ダイアクロンH921支部活動記録 SS
宇宙の脅威<ワルダー軍団>と戦う<地球防衛隊ダイアクロン>
これはダイアの如き固い絆で結ばれた幾多の戦士達の戦いの記録、その一部である……。
新たなる風 逆転のヴァースフォーメーション!
「それでは、お先に行かせていただきますわ!」
真白の翼が、広がる晴天を切り裂くように駆け抜けていく。
それはまるで翼に描かれた白い鳥そのものにも見えた。
地球防衛隊ダイアクロン。世界、いや銀河にまで点在するその活動拠点の一つであるH921支部。
ここに配備された新機体<トライジェッター>
空中戦用に開発された機体であるが、鳥のマークと6のナンバーを纏ったその勇士は、共に出撃した同型機を引き離し音を凌駕する速度ではるか上空へと向かっていく。
「どうスズメちゃん、機体の様子は?」
共通回線を通して出撃した機体全ての操縦席に声が響いた。
「最高ですわ!」
興奮した声色で操縦する女性パイロット<清少 涼女(せいしょう すずめ)>は答えた。
<トライジェッター・マッハチューン>の面前に無数の影が近づいてくる。
機体の真ん中についた丸いレンズが赤く、またある個体のそれは青く輝き、背部から伸びた触手が不規則に蠢いていた。
「チェンジですわ!」
戦闘機は加速したままその形を変え、畳まれていた四肢を伸ばし、人の形を模した巨大な戦闘マシンとなる。
『BIG-AI起動』
キャノピー後部から頭部が起き上がり、瞳に光が宿る。
「トライジェッター……スラッシュホーク!」
左腕に懸架された剣……<クラッシュキャリバー2>を引き抜き、その切っ先を宙を舞う敵性機体……通称<ワルダースーツ>……へとその刃を叩きつけた。
瞬間的に真っ二つに切り裂かれ、遥か下方へと落ちていく<ワルダースーツ>を背に、剣を払う動作をする<トライジェッター・スラッシュホーク>
その背後に新たな敵機が迫る。
だが、トライジェッターが振り向く前に<ワルダースーツ>のボディには大きな穴が開き、また落下していった。
スズメは振り返ることなく更に機体を空へと上昇させた。それを追うように銀色の小型機が追いかけるとその背中に貼りついた。
「ご苦労ですわ」
視線を落とした膝の上で鷲が翼を広げる。
『姫を守るが我が務め、ですので』
流暢な発声で鷹が、答えた。
『まだ来ますよ、スズメ!』
今度はコクピットから澄んだ女の声がする。
「解っていますわ桜花(おうか)。……トーリ!」
『御意!』
鷹の目が輝くと同時に<スラッシュホーク>の背部から分離した小型機<G-MAX>が敵に向かって行く。機首の先端からレーザーが火を噴き敵を吹き飛ばす。その爆炎の中から現れたもう一機もほどなくして爆発四散する。
「ジェスもご苦労様ですわ」
遥か後方、大型砲として<G-MAX>を構えたもう一機のトライジェッターが次の獲物を狙っていた。
<トライジェッター・フライトチューン/ヘヴンズアロー>
宙を舞う個体とは違う形で翼が組みつけられた<G-MAX>を、まるで巨大な弓矢を構えるように両手で支えるその機体の翼には、同じように獲物を狙う天使の射手が描かれていた。
複数の<ワルダースーツ>が近づいてくる。両足を閉じ、その尖った先端を向けて自らを矢のようにして襲いかかる。
「やれやれ……近づかないで欲しいっすね」
ヘヴンズアローのコクピットの中で<ジェス・ネック>は気だるい声を上げた。
「コア……制御フォロー任せるっすよ」
『リョウカイ』
1、2、3、連続で襲いかかる矢を全てかわし、瞬時に距離を取った。
空中における機動性、安定性を重視して調整された機体は、空中で制止しながら適格に敵へと照準を合わせた。
次の瞬間には落ちていく機体の数が増えていく。
「やるじゃねぇか……二人とも」
地面を疾走する青い車両型マシン<トライダッシャー>のコクピットから空を見上げ<岩男 大吾(いわお だいご)>は言葉を零す。
「こっちも来てるわよ、ダイゴ!」
