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なぜ?相次ぐ“がん見落とし” “受け止めきれない”家族の思い

今年(2018年)、がんの見落としを公表した医療機関は、少なくとも8つ。その多くが、名だたる大病院でした。見落とされた患者は、あわせて31人に上っています。

X線やCT、MRI…体の中を見る医療技術の進歩はがんの早期発見を可能にした。しかしその陰で、「見落とし」が相次いでいる。専門医が画像を見ていなかったケースや、主治医が報告を読んでいなかったケースなど。死亡した患者もいることから、「重大な課題」とする医学会。再発防止を進める医療現場を取材すると、簡単に解決出来ない現実も見えてきた。私たち、検査を受ける側が出来ることを含め、助かる命を失わないための方策を考える。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「この問題に関しては、患者さん、ご家族、千葉大学病院に通院していただいている患者のみなさんに、大変ご心配をおかけしたことを、本当に申し訳なく思っています。」

この病院で亡くなった患者の1人、腎臓がんの60代の女性。当初は腸の病気で病院を受診し、CT検査を受けました。実はこの時、画像検査の専門医が腎臓にがんの疑いを見つけていました。ところが、その報告書が主治医に伝わらず、4年以上、治療が行われなかったのです。重大な情報伝達のミスでした。


「そういう問題意識が病院の中では共有されていなかった。私たちの体制が不備であったことのひと言に尽きると思います。」

取材を進めると、もう1つ別の原因があることも分かってきました。そもそも、専門の医師が患者の画像を見ていないケースもあったのです。
画像を見る専門医は、「放射線診断医」と呼ばれています。この病院には5人の診断医がいました。これに対し、年間に行われるCT検査は4万件以上。実は、その検査全体の3分の1しか見ることができていませんでした。

撮影した画像を全て見られないのはなぜか。別の病院で取材すると、背景に、急速な技術の進歩があることが見えてきました。患者の全身を写した大量の画像を調べるのが診断医です。

放射線診断医
「この方だと、1,663枚です。患者さんによっては少ないのもある。少なくても100枚か200枚あるので。」

「“活動性炎症や悪性腫瘍、認めず”。」

大量のデータを見なければならないため、この病院では、少しでも時間を節約しようと音声入力で報告書を作成していました。

「“S状結腸遠位側に進行がん”。」

40年前には、4~5分で2枚程度しか撮影できなかったCT画像。ところが今では、4~5秒で200枚の画像を撮影でき、画質も鮮明になりました。全身を簡単に撮影できるようになったことで、思わぬがんも見つけられるようになりました。

「この人は肝臓から撮影が始まったが、そのときに肺の一部も撮影されて、肺がんが偶然に見つかった。」

その反面、見落としを防ぐには、より丁寧なチェックが必要になっているのです。
がんの見落としが起きた千葉大学病院。画像のデータが膨大になる中、放射線診断医が不足し、十分にチェックできなかったとしています。

千葉大学医学部附属病院 山本修一院長
「CTの機械がすごく進歩してきて、技術革新に対して我々の診療体制がそれに追いついていない。そのギャップがこういう問題につながってきたんじゃないかと。」

本多記者:また、取材の中でもう1つ感じたのが、主治医が縦割りになっているのではないかという点です。主治医の多くは、消化器や呼吸器など専門が分かれています。取材した見落としたケースの中には、専門の臓器の検査結果だけに目を通して、他の臓器の結果を見落としてしまったというケースがありました。このように、専門外の臓器に目が向きにくいことも、見落としが起きる要因の1つではないかと感じました。

武田:こうした縦割りの弊害というのは、実際にお感じになりますか?

中山さん:やはり、自分の専門臓器以外のことについては興味・関心がないといいますか、書かれていてもあまり目が向かないというのが実情だと思います。

非常に専門性が高くなりすぎてしまったので、全部のことを1人のお医者さんに診てもらうというのは、かなり無理があります。病院の方としては専門家を複数養成して、主治医というのは、自分の専門以外のところはその専門の人にパスを出して、うまく対応してもらうということです。それが例えば呼吸器であったり、循環器であったり、あるいは放射線専門科医ということなので、その辺の専門性を生かしきれてるのかというところに問題があるかと思います。


相次ぐ“がん見落とし” 助かる命を失わないために

https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4219/index.html