ガン横3分程度で読める短編「昼休み」後編

「うちのチャーハン異次元に飛ばしてるんです」

何回頭で反芻しても聞いたことのない言葉だ

「うちの旦那未だにオシッコ便器の外に飛ばしてるんですよ!」

これは何回か聞いたことある

「うちの息子マラソン大会まだ序盤なのに最初から飛ばしてるんですよ!」

これは何度も聞いたことある

「うちの彼氏自分が悪いくせにさも相手が悪いかのようにガン飛ばすんですよ!」

これはあまり聞かないがなんとなくあるような気がする

「うちの達磨自分でクルクル回りながら赤の部分飛ばすんですよ!」

これはもはや意味不明の超常現象な出来事なのだが
これと類似なぐらい「うちのチャーハン異次元に飛ばしてるんですよ!」はこの世の現象とかけ離れすぎている
おばちゃんが言うには、いつの頃からかここのご主人が鍋を振っているとチャーハンが突如消えたそうだ
初期の頃は3回振って一回だったペースが次第に毎回チャーハンを振るたびに消えたそうな
おばちゃんも最初はこの現象に慄きこのお店に何が特殊な時空が歪む空間でもあるのかとか、勝手にチャーシューとかネギとかナルトなんかが魔法陣を描いていてちょうどチャーハンを振るところが特殊な空間を作っていたのではないかとか考えたが、特に科学者でも超能力者でもないただの中華料理屋の嫁に何も突き止められるはずはなく考えるだけ杞憂に終わり、今ではこの現象にも慣れ、チャーハンが突如消えることになんの疑問も感じてないそうだ。
おばちゃんからするとチャーハンがこの店から消えるただそれだけのことだった。
ただ、こちらはそうはいかない
飯をまだ食えてない
腹の虫は治っていない、むしろ泣き叫ぶ一方だ
なんとか腹の虫を納めて帰りたい

「このチャーハン消えていったいどこに行ってると思う」

おばちゃんがチャーミングな口調で皆目見当もつかなそうなクイズを投げかけてきた

「さあ、わかりません」

腹が減って考える気力もなく答えると

「このチャーハン実は何処にも行ってないのよ」

「はぁーーー??」

僕は思わず心の底からのはぁー?をおばちゃんにぶつけてしまう

「チャーハンなんて最初から作ってないのよ」

「本当にふざけないで下さい!そんなの納得できるわけないじゃないですか!!」

「あんた主人がチャーハンの具材入れてるところみた?」

「見てないです」

「でしょー!うちの主人中華料理屋のクセにチャーハン作っても不味くてとてもお客様に出せる品にならないから全部ボイスパーカッションってやつでチャーハン作ってる雰囲気やってるのよ」

中華料理屋のくせにチャーハン作る才能がないのなら中華なんてやらなきゃいいのに・・・

「本当にふざけないでもらっていいですか?じゃあこのお店に、来てる常連さんたちはなんだっていうんですか!?」

「全員主人の絶妙なボイスパーカッション聞きに来ているのよ、これがうちの売りなっちゃったの、タダだし」

どうやら店の主人はチャーハン作る才能はなかったけどチャーハン雰囲気ボイスパーカッションの才能はピカイチのようだった。
本当にメニューにチャーハン無料と書いてある。
とんだ馬鹿げた店に来てしまったと僕は後悔の念と怒りで気が狂いそうだった。
今日は本当にいいことが一つもない負のループ日だ。

「じゃああんた、初めての体験だしお腹も空いてるだろうから餃子サービスしてやるから食べていきなよ」

腹の虫は咆哮をあげ続けている
収まる気配は一向にない
憂いあれば喜びありとは言ったものだ
やっとこの僕に希望の光が灯った
おばちゃんの一言が僕を救ってくれた

「はい・・・餃子、ください」

言葉に覇気はないが感謝の気持ちをいっぱい込めたつもりだ

「はいよ!あんた!餃子一丁!!」

おばちゃんの覇気のある言霊が店の主人に届く、主人はその言霊をしっかりと受け止め、作りおいてある餃子を掴み取り餃子をフライパンに置く、餃子と油が共鳴しあって店全体にジューーという神々しい音が響き渡る
今度はボイスパーカッションではなさそうだ
腹の虫が餃子の匂いに誘われ更に泣き叫ぶ
嗚呼とうとう報われる時がくる、僕の一日が報われる時はもうすぐそこだ・・・

「餃子お待たせ」

おばちゃんの顔が聖母マリアに見えてならない、僕は一礼だけ入れ早々と割り箸を取り餃子を口に運ぶ、口いっぱいに餃子が広がる

「うん、うん、うん、これまた不味いのなんの・・・」

「すいやせん!へへへ」

うんうんうんうん
又来よう