並走する同型機から<才羽 美羅(さいば みら)>が叫んだ。
二機のトライダッシャーは土煙をあげて加速。まるで蜥蜴の様なフォルムとなって這い寄ってくる敵機<ワルダレイダー>へと向かって行った。
「チェンジ! トライダッシャー!!」
先に敵の直前へと到達したミラの機体が<決戦モード>に変わり両腕に銃を構える。
<ワルダレイダー>のコクピットに<D-MAXキャノン>の銃口を突きつけ容赦なくデトネイター弾を打ち込む。
だが<ワルダレイダー>の体を構成する部品は指令を失ったとしてもその動きを止めるとは限らない。
分離した四肢が舞い上がり、四方から鋭い爪を立てて<トライダッシャー>を狙う。
その刹那、素早く後方に飛びながら再び銃口を向け、回転しながら瞬時に四つの爪に風穴を開けた。
流れるような動きはまるで優雅に踊っているようにも見えた。
<トライダッシャー・ソニックチューン/ガンギャロップ>
陸上でのスピードと運動性向上を重点的にチューニングされた機体は、その肩に描かれた白馬のごとく、戦場を華麗に舞いながら群がる敵を打ち倒していく。
『次の敵が来ます、ミラ』
「了解、ビット」
<BIG-AI>の声に応え銃を構える。瞬間、大きな衝撃がコクピットを襲った。どこからか飛ばされてきた敵のボディがぶつかったのだ。
「ダ~イ~ゴ~……」
体制を整えながらミラが唸るような声を絞り出す。
前方には<ワルダースーツ>を掴んでは投げ、蹴り飛ばし、鋼の拳を振るうもう一機の<トライダッシャー>の姿があった。
「あんたはもうちょっと周り見て戦いなさい!」
「うっせぇな、ちょろちょろしてるそっちが邪魔なんだよ!」
『レオン、あなたも少しはパイロットの無茶を止めてくださいませんか』
『戦闘中だ!説教は後にしろ!』
背中を合わせた二機の<トライダッシャー>が互いに悪態をつきながら襲ってくる<ワルダースーツ>を跳ね返していく。
「あ……わりぃ、そっち落ちたわ」
通信越しに気だるい声がした。
それが上空のジェスのものだと気が付いて反射的に視線を上に向けると、無数の<ワルダースーツ>の残骸が落ちてくる。
「うおおっ、ふざけんなよ!」
「あんたが言うな!?」
降り注ぐ残骸を必死によけながら二人が叫ぶ。
落ちてきた<ワルダースーツ>の部品が地面にめり込む。そこに残っていた<ワルダレイダー>のパーツが集まって行く。地面の中に、ワルダレイダーのコクピットが潜伏していたのだ。
「やばっ……!」
ミラが気が付いた時には遅かった。あらゆるパーツをかき集め<トライダッシャー>の倍はある巨大な集塊体が組みあがる。
「これがエヴォライズ……!」
無造作に部品が組み合わさったその姿は機械でありながら生物的にも見えた。それはまるでジャンク品の山が生きて動いている様だ。
<ガンギャロップ>が銃撃を浴びせるが、末端の部品が破壊されただけでは動きは止まらない。胴から伸びた<ワルダースーツ>の触手が<ガンギャロップ>に向かって鞭のように振り下ろされる。
「ミラ!」
すかさずダイゴの<トライダッシャー>が間に割って入り、触手を拳ではじき返した。
「こうなりゃ本気、出させてもらうぜ! いくぜレオン!」
『了解だダイゴ! アームローラー、ダイナモモードへシフト!』
ダイゴの<トライダッシャー>は右腕に配置された車輪を目の前にかざした。
「ローリング! チャージャー!!」
左手で右腕の車輪を回す。回転数が上る度にエネルギーが迸り、タイヤには稲妻が線になって浮かび上がる。
「F/Zエネルギー全開!」
腕のコネクターから発生したフリーゾンプラズマエネルギーが迸り、光り輝く腕が巨大な集塊体の体に突き刺さった。
次の瞬間、エネルギーが膨張し集塊体は激しく爆散した。
それはまるで燃え上がる炎に照らされた<トライダッシャー・パワードチューン/バーストサン>の、肩に描かれた白い獅子が咆哮をあげているかのようだった。
