テクシーさん。#7
-ゆびきりげんまん-
ダメダメ。
絶対ダメだよ。
梅田の街を駆け抜けながら私は自分に言い聞かせた。
警察官に追われている女子高生を連れて一緒に逃げるだなんて、誰が見たっておかしい。
追われている理由もわからないし、今日初めて会ったし。まだ自己紹介だってしてないし、顔が超タイプだし。
それよりrumi? お客様だったなんて、そりゃないよ。
「待ちなさい! そこの二人! こらー!!」
変わらず警察官は後を追ってくる、人数も少し増えているようだ。
「ハアハァ、ちく..しょう。なに..やってんだよ..はぁ」
阪急百貨店前のコンコースを抜け、富国生命ビルの横から東通り商店街へと入る。
終電を気にした飲み会帰りの無数の人が駅に向かって歩いてくる。流れに逆らうように私とrumiは人ごみをかき分け走り続けた。新御堂筋の高架も信号を無視して突っ切った。
運よく警察官は車に阻まれ立ち往生している。
「おい、こっちに逃げるぞ!」
私は握った彼女の手を引き寄せ、抱きかかえるように横路地に入った。
人もまばらになり、後ろから追いかけてくる気配も少しなくなった。
兎我野町の雑居ビル裏へ逃げ込み二人、息を整える。
「はぁ、はぁ。..おい、少し休もう..」
「そうね、はぁはぁ.. 足がもう動かないわ...はぁはぁ...」
二人とも汗だくになり、髪も乱れてしまっている。
「フゥー。ところで、なんで警察官に追われているの?」
息を整えながら私が質問すると、彼女は制服のスカートを正しながら小さく答えた。
「....手袋」
彼女は聞こえるか聞こえないかのボリュームで答えた。
「え?」
「素敵な手袋をしている女の人がいたの。どうしても欲しくなっちゃって...」
「盗んだってこと?」
同じブランドの手袋をお店で見つけて万引きしたのだろう。
彼女は遠くを見つめて動かなかった。
「...うん。蹴飛ばして、転ばして、無理やり奪い取っちゃった...」
「お、追い剥ぎかよ... 」
まさかの山賊的エピソードを聞かされ背筋がすっと伸びた。
その時、二人を探している警察官の声が聞こえた。
「まだ遠くへは行ってないはずだ。注意して探せ!」
複数の警察官がまだあたりを探しているようだ。
「このまま、ここにいても見つかっちゃうな。場所を移動しよう。」
「そうね。じゃあとりあえず目の前のホテルに隠れない?」
振り返ると輝くネオンの看板にホテルの文字が。
「ラブホテルだよ、やめておこう。女子高生なんか連れ込めないよ。」
すると彼女はふっと笑みを浮かべ「何照れてるのよ平気、何もしないわ。」
女子高生に言われるセリフかよ。
「ちょ、そういうことじゃなくて..」
渋る私に苛立ったrumiは
「もう! タラタラしていたら見つかっちゃうわ! ほら手を出して指かして!」
ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーま...
「バカかよ、ハリセンボンじゃなくて針千本な。あと指は中指じゃなくて小指で..」
思わず声を殺した。
彼女の白く小さな左手には親指、人差し指、そして約束を交わした中指の3本だけが遠慮がちに手のひらにひっついているように見えた。
つづく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?