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『チンボー 最初の戦場 第1回(第9稿)』

 2008年公開の『ランボー 最後の戦場』の9年前、1999年に俺は同映画の舞台となったミャンマーのカレン族に、ランボーより先に唾をつけておいた、先っちょだけ。

 ランボーの9年前だから、アイウエオ順で言うならば、ランボーの゛ラ”のかなり前、そうだな、22コ前の゛チ”くらいが一番都合がいい。

 じゃあ、さしずめ俺のは『チンボー 最初の戦場』だな。「どうせ俺のチンボーなんて、早すぎたチンボーですよ~だ」。

 うん、なんかもう今回は早々と満足したわ。この、言ったった感はパねえよ。ふぅ~、完全に一仕事終えた気分だ。出したらオチる、出オチ上等!

 よし、予告編として、この段階で一旦流そう。じゃあ、本編は明日以降に、またココで!

*本編にはめずらしく専門用語が出てくる予定です。一緒に勉強しとこ!

【本編前の課題】

●ユーチューブで『ランボー 最後の戦場』の予告編(日本語字幕つき)、本編(日本語字幕なし)を鑑賞。

●ウィキ先生で5単語、「カレン民族解放軍」、「カレン民族同盟」、「ミャンマー難民」、「カレン族」、「カレン州」を予習。

●オマケで、「ビルマとミャンマーの呼称問題について」の予習。

*とりま「ウィキ先生はだいたい合ってる、ってことでもういいよ!」の方向で適当に処理しといて。

*勉強嫌いは、適当なチンボーでも見て触れてナニを体験してみて欲しい。「ナニがいいモノを見たぞ」という驚きと納得を持って帰ってくれたまえ。


*追記。2014年6月14日(土)のサタデーナイト・M・フィーバー頃に再開予定です。


 やあ、また会えたね。2014年6月14日(土)21時のサタデーナイト・M・フィーバーだよ。再開&再会を祝して、つまんねーーー!『ランボー 最後の戦場』、超つまんねえよ。

 ふざけんな、誰だよ、こんなクソ課題出した、バカ野郎は! バカって言った人がバカだもん!

 そうさ、バカ面さげて、映画嫌いというか映画丸ごと1本を一気に見れない体質だから、10分刻みの休憩を挟み挟みの細切れ映画鑑賞とは言え、早送りはせず、ドMプレイさながら最後までちゃんと見切ったさ、そんな俺様が自信と責任を持って言おう。

 金返せ! ドンパチやってカッコつけてお家に帰ればいいと思ってけつかる! 時間返せ! 久しぶりにマジメに映画評でもするかって気まぐれオレンジロードはすぐさま消えたよ! 愛を返せ!

 別に映画のド素人が粋がって、知ったか番長してるわけじゃないぜ。ぶっちゃけ、俺ってば、7年間の育休前(2007年5月17日~2014年4月6日)は副業で映画ライターもやってたんだわ。

 だって、本業の戦場特派員稼業(正しくは、「生まれつきベトナム戦争の戦場特派員」稼業ね)が開業以来、一貫して開店休業状態で全然食えないから。

 ちなみに、7年間の育休中も本業の方は1日たりとも休みませんでした。開店休業状態の強みって奴です、ええ。

 もう一つちなみに、うちの創業はなんと前世記で、知る人ぞ知る老舗中の老舗です。まあ、1901年創業も1999年創業も同じ前世期創業になる、20世紀マジックさ。

 でまあ、映画ライターやってた頃は、う~ん、そうだなあ、半年間で映画を24本くらいは見たかな。ざっと週1本ペースね。どんなもんじゃい! うん、副業とはいえ、一応プロだったから、それくらい当たり前さ。

 誰だ、今、ショボってつぶやいたの! いいの、コレでも多いの! 生まれつき高所恐怖症の奴が半年間、週1本のバンジージャンプを毎週毎週飛び続けたようなもんだから。

 実は俺、ナチュラルボーン映画恐怖症なんだ。でも、昔から映画本は結構好きで、「もしかして仕事だったら、映画を見れるかも」なんて思ったのが甘かった、運の尽きさ。

 もうね、週1本の映画ペースでもいっぱいいっぱいだったから、たまに某編集部経由で試写会のハガキとか送られてきたけど、「とりま経験だから」と何でも1回は試してみる尻軽男の俺が、一度も試写会には行かなかったからね、「こ、怖い。堪忍や、堪忍やでえ~」って試写会ハガキは即ビリビリですよ。もう時効時効。

 だから、むかしむかし、資料として『ランボー 最後の戦場』のDVDを発売と同時にすぐ買ったけど、ず~っと放置してあったのはむべなるかなむべなるかな。

 もち『ランボー 最後の戦場』の小説版映画評などの活字映画は可能な限りチェケラして、「見る価値なし」って最終判断を下したわけですが、さすが過去の俺、ナイスジャッジ!