ほどなく残ったワルダーのマシン達は撤退を開始。戦闘は終結した。
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「相変わらず、ちゃんとしたレポートになってるのはあなたのだけね、ミラ……」
纏められた戦闘報告を見ながら整備士の<大木 愛(おおき めぐみ)>は苦笑いを浮かべた。
「すいません……他のは……あんななので」
データを渡したミラも同じように眉をひそめた。
「まぁ、とりあえず調整箇所の洗い出しには問題なさそうだからいいけどね……」
データの受け渡しを終えた端末を受け取り、ミラは頭を下げる。
「お願いします」
愛は「任せて」と心強い笑みを返した。
H921支部に配属されてひと月ほどが過ぎた。あれから何度の出撃があっただろう。
基地の主戦力である<ダイアバトルスV2>をはじめとする戦闘機動マシンとそのクルー達は<ワルダーパンデミック>と呼ばれるウイルス事件の事後調査の為、別施設へと招集される事が頻発していた。
エースの不在。だが敵勢力の侵攻はこちらの都合など構いはしない。
戦闘には四人の訓練生と四機の<トライヴァース>機が防衛の要として出撃していた。
新型であるトライヴァースシリーズ、更に性能をパイロットの特性に合わせて細かく調整されたカスタム機は、まだ短い期間からすれば十分な戦果を上げている。
だが、その時間の分だけ本来経験値を積む為の訓練プログラムは滞っていた。
「今回の出撃、わたくしの方は15機落としましたわ」
「半分は鳥が落としてんだろうが!」
『我は姫の従者。我の手柄は姫の手柄である』
「……まぁ数一番落としたのは俺なんすけどね……」
ブリーフィングルームの扉の前で、ミラはため息を零す。
首を振り、眉を顰めると意を決して扉をくぐった。
「みんなちょっと聞いて」
三人と一匹……いや一体の<動物型端末C.H.A.R.M>が一斉に視線を向けた。
「どうしましたのミラさん、怖い顔して」
「今日の戦闘……」
戦闘記録の入った端末の画面を見せながらミラが続ける。
「もっと上手く連携をとれなかったか話し合いたいんだけど……」
「さすがミラさん!」
ガタリと立ち上がりスズメはミラの両手を取った
「その事でいま丁度話をしていた所ですわ。このチームを統率するリーダーに誰が相応しいのか!」
スズメは自分の胸に手をやりながら黒い瞳にキラキラと光を浮かべる。
「生まれも育ちも良家の才女、真っ先に先陣を切るわたくしこそ皆さまの上に立つのに相応しいと思いますの。ミラさんもそう思いますわよね?」
「生まれ育ちは関係ないだろ! こういうのは一番強い奴がなるんだよ。そしたら俺とバーストサンに決まってんだろうが」
負けずとダイゴが声を上げる。
「毎回地面をトロトロと走ってきて後から良い所だけ持ってってるだけではありません?」
「そっちこそ早きゃいいってもんじゃねーだろ。毎回、先走り過ぎなんだよお前は!」
「それでは公平に多数決で決めてはどうかしら? ジェス、トーリ?」
スッと視線を向ける先で、鳥が翼を広げ、もう一人はどうでもよさそうにただただ頷いた。
「どっちもお前の手下じゃねーか!」
「手下とは人聞きの悪い。従者です。ま、どちらにしても部下がいる以上、わたくしがアナタ達もまとめて面倒を見てあげても良いんですのよ?」
「ふざけんな……ぐはっ!?」
グッと拳を握りしめてスズメを睨むダイゴの後頭部をミラは思い切り叩いた。
「誰がリーダーかなんてどうでもいいでしょうが!」
つい誰よりも高い声で叫んでしまった。
一瞬だけ全員の動きが止まる。
「まぁ、そうはいっても……」
「ミラさんはその……」
「撃墜数的には論外っすよね……」
ジェスの言葉にスズメとダイゴは頷き、再び言い争いを始めた。
顔をしかめて唇を噛む。握った手のひらに爪が食い込む。
ミラはそのまま背中を向けてブリーフィングルームを後にした。
