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趣味学のススメ~今こそ見てほしい!今川版鉄人28号から『日本の戦後』を考える~

こんにちは、GAPです。

今年の2月から流行し、未だ猛威を振るい続ける新型コロナウイルス。
ついこの前まで緊急事態宣言が発令され、外出自粛により自宅で過ごす機会も多くなった中、皆さまいかがお過ごしだったでしょうか?
楽しみにしていたイベントがなくなり、旅行にも行けなくなってしまったため、気が滅入るような日々を送っていた方も多いかと思います。

僕はと言いますと、遊びに行く機会が減ってお金が有り余ったのと、元々インドア引きこもりヲタクな性格が幸いし、円盤を買い漁ってひたすら家でアニメや映画、海外ドラマを見ていました。
(こういう時ヲタクって便利ですね!)
気になっていたけど手が出せていなかったものや、過去に見てもう一度見たくなったものなどを片っ端から大人買いし、ほぼ毎日お酒を飲みながら観賞を楽しんだため、自分なりに自粛期間をエンジョイ出来たのではないかと思います。

観賞した作品はどれもこれも皆面白く、後でまとめて記事にしたいと思いますが、その中でも特に感動し、見てよかったと思ったのが、機動武闘伝Gガンダムやジャイアントロボ~地球が静止する日~などを監督した今川泰宏氏が監督を務めた「鉄人28号」です。

鉄人1

令和の世に古臭いな!と思う方もいるかもしれませんが、国難の時などと言われる今だからこそ見てほしいと言える価値と魅力が、この作品には確かに存在していました。

そこで今回は「今川版鉄人28号から『日本の戦後』を考える」と題しまして、鉄人28号というアニメの感想や、考えさせられたことなどを書いていこうと思います。

お時間ある方はお付き合いください!

これまでとは全く違った側面から描かれる鉄人28号

いきなり鉄人28号と言われても、「名前は聞いたことがあるが、実際に見たことはない」という方が多いと思いますので、最初は作品のおおまかな説明から始めさせていただきたいと思います。

鉄人28号とは、漫画家の横山光輝先生が連載していた漫画作品で、主人公の少年探偵、金田正太郎がリモコンで動く巨大ロボット「鉄人28号」を操り、様々な悪の組織やマッドサイエンティストと対決して事件を解決していくという物語で、連載されていた当時は掲載されていた雑誌「ぼくら」の誌上にて、あの漫画の神様と言われる手塚治虫の代表作「鉄腕アトム」と人気を二分していたビッグタイトルです。
今でこそ、ロボットと言えばガンダムやエヴァンゲリオンが有名ですが、それら巨大ロボットたちの元祖であり、先駆けとなった作品、いわば「日本ロボット作品の父」と言っても過言ではないでしょう。

鉄人7

その後、漫画の大ヒットを受けてモノクロのTVアニメ放送がスタートし、完結後もリメイクとして「太陽の使者 鉄人28号」や、初代アニメ版の続編「超電導ロボ 鉄人28号FX」と3回アニメ化され、更に2004年には実写映画化もされています。
今回紹介する今川監督版は2004年に実写映画化に合わせて放映された4回目のアニメ版鉄人28号で、太陽の使者やFXとは違い、原作漫画に作画を寄せて作られています。

ではストーリーも原作漫画に忠実なのか?と言われると、そういうわけではありません。
原作漫画では、作者の横山光輝が思い描く未来が舞台となり、レトロフューチャーな世界観で物語が展開していましたが、このアニメ版ではその原作漫画が連載されていた昭和30年代が舞台となり、焼け野原からの復興を遂げ、高度経済成長期へと突き進む「復興と発展の過渡期」を迎えた東京にて物語が始まります。