 今回も「本編前の課題」には出したけど、もちろん先生の俺はこんなもん見る気なんて更々ナッシング! でも、なんか変な流れでMの血が騒いじゃって、見るハメハメしかも時間ギリギリでになっちゃって、ご覧の通りのこんなざまですよ。

 ま、しょせんランボーにカレン族は荷が重すぎたのさ。このチンボーですら、今まで散々、カレン族には苦労させられてきたからね。

 さあ、ココからペースアップで、わき目もふらずにドンドン生き急ぐよ。あ、お利口さんの皆は、もちろん『ランボー 最後の戦場』鑑賞以外の「本編前の課題」もちゃんと勉強したよね。正直、チンボー弄っただけの奴は、ココで引き返した方が身のためだぜ。

 じゃあ、暖簾をくぐるなり、すぐさま本題の話を始めるおっさんのような不躾を今回ばかりはお許しください。

 その代わりと言ってはなんですが、華美なる表現は極力抑えて、淡々と事実のみをなるべく簡潔に列挙します。

 尚、当回の読者ターゲットは、チンボー好きでドMで電話好きな生き物にロックオン!


【2000年1月24日(月)】

 朝10時、起床。束の間の休日明け、すがすがしい月曜の朝だ。もう起き抜けから、ビックリしちゃうくらい勤労意欲が朝ションボリ、ちっちゃ~い。

 せっかくオープンにこぎつけた俺の古本屋さんも、開店3日目にして自主廃業したい気分だぜ。

 こんなダメダメな気分に引きずられて、ズルズルとこのままじゃいけないと思いつつも、とりあえずこのホテルに8連泊目(450B也)。もうコロコロとホテル替えする気力も体力も金もなし。

 11時、銀行強盗でもするかと気持ちを何とか奮い立たせて、ダラダラと最寄りの銀行へ。ついに虎の子のトラベラーズチェックに手を出し、100ドルを3654Bに両替。

 う~ん、軍資金の残りがかなり心許ない。タイに来て、今日でもう41日目。いまだにカレン民族解放軍の従軍取材はもちろんのこと、難民キャンプ取材すら始まっていない。チェンマイには行ったけどね。

 相変わらずカレン民族解放軍の日本人義勇兵ともうまく連絡は取れない。いつまで経ってもタイの内務省内をたらい回しされるだけで難民キャンプの取材パスすらゲットできない。メス野良犬には噛まれたけどね。

 もうコスパ最悪! 収支決算するのが怖い…。このままじゃ、赤字倒産なんて至極当たり前のハメに!

 あら、いやだ、私ったら、つい変なことを口走っちゃって。プロの古本屋のくせに、お金の愚痴なんてみっともない。これじゃあ、まるで万年ビンボーの自称プロ戦場特派員みたいで恥ずかしいわ。もう、いけずぅ~。

 11時30分、銀行帰りにスカイトレイン(25B)に乗って、例のライバル店の視察へ。当座の軍資金をゲットしたので、550B分の古本を買い込む。

 素人の古本屋さんから見たら、単にライバル店に塩を送る形にしか見えないだろう。でも、何事にも初期投資は必要だ。初期投資をケチっていては、未来の大金がふいになる。何事にもリスクはつきもの。リスクにビビってたら、何にもできやしないぜ。

 もちろん古本屋の経営者として、我が社の完璧な事業計画に、堅実な経営戦略にブレは一切なし。ゆくゆくはこのライバル店の古本を全部買い取って、うちの古本屋で買取り価格の2倍の値段で全部売り飛ばせば、一夜にして大金持ちだ。チョロイもんだぜ。

 ちなみに、当時のバンコクには日本書籍の新刊書店が何店かあった。伊勢丹の紀伊国屋、アマリン・プラザやエンポリアムにあるタイ東京堂、タニヤ・プラザなどにある泰文堂などである。

 日本よりかなり物価の安いタイなのに、日本書籍だけはどこも日本の値段の1・5~3倍増しのボッタクリ値付けだった。それでも経営が成り立つくらいバンコクには日本人がいた。俺もいた。そして、買ったった、ケチらずド~ンとボッタの新刊も。でも、タイで新刊の日本書籍を買うと太っ腹の金持ちと思われて逆ナンされるから、逆ナンツールと思えば安い買い物だ。

 尚、当時バンコクにあった有名どころの日本書籍の古本屋は2店くらい。そんな市場で新たな古本屋を開業したら、おっと後のビッグビジネス話は企業秘密だぜ。

 じゃあ、とりあえずさっき両替した3654Bくらい全部古本買いに突っ込めよという声が聞こえてきそうだが、読みたい本がほとんど残ってないの、こんなバンコクくんだりにある日本人専門の古本屋なんかには!

