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ヤンヤンヤンヤン、聞き飽きてきたのでなんとかしたい。トムヤンクンじゃなくトムヤムクンですよー!

意外とタイ料理関係者、プロ料理人も見落としがちな「トムヤムクン」についての基礎知識。

20年近くタイ料理を提供していますが、
たまーに「トムヤンクンお願いします。」とご注文を頂きます。
ご同席の方がいらっしゃる事が多いので、
何も言わずに承知しました。とは言います。
また先日「次世代のタイ料理とは?今後のレストランの在り方とは何か?」的な良タイトルの記事を見かけたので拝見した所、
知名度のある意識高い系オシャレ雑誌とは思えない初歩ミスがずーと...。
他の部分は良かったので一度なら誤植かな?で済むのですが、
頑なにずーとトムヤンクンだったので...。
それが今日のタイトルに繋がったので、誤解のないように書いてみました。
誰も敵に回してないはずです...。

まず、タイ料理におけるタイ語の基本法則として、
①調理法+主材料 もしくは ②主材料+調理法になります。
よくタイ料理本やガイドブックなんかで見ますね。
しかし注意深く読むと少し意味合いが変わってきます。
調理方法、作業動作が重複している時は、前提となる重要な調理工程+
この料理における何らしかの味の表現・テクスチャー等、
強調すべき調理表現の指示が書き表されています。

トムヤムクンはどうなるかと言うと、
トム 
ต้ม dtom 煮る
ヤム 
ยำ yam 和える
クン 
กุ้ง gung 海老

このように①が当てはまりますが調理指示が重複しているので、
前提となる重要な調理工程「トム ต้ม dtom 煮る」、
強調すべき調理表現として「ヤム ยำ yam 和える」、
主材料の「クン กุ้ง gung 海老」になります。

一見すると、海老や他の食材をバサッと入れて混ぜて煮た、
ごった煮的な料理になります。
色んな媒体でも良く目にする説明です。
多くの料理研究家さん達(タイ関係者とは言ってません、念の為)も
そう言ってますね。

しーかーし!
違う違う違ーう!!

まず前提として「煮る」とは食材を100℃程度の調味液で過熱する
調理方法のことです。
海老をグツグツ煮込みますか?
硬くバサバサになってしまって、うま味も何もないですよね。
新鮮であればあるほど顕著です。

ではこの場合、「煮る」とは何か?
これがトムヤムクンの重要な調理工程「トム」の重要ポイントになります。

何を煮るかと言うとトムヤムクンペーストでもチリジャムでもなく、
まして主材料なわけはなく、
海老の頭から取れる海老みそ、他の料理に使う際に出た海老の殻、
魚介類のアラと燻製にした乾燥唐辛子、レモングラス、パクチーの根を
「煮出す」事であって、決して「煮込む」のではありません。

魚介類のうま味とハーブの香り、唐辛子の薫香と深い辛みを出し、
ベースになるスープを作る事なのです。
「トム」とはその調理工程を表す言葉になります。

新鮮な海老味噌をたっぷり使うとスープに赤っぽさが付きます。
これが本来の赤色の正体で、イメージされやすいトムヤムペースト等の赤色ではない事が分かるかと思います。
日本では味噌たっぷりはなかなか手に入れにくいので、
タイ食材屋さんで「マンクン」と呼ばれる海老みそを購入して下さい。
ただし「ガピ」ではないですよ、あれは小海老の塩漬け発酵調味料です。
また、牛乳やココナッツミルク、コンデンスミルクなどのミルクを入れた
タイプのトムヤムクンナームコンは
ごく最近のレシピでもともとはトムヤムペーストやミルクは使いません。
ただ日本のタイ料理屋はこちらがほとんどですね。
タイでは本来のトムヤムナームサイと言うクリアータイプの方が好まれます。

さて、超重要な本日のテーマ 「ヤン」ではなく「ヤム」です。

皆さん、ヤムウンセンとかヤムヌアと言うお料理をご存じでしょうか?
和えた(ヤム)春雨(ウンセン)です。
そして和えた(ヤム)牛肉(ヌア)です。
どちらも食材のうま味、甘み、酸味、塩気、辛味を活かした
タイの和え物です。
この場合、前述のタイ料理名の法則では①に該当するので
そのまんまですね。

では何を「ヤム」するのか?何を和えるのか?混ぜるのか?
結論を先に。
和えません、混ぜません。


先に、前提となる重要な調理工程「トム」でベースとなるスープを作りました。
次に強調すべき調理指示として「ヤム  ยำ yam 和える、混ぜる」が入りますよね。
では、スープに何を混ぜんねん?って感じですよね。
この場合、和えた・混ぜたの結果の「ヤム」ではなく、
「ヤム」と言う調理法で強調したい、
「食材のうま味、甘み、酸味、塩気、辛味を活かす」に置き換わります。

この味の表現がトムヤムクンの「ヤム」です。
あくまで海老が甘くて、タイライムが酸っぱくて、タマリンドとトマトが深くて丸くの穏やかな酸味が加わって、
ナームプラーの塩気があって、フレッシュな唐辛子の辛い味つけをすることであって、和えたり混ぜたりするのではない事が分かります。
なので、
「トムヤム」とは、うま味を出したベースのスープに
「ヤム」の味付けがされた状態を表した意味になります。

これがとても重要になります。
決して「混ぜて煮る」ではないですよね。

あとポイントとして、
ハーブはレモングラスとバイマクルーというコブミカンの葉を使います。
間違えやすいですが、カー(南姜)という香り出しに使うハーブはトムヤムクンには使いません。
香りが強く、海老の持つ香りが飛んでしまいます。
鶏肉や豚足のトムヤムに使います。
この場合には軽く炙ると良い香りが出ます。
また仕上げにパクチーを入れてもいいですが、
パクチーファランというノコギリコリアンダーを使っても香りが良いです。
フクロタケは水煮の缶詰を使うくらいなら
ブラウンマッシュルームを使った方が香りと食感も良く美味しくできます。
ヒラタケも美味しいです。旨味がありダシが良く出るのでおすすめです。

ポイントはまだまだありますが、すっかり長くなりましたのでこの辺りで。
お分かり頂けたでしょうか?
少しイメージが変わったかと思います。
私も仕事なので、タイで美味しい店があると聞くと勉強に行きますが、
地味に自腹を切って食べる事の少ない一品です。
すっかり有名になってレシピも広まっていますが、タイ料理の神髄を表現するのにこんなに難しい料理もないだろうと思います。
タイでも日本でも腕の良し悪しは直ぐに分かる怖い料理です。

大事なのでもう一度、

「トムヤムクン」はクンをヤムの味付けでトムした料理ですよー!なので「トムヤンクン」じゃないですよー!「トムヤムクン」ですよー!!

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