ゴリゴリと鈍く低い音が食堂の片隅から響いてくる。
「あー、もうイライラする……」
コーヒーミルのハンドルを勢いよく回転させながらミラは呻くように声を零していた。
「……そこまでやるなら粉の方で煎れた方が早くないか?」
「ひゃあっ!?」
突然背後から響いた声に、ミラは反射的に変な声を上げてしまった。
背後には背の高い黒髪の男が立っていた。
「すまない、驚かせたか」
「花京……先輩……」
心臓の音が高まるのを押さえながら、ミラは目の前の男……<花京 光輝(かきょう こうき)>の名を呼んだ。
豆を砕く音が、扉の開く気配を消していたのだろうか。
いや、この先輩、普段から物静かで自分から何かを主張する事もないのだが……。
大きなため息を落として、ようやく鼓動が落ち着く。
「戻られてたんですね……」
「ついさっきな。そっちもご苦労だったな。戦闘報告は読ませてもらったぞ」
言いながら光輝は椅子へと腰をおろした。
「先輩もコーヒー飲みますか?」
「頂こう」
言いながら光輝は手に持った紙の束をテーブルの上に置いた。
わざわざプリントアウトしてきたであろうその束には、見た事のある文面が並んでいる。
「それ……トライダッシャーの操作マニュアルですよね?」
コーヒーカップを置きながらミラがのぞき込む。
何度も繰り返し熟読したものだ。間違いない。
「なんで先輩が?」
光輝はH921支部の第二機動部隊<フレイムファング>のチームリーダー。搭乗機体はパワードシステムEタイプとその拡張機構である<ビッグパワードGV>
扱いが特に難しい大型機のメインパイロットがわざわざ新しい機体に乗る機会も早々には無いだろう。
「ようやく時間が出来たのでな」
言いながらページをめくり文章に目を這わせていく。
「元々、こうして活字を読むくらいしか趣味と呼べるものが無いというのもあるが……機動マシンについては常に情報を入れておくようにしている」
「自分の機体じゃないのにですか?」
温かいカップで手を温めながら向かいの席に腰を下ろす。
整った顔だな……。
ミラは少しの間、観察するように黙々と文字をむさぼる光輝の姿を眺めていた。
が、あまりにも変わらない表情にすぐに飽きてしまった。
「……退屈だろう」
急に口を開いたと思えば、心を見透かされたような言葉が零れる。
ミラはまた鼓動のリズムを乱した。
「い、いえ、そんな事は……」
何故か気まずくなり、取り繕おうと言葉を濁してしまった。それを知ってか知らずか、光輝は黙って紙束を一冊差し出した。
つい受け取ってしまったその紙束を開く。
「これ……トライジェッターの……」
それも無数に修正が書き加えられている。操作手順書だけではない。整備マニュアルも纏められている様だ。
しばらく目が釘付けになり、部屋に再びの静寂が訪れる。
「……才羽隊員はいつもいい戦闘報告をあげてくれるな」
突然、光輝の方から話を切り出した。
「あ、はい……どうも……」
書類から目を上げ、目を逸らしながら答える。
「……あたし事務仕事の方が向いてるんですかね……」
自嘲気味に言いながら、大きなため息を零す。
他の三人とは違う。
ダイゴは格闘技、スズメは剣技、そしてジェスは正確無比な射技とそれぞれ得意なものを持っていて、それを活かすための戦い方がある。
あたしは何ができるんだろう……レポートだけ褒められて……。
本当に自分はこの先役に立てるのか。
戦闘が終わる度に少しずつ不安が大きくなっていた。
ミラは俯き、唇を噛む。
「俺は新しいチームの要になるのは才羽隊員、お前だと思っている」
書類から目を離さないまま、相変わらず表情を変えずに光輝は言った。
「お前のレポートは戦場の細かな事がしっかりと記されていた。自軍の動きもだ。その視線を忘れるな」
「視線……」
光輝はあと二冊、紙束をテーブルに置いた。
「これも読んでおくといい」
そして一冊だけ残った書類を持って立ち上がると、コーヒーの礼を言って自室へと戻って行った。
