映画ゴッドファーザーをいまさら見返して気づいたこと
暇を持て余した夏休みということもあり、久しぶりに、おそらく十数年ぶりにゴッドファーザー1と2を見返してみたんですが。
「マフィアファミリー(コルレオーネ一家)と、一線を引いて暮らしていたはずの末弟マイケルが、兄や父の死によって思いがけず後継者となり、ドンとして非情な男へと変貌していく哀しい話」
一般的にはそう認識されていると思いますし、自分も前見たときはそう思ってたんですが…。
改めて見返してみて、
「これ最初からマイケルが後継者になること自体は確定してたんじゃね?」
という思いが沸き上がってきたので、その視点で書いてみたくなりました。
普段、映画レビューとか全然見ない人間なので、くわしい人、「その話もう出尽くしてるわ」「50年前の映画やぞ」とか思っても許してね!
あと原作未見だし3は見返してないから、そのつもりで見てね!(3はマイケルかわいそうで見れない)
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まずゴッドファーザーの起承転結における「承」の部分と言えば、ゴッドファーザーであるドン・コルレオーネ=ビトーへの銃撃事件でしょう。
幸いビトーの命は助かったものの、ここから一気にファミリーがガタガタとなり、件のマイケルも騒動に巻き込まれていきます。
そして抗争の果てに長兄ソニーを失ったファミリーは、次兄フレド…は明らかに無能だったので、末弟のマイケルがドンの座を引き継ぐ羽目に陥ります。
…という「予定外の出来事に巻き込まれていく」話なのですが。
じゃあ、そもそもの「本来の予定」とは。
ビトーが銃撃されず、ソニーも生存していた場合はどうだったんだ、という点を改めて考えつつ見てみると、どうなるのか。
そもそもビトーが銃撃された原因は、
「ソロッツォが持ち掛けてきた麻薬ビジネスを断ったから」
ですね。
何故ソロッツォが商談を断られたからといって(一見、短絡的に)ビトーを銃撃したのかは余談にするとして、まずビトーが麻薬ビジネスを断った理由について考えてみましょう。
「話はお断りする。ワシは政治家の友人が多い。麻薬に手を出したと知ったら皆離れていく」
会談でのビトーのこの発言ですが、周囲の理解を得られていません。
後ろにいる息子のソニーすら、「う~ん、それそんなに大事?」という顔をしています。
事前の相談でも、ソニーや相談役トムは「麻薬ビジネスは儲かるからやるべき。うちらがやらなきゃヨソがやるし、やらなきゃウチが弱体化するだけ」と、むしろ乗り気でいたので、この反応は当然のことでしょう。
「マフィアならやって当然でしょ」
みたいな空気です。
その中で何故ビトーだけ嫌がったのか。
だいぶ後のシーンに飛びますが、マイケルがドン代行となり、ビトーが相談役に退いた後での2人の会話です。
「お前には(ファミリーのドンを)させたくなかった。お前の時代は表へ出て人を操るべきだ。コルレオーネ上院議員…コルレオーネ知事…」
これはビトーが「マイケルをどう見ていたか」わかる、超重要な会話ですね。
大体こういう「お前には継がせたくなかった」系の話では、こう続くものです。
「普通の家庭を持って穏やかに暮らしてほしかった」
ですがビトーの発言からはそんな感情を1ミリも感じません。
「ファミリーのドンなんかじゃなくて議員とか知事になってほしかった」
これですよ。
つまり、ビトーの中では「ファミリーのドン<<<議員とか知事」だし、マイケルにはそれを目指してほしかったと。
つまり、「しょうもない裏家業のファミリーは長兄ソニーごときに継がせるけど、真の後継者であるマイケルは表の世界で活躍する」のが、ビトーの理想図だったんです。
だから、マイケルが思いがけず後継者になったわけではないんです。
最初からビトーはマイケルこそ後継者と目していたのです。
マフィアファミリー自体の後継者ではなく、コルレオーネの後継者として。
考えれば兄弟の中でマイケルだけ大学に行ってますし、軍隊でも活躍して「英雄」としてライフ誌の表紙を飾りもする。
ビトー的には「おっしゃあ!! ★5息子来た!!」ぐらいのテンションだったのでしょう。
それゆえに、ビトーは作中でずっとマイケルのことを第一に気にしているんですね。
娘の結婚式の集合写真も「マイケルがまだ来ていない」と、延期させますし、退院して他の息子たちの報告を受けても、「マイケルはどうした?」しか聞かない。
彼の中ではマイケルが一番大事なんです。最初から。
これでビトーが麻薬ビジネスを断った理由も明白ですね。
ファミリーが麻薬ズブズブだと、マイケルの足を引っ張る可能性が高いから嫌がったんです。
