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なぜ不妊治療業界には他業種参入があるのか

不妊治療のクリニックには近年、美容系を始めとした医療法人のピボット型、あるいは全くの異業種からの参入が相次いでいます。

どうして、これほど異業種参入があるのだろうという点を自分なりに考えてみたのでまとめます。

不妊治療の医療費は相対的に見ても高額

まずはこの点です。
なぜ参入するかのシンプルな答えは「儲かる」と思うから、です。
それだけではないにせよ、これなしには勝たれません。

不妊治療の治療一回あたりにかかる費用はかなり高額です。
保険診療であったとしても、一般的な内科などと比べると非常に高額な印象があります。

現実的には、その費用に見合った結果を患者さんに返すには、それなりの設備や人的な投資が必要なのは、あまり考慮されていませんが。

保険診療というのは全国一律の考えです。
不妊治療ほど、医師、培養士、培養環境など様々な人的、設備的因子で、治療結果に差がつくものを保険適応にしたため、こうした歪が生まれてしまっているように思います。

ただ、僕はもし参入したいと行っている知人が来たらおすすめはしません。

患者数が多いクリニック=いいクリニックではなく、妊娠成績の良いクリニックが良いクリニックという前提でいえば、不妊治療はクォリティを高めれば高めるほど、一人あたりからお支払いいただく治療費が少なくなる可能性があります。
短い期間、少ない治療回数で卒業いただけるということです。

通常の小売業などからすれば、逆ですよね。
良いものを作っていれば、顧客との関係は深まり、生涯価値は高くなっていくという設計になるのが一般的です。
ここはビジネスサイドから見ると、いまいち見えているのかな?と疑問に思うことがあります。

ロマンもソロバンも両立させるためには、ロマンの部分がしっかりした医療者を軸に作っていかないといけませんから、とてもむずかしいだろうと思います。

医師≠経営者

誤解を恐れずに言えば、医師≠経営者、です。
正しくは、医師≠良質な経営者というところでしょうか。

日本の医療法人は理事長は医師がなり、意思決定をしていきます。
多くの医師は医学を学び、そこから開業されていく方が多いので、
経営を修めているという方は少ないのではないでしょうか。

そのため、プロ経営者の方から見ると、
「こうすればもっと儲かるのに」
と見えてしまうこともあると思います。

そんなにうまくいくイメージはない

僕はもともとビジネスサイドの人間で、そちらがわの経験の方が今でも強くあるなぁと思いますが、中にいて思うのは、他業種からの参入でそんなにうまくいくイメージはありません。

なぜなら、医師の指示で動くスタッフのほとんどが医療者です。
ビジネス的なことよりも、患者さんをどうしたいかという理念をベースに動きます。
お金や効率だけを求めているのであれば、不妊治療業界に携わらずとも他の分野もあるわけで、職に困ることもないと思います。

ただ、この場合うまくいくのではないか、というスタイルでいうと、
経営と医療が分離していて、それぞれにリスペクトがある場合です。
海外の医療法人であるパターンですが、ソロバン面の管理はしっかりと行いながら、ロマンの追求をしているやり方です。
権利関係が五分五分であれば、理想的ではないでしょうか。

最後にもう一つ。
不妊治療に懸けている患者さんを甘く見てはいけない、ということですね。
不妊治療は保険適用になったとはいえ、誰にでもほいほい受けられる医療ではありません。失われた30年、平均給与は下がり続けている中で、しっかりとそうした治療費を支払われる方々です。
実際に不妊治療や妊孕性温存の情報提供で関わっていていつも感じるのは、医療者ではないけれど、皆様大変理解が早い、つまり頭が良いということ。
もっと砕いていえば、馬鹿じゃない、ということです。

実績がなく、中身がない医療にホイホイとついていくような方ではない。

そして、不妊治療にかける思いの深さです。
少しでも良い治療を受け、1%でも高い確率で妊娠したいと誰より願う患者さんたちですから、中途半端な思いでやれば、当然すぐに悪評が立ってしまいます。

今どき、一度ついた悪評は簡単には消すことはできませんし、
もしもそのような悪評がたった場合、患者さんはもちろんですが、医療スタッフの採用も含めて苦しくなると思うんです。

なので、サステナビリティという点から見ても、
「うーん、うまくいかないんじゃないかなぁ」
といつも思っています。

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