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【卵巣凍結】分散と集中の必要性

妊孕性温存の中でも緊急性を伴う患者さんや、小児がん患者さんが主な対象となってくる卵巣凍結に関する論文が出てきました。

FertiProtektというドイツ・オーストリアを中心としたネットワーク組織からの報告です。


Human Reproduction, pp. 1–10, 2022.l.Lotz et al.

卵巣組織の凍結については、世界では数千件実施されており、すでに確立された技術、治療行為として認識されるに至っていますが、移植に関しては、未だチャレンジング(試験的)な状況という見解です。

これを言うと、「エビデンスのない医療=悪い医療」というような解釈をする方がいますが、それは少々偏ったものの見方だと思います。

まだ良いのか良くないのか、その判断がつかない医療ということです。

不妊治療でいうところの先進医療もこのようなポジションです。

摘出して凍結するパートは、がん罹患時にしますが、移植は寛解し、結婚し、挙児を希望したタイミングであったりしますから、タイムラグは当然のように出てきます。

中には、結婚し、子どもがほしいと思うかどうかもわからない点があるのが通常なので、ある意味ではこの成績に決着をつけるのは時間の問題という要素が少なからずあります。

このFertiProtektは、2010年頃から活動をしていますから、当然、時間の経過によって、移植を経験している方々が多くなってくるわけです。

単グループの報告としては、おそらく最多となるであろう196人244周期の卵巣組織移植に関する報告です。
移植された 196 人の女性全員の平均年齢は、組織の凍結保存時に 31.3 歳 、移植時に 35.9 歳 (SD 4.8; 範囲 23-47) でした。

移植までの期間としては、4.6年ということになります。

妊娠率は、最初の移植あたり30.6%で、2 回目以降の移植が11.8%と比較して、最初の移植後の方が高かった。
妊娠率・出生率、卵巣組織凍結時の年齢の増加とともに減少しました。

縦が出生率、横が凍結時年齢のグラフ

妊娠率や出生率は、凍結保存前に組織を搬送した女性とそうでない女性で差がありませんでした。

卵巣組織移植後の妊娠・出産に至る確率のアップダウンに関わっている要素として、凍結時の患者年齢および子宮付近への放射線治療の有無を提示しています。

また、着目すべき点として、卵巣移植の手技のレベル差についても言及しています。

横軸は手術件数、縦軸は出産率

要は移植手術は特殊性があるので、ある程度の件数を実施しているところで行わないと、それで妊娠・出産率に差が出てしまうという考えです。

一方で、摘出手術に関しては、そのような記載がありません。

つまり、

  1. 摘出手術は多くの施設で行う

  2. 凍結はセンターに集約する

  3. 搬送しても大丈夫

  4. 移植手術は、エキスパートの元で行う

というのがFertiprotekt流かなと思います。

データが一部見切れていない部分があるので、もっと深く読み込みたいと思いますが、速報でのお知らせでした。

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