裏の世界での影響力が下がるより、表の世界でのマイナス面を気にしたわけです。
とはいえビトーはそんな構想を身内にすら言ってなかったのでしょう。
(言ったら言ったでソニーはブチ切れそうだし)
なので「古い考えに凝り固まって麻薬を拒む老害」ポジになってしまったのです。
実際は「もうマフィアなんて古いから表の世界で活躍しよう」という、革新的な考えの持ち主だったんですけどね。
結局その判断が災いして自分も撃たれ、ソニーも失い、マイケルをドンに据えるしかなくなったのは、誤算というほかないですが…。
おまけに抗争を手打ちに持ち込むため、麻薬ビジネスも結局は受け入れるほかなくなったわけで、全部が裏目に出ています。
こう見ると1でのビトーって、かなりの無能というか失策ばかりなんですよね。
このビトーの失策ごと引き継いだせいでマイケルが四苦八苦してるのに、周囲はビトーの時代はよかったよかったばかり言うので、Twitterにも書いたように、
「カリスマ創業者がバブル期のユルユル経営でこさえたツケを二代目社長がなんとか立て直すため改革してるのに、無能な古参役員たちにずっと『先代の頃はよかったなあ』って言われ続ける」
話に見えてきて、マイケルの「かわいそう」度がうなぎのぼりです。
なので結局は「予定外の出来事に巻き込まれる」話には違いないのですが、マイケルが後継者であること自体は初めから決まってたんだな、という発見をした次第です。
ただコルレオーネの後継者ではなく、ファミリーの後継者になってしまったせいで、上述のように「マイケルがかわいそうな話」であることに変わりはないのですが。
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上で書いていた余談として。
ビトーが撃たれたのはもう一つ原因があって、それも最終的にはビトーの落ち度ですね。
ビトーがソニーの管理に失敗していたからです。
ソロッツォとの正式な会談前、こっそりソニーがソロッツォと会うシーンが挿入されています。
さりげないので見逃しかねないというか、正直ボクも今まで見逃してました。
「こんな重要なシーンさりげなく挟むのコッポラ監督やり手はんやわ~」
と、しみじみしますね。
このシーンが何を意味するかというと、「ソニーは先にソロッツォと麻薬ビジネスの話を握ってた」んですよ。
親父の了解も得ずに。
「マフィアだからやって当然でしょ」
という空気でしたから、親父も当然OKすると思ってたんでしょうね。
ソニーの段階で完全に握るところまでいかずとも、「オッケー、親父もきっと喜ぶよ!」ぐらいのことは言ってたに違いありません。
ビトーが撃たれた後、ソニーのところにソロッツォから電話が来るのですが、ソニーの表情が変ですもんね。
彼の性格上、「てめぇ絶対に覚えてろ」ぐらい言いそうなものですが、ソロッツォに脅されて、「分かった…」と、逆に意気消沈する始末です。
これはトムを人質にされてるから…だけではなくて、「負い目がある」からでしょうね。
ソニーとソロッツォの間で話を進めていたはずなのに、ビトーが(知らずに)ぶち壊したのです。
会談の場で断られた瞬間、ソロッツォ的には「はああ??? 話が違げぇじゃねぇか??」だったんじゃないでしょうか。
だからビトーを排除した上で、後釜となる予定のソニーと麻薬ビジネスを進めようとしたわけです。
ソニーが乗り気なのはわかってるわけですからね。
反対にソニー的にはソロッツォとビトー双方に対して、「申し訳ない」モードで、それで強気に出れなかったんじゃないでしょうか。
しかし、そのソロッツォも詰めが甘かったせいで、ビトーが生き延びてしまいました。
こうなるとビトーの意向も生きてるわけで、ソニーも反撃するしかありません。
かくて泥仕合が始まって、ソニーもソロッツォも天に召されていくわけですが、それもこれも結局はビトーがソニーを管理できていなかったからですね。
最初から勝手なことさせなければ、あるいは会談したことを事前に知っていれば、ある程度は防げた事態でしょう。
なのでソニーを失うところ含めてビトーの責任だと言わざるを得ませんし、結果としてマイケルがドンとなったのもこれが引き金なので、ゴッドファーザー全体が、
「偉大なお父ちゃんの影に苦労する息子の話」
から、
「ポンコツ父ちゃんのせいで苦労する息子の話」
に見えてきたなあという。
映画って何回も見たり、年齢を重ねてから見ることで、色々見え方が変わるもんですね!(という小学生並みの感想で〆ます)
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