測定。                                          

筋電図(EMG)は,Trigno Wireless System(Delsys, Boston, MA, USA)を用いて,10mの歩行テスト中に2,000Hzのサンプリングレートで記録。このセンサーには,筋電図のほかに加速度計が内蔵されており,同時にデータを収集することができる。電極装着前に皮膚の擦過とアルコール洗浄を行い,インピーダンスの低減を図った。対象筋群は,大腿直筋(RF),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA),腓腹筋外側頭(GL)で,測定は3つの条件とも片側の下肢で行い,1本の杖を使用する場合は,測定側は杖の反対側の下肢としました。電極はSENIAMプロジェクトの内容を参考に配置した。また,加速度から1つの歩行サイクルを評価するために,かかとに1つの電極を取り付けました。各歩行テストの足踏みと足離しのイベントから1歩行周期を検出した 。歩数と歩行時間は,2回の試験の平均値とした。歩行速度,歩幅,歩幅時間,ケイデンスは,平均歩数と歩行時間から算出。

結果

杖を使用している参加者は3名、日常生活で杖を使用していない参加者は8名であった。                                   ■Repeatedmeasures ANOVAでは、歩行速度と歩幅の時間について、杖の本数で有意な差が見られた(歩行速度: F1.183, 11.826=10.599, p=0.005; ストライドタイム: F1.139, 11.390=10.711, p=0.006)。) 

 ■ポストホックTukey検定の結果、2本杖の場合と杖なしの場合では、歩行速度と歩幅の時間に有意な差が見られた(歩行速度:p=0.001、歩幅の時間:p=0.001)。

■反復測定ANOVAでは、すべての筋で杖の本数に有意な差が見られた(RF:F1.215、12.151=8.735、p=0.009、BF:F1.146、11.459=3.593、p=0.080、TA:F1.106、11.063=6.704、p=0.023、GL:F1.33、13.329=7.894、p=0.010)。

■ ポストホックTukey検定の結果、2本杖の場合と杖なしの場合では、すべての筋肉で有意な差が見られた(RF:p=0.001、BF:p=0.039、TA:p=0.004、GL:p=0.002)。

※しかし、すべての筋において、杖なしと1本杖の間、1本杖と2本杖の間には、有意な差はなかった。また、各条件でのCoIの違いを調べた結果を表2に示す。すべての条件において、CoIに有意な差はなかった。

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結論

本研究の目的は,成人の痙性CPにおいて,歩行パラメータと下肢筋活動を調査し,歩行時に1本杖と2本杖を使用することの効果を明らかにすることであった。その結果,2本杖は下肢筋活動を低下させたが,歩行速度も低下し,筋の共働化には変化がなかった。これは、杖の使用がCPの成人の下肢への負担を減少させることを示唆していた。

【なぜ歩行速度が低下するのか・・・?】                           ・脳卒中患者を対象とした研究では、日常生活で杖を使用していない人は、杖使用時に歩行速度が低下 。                          ・杖の使用による注意力の必要性が歩行速度を低下させることも報告さあり。                                          ・杖は推進力や制動力を発生させることができるが,それは使用方法や使用者の能力に依存する 。                          ※今回の研究では,8名の参加者が日常生活で杖を使用していなかったため,これらの要因によって歩行速度が低下。                
【GMFCS IIIの参加者は,2本の杖で歩行速度が向上したのか?】                    ・脳卒中患者を対象とした先行研究でも、日常生活で杖を使用している参加者の方が歩行速度が上がる。
【なぜ筋活動が低下するのか】                        杖なしと1本杖の使用、1本杖と2本杖の使用では有意差が見られなかった。①日常生活で杖を使用していない参加者が含まれていたこと。       ②参加者は成人のCPであり、CPの子どもに比べて身体機能が低下していることが予想され、1本の杖では十分な効果が得られないことが示唆される。                                 
【POINT:CPで杖を効果的に使用するためには】              まず杖が必要かどうかを判断した後,十分な練習と経験が必要である。

本研究では,杖なしよりも杖ありの方が歩行速度が有意に低く,また,杖なしの方が杖ありよりも歩幅が有意に大きかった。本研究における歩行パラメータの変化は,CPの子どもを対象とした先行研究と一致している 。Youngらは,杖を使ってより安定した歩行をすることで歩幅が広がり,CP患者の動きをコントロールするのに役立つと報告 。しかしながら,歩行パラメータは歩行速度に依存することが報告されている。したがって,歩行速度が低下したときに,戦略の変更や歩行速度の影響が歩行パラメータに影響するかどうかは判断できない。一方,脳卒中患者では杖をつくと歩幅が大きくなるが,CP患者では歩幅の変化は認められなかった。これらの結果から,CPでは歩行時の歩幅を大きくする能力が損なわれていることが示唆された 。また,すべての筋において,平均振幅で正規化した筋活動は,杖なしよりも2本杖で歩行した方が低かった。杖の使用は,体重負荷や垂直反力を軽減し,下肢の負担を軽減すると報告されているが ,筋活動は歩行速度に依存することが報告されている 。そのため、筋活動の低下が歩行速度によるものなのか、杖の使用によるものなのかは判断できないが、GMFCS III参加者では歩行速度が速く、筋活動が低下していたことから、杖の効果であると推定される。 結果的に、杖の使用はCP参加者の日常生活や治療における下肢の負担を軽減することになる。

So Whats?

杖に移行するタイミングや杖練習開始時時期は非常に悩むことが多い。GMFM、GMFCSで予後予測していくこと、認知面の問題など考慮していていく必要があると考える。ただ杖で歩行できることがすべてではなく、安定した立位保持ができるのも一つ重要である。歩行器にもたれながらダンスをする、歩行器使用で学校の運動場では走るなど、その子のニーズに合わせて行うことも必要と思った。

補足

【CPの成人の3分の1が慢性的な痛みを訴えている】               腰や下肢の痛みが多いと報告あり。

Jahnsen R, Villien L, Aamodt G, et al.: Musculoskeletal pain in adults with cerebral palsy compared with the general population. J Rehabil Med, 2004, 36:78–84

筋肉の過活動が痛みの原因の一つである

Broseta J, García-March G, Sánchez-Ledesma MJ, et al.: Chronic intrathecal baclofen administration in severe spasticity. Stereotact Funct Neurosurg, 1990,54-55: 147–153

CPの子どもは健常児に比べて筋活動を制御するパターンが少ないことが報告されている 。また,今回の研究対象者は成人のCP患者であるため,長年にわたって多くの異常動作が蓄積されており,動作パターンの変更が困難であることも考えられる。

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