オレンジの世界〖闇の書〗
「オレンジの世界 闇の書」
クジラは大きくジャンプした
朝焼けの空は オレンジの世界
闇から光へ そこには不安定を楽しむ人々が住んでいる
島には大きな木がある。島民は集まり、森の大木を囲む。好きな時間に好きなだけ、大木と繋がり対話をするのが日常の生活だった。他には何もしない。平和な毎日を楽しんでいた。少女も毎日、大木と対話をする。少女の名前は「花織(かおり)」、8歳になったばかりで、ぬいぐるみが好き。お気に入りのヘッドホンで今日も大木とつながっていた。
少女はいつも笑っていた。目を閉じて、イメージを共有する。オレンジの世界を楽しんでいる。少女は島から出たことがない。島の外は暗闇で何も見えない。みんなは集まり、オレンジの世界だけを見ている。少女もずっと同じように光だけを見て育った。これからもずっと・・・。
少女は両親を亡くし、夜になると海に行くようになった。砂浜に座って暗闇をみつめる。波の音だけが聞こえてくる。三日月がこちらを見ている。月はいつも三日月で闇を深く際立たせている。涙を流し、海を見ていた。思い出す両親はいつも笑っている。少女は闇が気になった。
お父さんに会いたい お母さんに会いたい
なぜ私だけこんな目に
何も悪いことはしていないのに
会いたい 会えない 嫌だ
どうしたらいい?
答えは分からないが、問いかけ続ける。繰り返し繰り返し問い続けていた。
砂浜の向こうに岩場があり、岩場には洞窟が口を開けている。誰も近づかない洞窟だった。少女は勇気を出して覗いてみると行き止まり、奥には誰かが掘り進もうとした跡があった。誰が掘ろうとしたのかは分からない。なぜ掘ろうとしたのか分からない。洞窟の先に何かあるのか?島の裏側は誰も行った事がない。大木と繋がれば幸せだから、他がどうであろうと知った事ではない。洞窟の先は島の裏側、裏側に行くために掘ろうとしたのか?誰が?
少女は洞窟を掘り始めた。一人で掘ろうとしたが、岩は固く、少女の力では進むことができない。諦めようと思った。掘ろうとした人も諦めたのだろう。
諦めた事をガオガオに話した。少女とガオガオは仲良しで、少女ができないことはガオガオが手伝ってくれる。ガオガオは仕方がないから手伝っていた。少女が可哀想だから手伝っていた。それが日常だった。
ガオガオは岩を砕き、トンネルの道を新たに作る。仕方がないから掘り続けた。毎日毎日岩を砕き、少女が砕かれた岩を少しずつ運んでいる。「遅い」と苛立ち、ガオガオがどっさり運んでいく。トンネルは長くジメジメしている。虫が這い、嫌な臭いがする。暗闇に明かりを灯して進み続けた。
しんどい やめたい
何のために
俺じゃなくても
頑張ったし、もう十分だろ
何でこいつは掘りたがる?
何がある? 何もないだろ
仕方ない 掘ればいいんだろ
掘れば終われる 掘ればいいんだろ
毎日 毎日 掘り続けた
とうとう道は繋がった
そこには入り江があり、そこには綺麗な船があった。
少女は森の図書館で船を調べた。遠くまで行ける船のようだ。遠くから誰かが乗ってきたのだろう。ガオガオに話すと船の操作を覚えてくれた。
島の外の世界はどうなっているのか?
闇だけなのか?
光はあるのか?
知りたい
ガオガオが何とかしてくれる
少女とガオガオは旅の準備をした。
洞窟を抜け、入り江に行き、二人は船に乗り込んだ。波は穏やかで、青い世界が広がっている。島から離れるとすぐに波は高くなり、船は木の葉のように舞い出した。少女は船から振り落とされそうになったが、ガオガオが受け止めて包み込んだ。
闇は続き、光は見えない。波はさらに高くなり荒れ狂う。先が見えない。
帰りたい 戻りたい
ちょっと出れば帰りたいと言うと思ったのに
危ない こんな船なんか転覆してしまう
もっと早く戻れば良かった
船に乗るんじゃなかった
トンネルを掘るんじゃなかった
戻りたい
少女は戻ろうとは言わなかった。前に進もうとしか言わない。必ず光があると信じて前に進む。
入り江に船が戻ってきた。少女は大人になり、ガオガオは年老いていた。
船は1艘ではなく、3艘に増えていた。二人は仲間を連れて島に帰ってきた。島民は大木に集まっている。花のヘッドホンをして、目を閉じてイメージを共有する。オレンジの世界が広がっていく。
クジラが大きくジャンプした
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