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「なんて数ですの!?」
剣を振りながらスズメが叫ぶ。
無数の<ワルダースーツ>が2機の<トライジェッター>を取り囲む。
レンズから小刻みにレーザーを放ちながら、まるで翻弄するように動き回る。
「こんなに近くで、この数で攻められると……やりにくいっすね……!」
<ヘヴンズアロー>は銃を構える事すら出来ないまま、無数の敵機の攻撃をかわすのに手いっぱいだった。
「おい、まだ補給終わらないのかよ!」
H921支部の格納庫では<台場 透>の声が響いていた。
「急いでるわよ、こっちも!」
愛が作業員とともに駆け回りながら声を張り上げる。
H921支部の管轄エリアに現れたワルダー軍団はエース機<ダイアバトルスV2>と<ビッグパワードGV>の連携により半数以上を失い、戦線から離脱した。
残った敵機を訓練生4名が追撃。
2機の<トライジェッター>が先行した所で、待ち構えていた部隊の包囲網に囚われてしまったのだ。
「敵はこれを狙っていたの……?」
上空を見つめながらミラが呟いた。
本来なら数的にもなんら問題のない任務だったはずだ。
何よりこのタイミングの増援。ワルダーがわざわざ敗残兵を迎えに来るとは考えにくい。
そして……。
「くそっ! ここからじゃ当たらねぇ!」
ダイゴが叫びながら上空へと弾丸を放つが全く届かない。
攻撃力のある<トライダッシャー>の射程外から全く降りてこないのだ。
今までの戦闘から、破壊力の高い機体から距離を置く様に学習したというのか。
部隊に対策をして挑んできている。確信はないが、そう直感する。
「いくら切っても、切りがありませんわ……!」
<スラッシュホーク>が<G-MAX>と共に敵機を破壊するが、すぐに次の敵が現れる。
敵の狙いはおそらくエネルギー切れだ。敵一機を破壊するたびに、時間がたつごとに、刻々と機体のエネルギーは減って行く。
「くそっ、降りてきやがれってんだ!」
苛立ちを隠さないままダイゴは上空への砲撃を続けていた。
「ダイゴ、無駄撃ちはやめなさい!」
ミラが叫んだ。そしてはるか上空にも声を飛ばす。
「ジェス! 降りて来れる!?」
やるしか……ない。
ミラは眉間にしわを寄せた。
「スズメ、ちょっとだけ一人で耐えて……ジェス、あたしに手を……いや、脚を貸して!」
『ミラ……それは……!』
<ガンギャロップ>のBIG-AI<ビット>が何かを察した様だった。
そして、それは機械同士で繋がる<ヘヴンズアロー>のBIG-AI<コア>にも瞬時に伝わる。
「ヴァースフォーメーションよ!」
<ヴァースフォーメーション>それはコクピットとなるボレットコアそして上半身、下半身と3つのユニットで構成されたトライヴァース機の各部を交換し、機体特性を自在に変える事が出来る機能だ。
「それ……訓練まだやってないっすよね?」
もちろん講習はうけているしマニュアルも読んでいる。
だが、いざ実際にそれを……しかも戦闘中に初めて行おうというのだ。
「あたしに考えがあるの! お願い、ジェス!」
「コア……」
『マカセテクダサイ。ゼンリョクデサポートシマス』
覚悟を決めたように<ヘヴンズアロー>は急降下を開始する。
それを阻止しようと<ワルダースーツ>が追いかける。その間に割って入り、刀を構える<スラッシュホーク>
「時間は稼ぎますわ!」
混戦を脱した<ヘヴンスアロー>の高度が下がってくる。
それに合わせるように<ガンギャロップ>も地面をけり、空中へと跳躍する。
「「ヴァースフォーメーション!」」
音声認識により<BIG-AI>が合体用のプログラムモードに移行した。
両機のボディが上下に分かれ、それに合わせるように上半身のポジションを入れ替える。
BIG-AI同士の連携により、ボトムユニットは機動をコントロールされ、それぞれのトップユニットと結合を果たす。
