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才能なんかじゃない

人間のエネルギーは、どこに向かっていくべき
か。いかにも大命題のように始めるが、結論は
個人のお好きなように、という単純なところに
ある。

ワールドカップも始まり、テレビで試合経過を
見ていると、個人技のなかに完ぺきな組織プレ
イが集約されていて、フォーメーションの美し
さとそれを支える個人技が絶妙だ。こうして
人間のエネルギーがむけられる方向が、
組織によって形になる好例だと思った。

しかし一般の人間はなかなかその場面に出会う
機会がない。確かにプロスポーツの世界でも、
そういう機会に恵まれずに消えていった選手も
多いことだろう。やはり自分の能力や性格、
そして運が一致していないと、エネルギーの
やり場に困ってしまう。なんとか普通にやって
いくことに越したことはないが、これだけ個性
が叫ばれると頭ひとつ抜きんでたいと思う人が
多いのも事実。勉強に勉強を重ねながら、
いつかみてろと、野望を抱く人もいるだろう。

だが、現実はもっと厳しい。
それは何も才能とかお金とか外部的な要因ばか
りではなく、その人の性格に因るところが大き
いと思う。こうして外部から人や組織を見るよ
うになると、どう考えても適応しているように
思えない場面に遭遇する。

決して人間として良いとか悪いではなく、
合っていないのだ。
合う合わないは化学反応
みたいなもので、いやそれよりも食い合わせに
近いのかもしれない。

中学校三年生のときのクラスは、いま思い出し
ても“私にとって”最高に相性があっていたよう
な気がする。一人ひとりがクラスのなかに存在
を示し、そして結束も強かった。たぶん、居心
地がよかったのだろう。しかし高校に入学して
すぐ、その反動のようにつらかった。たぶん、
さまざまな地域から、いろいろな目的をもっ
た、同じような人間が集まってきたことで、
自分のなかの価値観が崩れ始めたからだと
思う。
私自身は何も変わっていないのだが、
構成する人たちのなかで私はまったく違う存在
になっていた。なんとかして自分を建て直そう
とするのだが、一年前のあのやすらかな雰囲気
を取り戻すことなく過ぎていった。

二年生になっても同様。必死になってクラスに
合わせていたのが現状だ。そして三年生。
落ち着きを取り戻したのがこの時期。だいぶ
打ちひしがれたが、つぶれなかった自分に
感謝するしかない。そして、大学に無事、
合格することができた。

そのとき感じたのは、
自分の不思議なまでの
適応能力の高さだ。


これは性格に帰するところが大きいと思うが、
状況に合わせて自分を変えていくことが苦で
はない。転職しても、生活の場が変わっても、
何も自分のなかで臆することなくいられる
ところがあると思う。

これは大きな武器だ、と思うのは、たいてい
の人は、組織のなかで何らかの制約を受けな
がらしかいられないことを目の当たりにした
からだ。反発することも、適応することも
それぞれコツがいる。このコツを掴めないと、
毎日過ごしていくことが辛くなる。

上司がいて、同僚がいて、そして顧客までも、
自分に合わせてもらえることが必要になる。
しかし、それはわざとやってはいけないのだ。
悲しいくらい、そういうことは見えてしまう
し、わざとらしくては受け入れてもらえない。

真摯にやって共感を得ること、それはまさに
天性のものだと思う。もし私がこうして生きて
いけるのが才能だといってくれる人がいたとし
ても、敢えてこう反論するだろう。

才能なんかじゃない、性格だけですと。

ただし性格でやっていけるのもあと少し。
きっとそれだけでは満足できなくなる日が
やってくるに違いない。

そうなる前に、
唯一絶対の何かを作り上げていこうと思う。


* * *

40代半ばに、少し鬱っぽくなった。
これまで、さまざまな環境に適応できると
豪語していたが、心を病みかけた。

初期症状だったのは不幸中の幸いだったが、
僕でさえもそうなってしまうのか、と
自信を失ってしまった。

やはり、年代的に、役割的に、
襲いかかるプレッシャーは想像以上だった。
症状が出ても、俺に限って、と信じず、
なんで、なんで、と思いながら、
体が思うように動かないことに焦りを感じた。

その時は、会社も、家族も理解してくれて、
無理しなくていいよ、と言い続けてくれた
ことで、暗闇から抜け出すことができたが、
中には、それを言い出せず、自分のなかで
精一杯に我慢している人たちもいるはずだ。

どこかのお笑い芸人が
「やればできる」と言い続けているが、
「やってもできないことがある」と言いたい。


それが普通の人間だし、それを認められる
ようになれば、少しは他人にやさしくなれる
のだと思っている。

2002/06/01 Sat
#あの頃のジブン |18

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