太平洋戦争末期、アメリカを筆頭とする連合国との長きにわたる戦争で窮地に立たされた大日本帝国軍は、起死回生の策として、『鉄人計画』という極秘作戦を開始。
それは、電波によって動く人型の巨大戦闘兵器を開発し、敵国に上陸。その圧倒的な戦闘力をもって戦況をひっくり返すという途方もない作戦だった。
その計画の責任者として軍から命令を受けた金田博士とその助手、敷島博士は南方の島で秘密裏に鉄人の開発と研究に従事し、無数の失敗を繰り返してついに一体の鉄人の開発に成功する。
本土の空襲によって亡くなった金田博士の息子の名前を取り、正太郎と名付けられた鉄人は軍の計画通り、ロケットでアメリカ合衆国の首都ワシントンへ向けて発射される予定だったが、自分が生み出した鉄人が罪深い兵器だと悟った金田博士は軍の司令官を殺害し、アメリカ軍へ島の位置を密告。後のことを助手の敷島博士に託し、自らは鉄人と共に米軍の空襲を受けてその身を散らす。
その後、島を脱出した敷島博士は終戦を迎えた日本へと帰還し、親友である警察官の大塚と再会を果たす。しかし、その大塚の腕の中には赤ん坊が抱かれており、その子こそ空襲で亡くなったと思われていた金田博士の息子、正太郎であった。
それから10年。「もはや戦後ではない」という言葉の下、平和な時代に訪れた復興と発展の活気に沸く東京で、少年探偵、金田正太郎は警察署長となった大塚と共に様々な事件を解決していく。
しかし、そんな正太郎の元に突如として、父が開発した罪深き兵器、鉄人が姿を現す。その瞬間から、正太郎は父である金田博士が起こした罪と、戦争という時代の陰が産んだ「過去からの亡霊」たちが巻き起こす事件に巻き込まれていく。

長くなってしまいましたが、あらすじはこのようになっており、鉄人は原作漫画やこれまでのアニメのように「明るい未来で活躍する正義のヒーロー」ではなく、「戦争という悲惨な歴史が生み出した負の遺産」として描かれています。

鉄人5


この部分だけでも、太平洋戦争という近代日本史の影の部分に深く切り込んでいて、僕は他の鉄人のアニメどころか、どのロボットアニメとも違う重くて暗いリアリティを感じて思わず姿勢を正してしましました。

立場の異なるキャラクターが見るそれぞれの「戦争」

全26話の長編アニメということもあり、この今川版鉄人28号には毎回様々な登場人物たちが登場しますが、主人公の金田正太郎とその理解者であり後見人の敷島博士、そして前半は正太郎の敵、後半は良き兄貴分となった村雨健司の3人が、全体の流れを牽引し、この作品の核である「戦争」をそれぞれ違った立場、視点から捉えることで物語を展開させていきます。

まず主人公である正太郎は、終戦と同時に生まれているため、戦争を知らない者の視点から、「今ある平和を守る」ということを主軸に行動しています。

鉄人3

戦争は恐ろしいものということは分かっているものの、平和な時代しか知らないあまり時に青臭い、もっと言ってしまえば「綺麗事」を口にし、戦争を経験してきたキャラクターたちの怒りを買ってしまうこともありますが、それはある種、平和社会の理想を体現した形であるとも言えるのではないかと僕は考えています。

鉄人37

次に主人公の理解者でもある敷島博士ですが、戦時中に鉄人計画をはじめとし、戦争という行為に直接関わった当事者しての視点を持ち、「過去の過ちの清算と贖罪」に主軸をおいて行動しています。

鉄人76

金田博士の助手として鉄人の開発に貢献し、その他の兵器開発に関わったことで巻き起こる事件に対して強い責任を感じ、平和となった日本の発展の為に己の全てを捧げていますが、不乱拳博士やドラグネット博士など悪役として登場した科学者たちには、同じ当事者として悪事といわれることであっても協力をするという部分もあって、善悪の狭間で葛藤する博士の姿は、まさに戦争の当事者たちの苦しみをそのまま表していると感じました。

鉄人33

最後に正太郎の宿敵、その後は良き兄貴分として登場する村雨健司ですが、彼は戦争の被害者としての視点を持ち、「二度と悲惨な戦争を起こさない」ということを主軸において行動しています。