「フォーメーションコード……ヴァルキリー!」
「フォーメーションコード……ケンタウルス」
下半身に翼を持った<ガンギャロップ>はそのままブーストして上昇し、入れ替わるように<ヘヴンスアロー>は地面へ着地した。
「ジェス! 対空射撃でワルダースーツを囲い込んで! オーバードーズさせるわ!」
上昇しながらミラが叫ぶと、三人は目を見開いた。
「なんだって……!?」
「わざわざ合体させるのかよ!?」
上空のワルダースーツの群れに飛び込んだ<ガンギャロップ>は牽制射撃をしながら<スラッシュホーク>の前に立つ。
「合体させないのがセオリーっていつも言ってますわよね!?」
「数で推されて負けるのも……それはそれでセオリー通りでしょ! だったらこっちが数で勝てるようにした方が勝機はあるってものよ!」
両手の<D-MAXキャノン>が火を噴きワルダースーツを破壊する。当然、一機減った所で状況は変わらない。
消耗した<スラッシュホーク>のエネルギーで数を捌く事を考えれば……。
「ジェス! 援護頼みますわ!」
「了解っすよ」
地面からスナイパーがワルダースーツを狙う。
「なるほど……悪くないっすね、下から撃つのも」
空と陸、二機から放たれる弾丸がワルダースーツを追い詰めていく。互いにぶつかった機体同士が、壊れるのを避けるよう融合していく。
「スズメ、ダイゴ! あたし達が準備している間に、あなた達も!」
「おう!」「解りましたわ!」
獅子と鳥のマークを持つ機体が交わり、その姿を変えた。
「フォーメーションコード! スカイレオン!」
「フォーメーションコード! グリフォン!」
二機の機体は共に上昇した。
「スゲェ……ダッシャーが飛んでやがるぜ!」
あっという間に上空へ舞い上がった<バーストサン>は無数に組み合わさった<ワルダースーツ集塊体>に対峙する。
メインスラスターを貸したことで持ち前の速度を落とした<スラッシュホーク>も遅れて隣に並んだ。
「これで全部!」
残ったワルダースーツを蹴り飛ばし、集塊体にぶつけると更に巨大化する。
だが、これで数は4体1だ。
「なるほど……遅くはなりましたが……こういう事が出来ますのね……!」
<スラッシュホーク>脚部のローラーが回転を始める。
<バーストサン>も腕の車輪を回転させた。
各部の車輪を回転させることで機体内部でエネルギーを発生させ、武装の出力に上乗せする<パワードチューン>の特殊機能。
下半身を交換した<トライジェッター>もその機能が実装される。
「「ローリングチャージャー!!」」
同時に放たれた<バーストサン>の拳と<スラッシュホーク>の斬撃が集塊体を粉々に粉砕する。
「よっしゃあ!」
「やりまし……た?」
次の瞬間、エネルギーの切れた二機は真っ逆さまに落ちて行く。
「うわあああああっ!?」
だが両機が地面に落ちることは無かった。
ダイゴの機体をミラが上から掴み、下ではスズメの機体をジェスが受け止めていたからだ。
「お疲れ! 二人とも!」
「よくやったわね、みんな!」
帰還した訓練生達を愛達が出迎えた。
コクピットから降りると全員が肩を落とし、ようやく安堵のため息を落とした。
「いい指揮だった、才羽隊員」
歩み寄ってきた光輝が缶コーヒーを差し出しながら言った。
「先輩が貸してくれた資料のおかげですよ」
「知っただけでは意味がない。機体の特性を活かすための戦術を組み上げた、それはお前の功績だ」
相変わらず表情が変わらない人だなと、ミラは思った。
受け取った缶コーヒーは冷たかったが、それとは別に暖かさも感じていた。
「それじゃみんな、シャワー浴びた後でブリーフィングルームに集合よ」
振り返ってミラは言った。
仲間たちは誰も何も言わず、ただ頷いた。
「全員、マニュアルを頭の中に叩き込んでもらうからね!」
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