テクシーさん。#4
-kaori-
「汗かいちゃってどうしたの? 昔ひどくふった女にでも追いかけられた?」
整えたはずの息が少し乱れそうになる。
「やだなぁ、kaoriさん。私がそんなことをする男に見えますか?」
「ふふ。見える見える。飽きたらポイっと女を捨てるタイプでしょ。
昔の女の怨念があなたの肩越しに透けて、見え隠れしているわよ。」
kaoriは歩き始めながら私に話しかける。いつもこの調子だ。少し皮肉っぽく私をからかうのだ。でもこの会話が心地よく、とても好感の持てるお客なのである。
「少し時間に遅れそうなので走ってきたんですよ。すみません、お見苦しい姿をお見せしました。
..あれ? kaoriさん今日はパンツスタイルなんですね。いつもスカートを履いてらっしゃる印象でした。パンツもお似合いですね。」
kaoriはとてもスタイルが良く、細く伸びた脚と少しタイト目な膝上のスカートが彼女の定番のスタイルだった。
「あら、あなたのアドバイスじゃないボトムをパンツに変えたのは。体のラインが出るようなスカートは帰り道の女一人歩きには向かないって。」
そうだそうだ。
思わず目を奪われてしまうスタイルではスカートから覗く脚が魅力的だった。やはり魅力的な女性は変な男につきまとわれやすい。
せめてパンツスタイルにすれば、その魅力を閉じ込めれると思って言ったんだ。
「そうでしたねkaori様、失礼しました。そうであれば今履いてらっしゃるハイヒールもスニーカーやパンプスに変えた方がよろしいですよ。夜道にハイヒールの音は少々刺激が強い場合がございます。特にモテない男にとってはね。」
私は彼女の斜め後ろを歩きながら、わざと手を広げてオーバーに言ってみた。
するとkaoriは歩きながらこちらに顔だけを向けた。
「スニーカーなんて履いたら、良い男まで寄ってこなくなっちゃうでしょ。素敵な男性には近づいてきて欲しいのよ。 帰り道が怖くないようにあなたに依頼しているんだから、ハイヒールくらい履かせてちょうだい。」
少し笑いながらkaoriはまた前を向いて歩き続けた。僕はまたオーバーに手を広げて肩をすくめて見せた。
実際、女性の防犯は細かい気の使い方が大切だったりする。
服装、洗濯物の干し方、ゴミの出し方。女性は何かと気を使って生活しないといけない世の中になっている。
kaoriの家まであと数分の場所まで来た時、ふとkaoriが立ち止まった。
「kaori様、どうかされました?」
こちらを振り返ったkaoriが呟いた。
「......またいる。あの男。」
つづく。
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