鉄人15

戦時中に陸軍の情報部に所属していたため、戦争の参加者という点では敷島博士と同じですが、村雨の場合は東京に残っており、空襲で自分の友人や親しい人を亡くすという経験と、なんの罪もない市井の人たちが戦争によって死んでいくという悲惨な光景を目の当たりにしてきたため、博士とは違い戦争を起こしかねない、または戦争に関連するものは全て排除するという村雨の姿に、僕はどの登場人物よりも深く共感し、暗い時代を経験したからこそ未来に向かって前へ進むところは見習わなければならないと思いました。

鉄人36

この正太郎、敷島博士、村雨の3人の主張や信念が時にぶつかり、混ざりあうことで作品の核となる戦争というものをあらゆる角度からあぶり出し、物語に深みを持たせています。
また、この3人は観賞する人たちの代弁者という役割も担っているのではないかと、僕は考えています。
太平洋戦争は、観賞する人の世代や育ってきた環境によって印象が大きく変化してしまうほど難しい出来事です。
この3人の行動や思い、信念はまさに現代でも起きている太平洋戦争、ひいては第二次世界大戦とは何だったのかという議論そのものであり、自分と近い意見を持つキャラクターと視点を合わせることで、より作中の世界と戦争について考えることが出来るのではないかと思います。

戦争という歴史の闇が平和な世界に牙をむく

概要でも書いた通り、この物語は少年探偵として活動する主人公、正太郎が突如として飛来したロケットと、その中から現れた鉄人に遭遇するところから始まります。

鉄人6

自分と同じ名前を持ち、兵器として作られた鉄人に最初は戸惑い、道具として扱う正太郎でしたが、共に事件に立ち向かううちに、父が心血を注いで作り上げたもう一人の自分を認め、大切な相棒として接していくことになります。

鉄人39

その中で、正太郎はたとえ兵器として作られた者だとしても、使うものの心次第で善の力として、平和を守る使者になりうるのだと学んでいますが、ここの部分はアニメのOPにある「良いも悪いもリモコン次第」という歌詞の意味を如実に現しており、「強大な力を持つものは、その使い道に責任を持たなければならない」ということを深く感じさせてくれます。

鉄人34

父からの遺産を良い方向へ使っていくことに目覚め、一躍ヒーローとなる正太郎でしたが、戦争という時代の闇は容赦なくその牙を向け、襲い掛かってくることをやめません。
父が主導した鉄人計画の予備プランである「第二鉄人計画」において、喪った息子を人造人間として蘇らせた不乱拳博士。

鉄人16

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戦争に勝利するため人間の体を改造した「超人間計画」を推進し、その報いを受けたドラグネット博士と、その計画に己の夢と命を懸けた超人間ケリー。

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戦時中に南方戦線に軍医として従軍し、戦友を助けられなかった自責の念にかられて村一つを使ったおぞましい実験を行うブラック博士。

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上記のように、先の大戦が生み出してしまった、まさに「負の遺産」と呼べるものと次々と対峙し、正太郎はそれまで知る由もなかった戦争という出来事に、否応なしに向き合わされることになります。

こういったストーリーを見て、僕は「戦争を知らない世代に対するメッセージ」を強く感じました。
戦争を直に体験していない者に対して、こういった悲劇、惨劇が起こったということを伝えるのはとても難しいことです。
しかし、この鉄人28号においては正太郎という同じく戦争を経験したことのないキャラクターを代弁者として使うことによって、見るものの心にその重要さをより深く、リアリティをもって伝えてきているのだと思います。

戦争が産みだした罪と科学という巨大な力のあり方

鉄人31

物語が後半へ突入すると、世界経済を牛耳るベラネード財団が日本に上陸し、謎の秘密結社PX団が暗躍を始め、正太郎は鉄人と父である金田博士の正体に迫っていくことになります。

鉄人59

前半部分での正太郎はあくまでも戦争に関連した事件に巻き込まれる、いわば被害者としての側面が強調されていましたが、ストーリーが進むにつれて父、金田博士が研究していた未知のエネルギー、バギュームとそれを使った鉄人以上に恐ろしい兵器の存在が明かされたことにより、正太郎は「最悪の兵器を作り出した金田博士の血を引く者」として、戦時中に父が生み出した業を背負った当事者となってしまいます。

鉄人66

その結果、正太郎は法廷に召喚され、鉄人とともに公の場で裁かれる立場となってしまい、涙ながらに鉄人のことを訴え、自分が背負った罪を受け入れる覚悟をしました。
この正太郎の姿は、まさに国際社会における戦後の日本の姿を現していると僕は思います。
今でこそ世界第3位の経済大国として国際的に認められている日本ですが、太平洋戦争の後は「戦争を無用に長引かせた戦犯国」として連合国側から長らく責められる立場にありました。
法廷で多くの人々から非難を浴び、涙ながらに自分の思いを絶叫する正太郎の姿は、まさに当時の日本という国の姿そのものだと強く感じました。

鉄人74

その後、周りの仲間や支えてくれる大人たちの力によって正太郎は自分を取り戻し、日本を征服しようとするPX団とその裏で糸を引くベラネード財団に立ち向かっていきますが、黒部ダム建設の権利をかけたロボットレースにて、彼らが鉄人計画をはじめとする日本のロボット技術を兵器として悪用していることを知り、鉄人とともにアジトになっている黒部ダム建設現場へと向かいます。

鉄人85

作業用ロボットとして大量投入されていたブラックオックスを前にした正太郎は、鉄人にエネルギー炉にバギュームを投入し、一時的に強大な力を発揮してブラックオックス軍団を圧倒しますが、やがてその体はメルトダウンを起こし、ブラックオックス軍団や敵のアジト全てを巻き込みながら黒部ダムの底へと沈み、物語は幕を閉じます。

鉄人87

このメルトダウンした鉄人の姿に、僕の目にはチェルノブイリや福島第一原発の姿が重なりました。
原子力という強大な力は、正しく使えば電力を生み社会に幸福をもたらしますが、一歩間違えれば後の時代にまで大きな影響を及ぼす凶器になるというリスクを負っています。ゆえに、チェルノブイリも福島第一原発も、事故の後は厳重に封印され、人の手が及ばないような処理をされており、ダムの底へと沈んでいく鉄人の姿はまさにそういった原発の姿を連想させると同時に、戦争によって生み出されたすべての罪と業をその身に宿して散って行く姿に胸が締め付けられました。

総括~日本の戦後を振り返り、今自分に何が出来るかを考える~

ここまで書いてきたこの鉄人28号、正直見始めたときは監督が今川泰弘氏であることからミスター味っ子やGガンダムのようなネタ要素が強い作品だと思っていましたが、蓋を開ければ戦争というものの闇に深く切り込んだ作品となっており、今一度自分たちが生活している日本という国についてよく考える機会を与えてくれました。

※今川監督、ネタとか言ってごめんなさい。

はだしのゲンや火垂るの墓、この世界の片隅にといった戦争のことを後世に伝えるアニメは多くありますが、僕はこの鉄人28号こそが本当の意味で戦争を、そして日本の戦後と現在を考えさせてくれるアニメだと思います。
文部科学省はこの鉄人28号を推薦アニメとし、学校教材の一部とするべきだとさえ思います。

今日、8月15日は終戦を迎えた日。
日本が未曽有の戦争に敗北し、そして新たな時代に向けて踏み出し始めた日です。
高度経済成長やバブルを経て、日本は奇跡の復興を遂げ、平和国家として生まれ変わったといわれていますが、新型コロナウイルスが流行し、中国とアメリカの政治的緊張が高まるなど、不穏な雰囲気が漂っているのも事実です。
そんな今だからこそ、この作品を見て今一度、戦争と平和について考えていきたいと僕は思います。

そして、この記事を読んでくださった方がこのアニメを見て、同じように戦争と平和について考えてくれたら嬉しいです。

というわけで、今回の記事はこの辺で終わります。
近日中にこの鉄人28号の劇場版である「白昼の残月」についても記事にする予定ですので、そちらも読んでいただけたら幸いです。

長々と長文にお付き合いくださいましてありがとうございました!
また次回の記事でお会いしましょう!

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