 ま、別に自分が読みたい本がなくても、商売なんだから売れ筋の商品を買い占めてもいいんだけど、帰りの電車賃と昼飯のマック代と夕飯の8番ラーメン代と夜食のセブンイレブン代くらいは残しておきたいじゃん、経営の神様的には。

 ゲットした新しい商売道具を抱えて、スカイトレイン(25B)にいそいそと乗りこみ、昼マック(100B)読書の旅へ。まさに一糸乱れぬ黄金の流れ。

 14時過ぎ、ホテル戻り。「銀行で両替」→「古本の仕入れ」→「昼マックでランチ&読書」というとっても大事な一連の仕事をすべて終えたので、ホッと昼寝。

 19時前後、長い昼寝から目覚めたばかりでクソ面倒臭いが「体が資本、コレも仕事の内」と言い聞かせて、ブラブラ歩いて、8番ラーメン(103B)へ夕飯を食べにいく。

 ズルズルと麺をすすりながら、「今月は1/10(まだ書いてない)、1/17(もう書いてある)と2週連続で月曜日に大事件があった。例の「二度あることは三度ある」理論で本日、1/24(月)にも何か大事件があるかなあと思っていたが、今のところ何も起こっていない」などと徒然に。

 ま、事件らしい事件と言えば、夜8番ラーメンが二夜連続で続いたくらい。本日の仕事スケジュールの残りは、ホテルに戻って、寝るだけ。もちろん寝る前に読書したり、洗濯したり、シャワーを浴びたりのルーティンワークはコツコツこなすぜ。オッと、大事なことを忘れていた、オナニー仕事を追加で!

 そうそう都合よくそんな大事件ばっか起きねえよなあ。よくて、ホテルに戻る途中にまたメス野良犬に噛まれるとか、あ、帰り道にレイプされちゃったらどうしよう。もしくは、なんだ無事にホテルまで戻れたじゃんと部屋のドアを開けたら、マイ古本屋の記念すべき一人目の泥棒客が思いっきり死んでたりしたらどうしよう。一番困るのは結局、何も起こらなかったらどうしよう。

 ま、でも、さすがに全然眠くないし、読書も飽きたから、このまま夜のバンコク散歩としけこむか。

 こういうとき、現在8連泊中の安ホテルのある国立競技場近くの安宿街はホント便利だ。タイのショッピングタウンの先駆け、サヤーム・スクエアも東急も目と鼻の先。しかも、スカイトレインの駅もすぐ近くにあるので交通の便もいい。

 気ままに食事したり、ブラブラとショッピングを楽しむプライベートな海外旅行の拠点として、ホント最高の場所だ(←この動画は赤の他人の撮影です。2010年モノなので、俺が行ったときの10年後。でも、2000年当時もだいたいこんな感じでした、肝心の安宿街は映ってませんが。ちなみに、勝手に無断アップしといてナンですが、撮影の方は素人さんみたいなのでちょっとアレです。俺が昔バイトしてたビデオ撮影会社のタザワさんが見たら、留守電に死ぬほどダメ出しが入りそうな感じ。まあ、約2ヶ月間の初海外取材中、1秒もビデオ撮影しなかった俺よりは、ちゃんと撮影して、しかもソレをアップして、王手だかチェックメイトだかをしているので全然マシです。…参りました)。

 ちなみに、この国立競技場あたりからちょっと足を延ばせば、これまたショッピングタウンと呼んで遜色のないビッグデパート、ワールド・トレード・センターに伊勢丹、そごうなどが所狭しと立ち並ぶ、日本で言えば銀座みたいなオシャレタウンもあるよ(←この動画も同じ赤の他人の2011年モノ撮影です。伊勢丹とそごうは映ってませんが、駅の向う側にあるはずです。2000年当時はまだココにはスカイトレインの駅ができていなかった気がします。まあ、こんな鉄話、本筋とは一切関係ないんですけどね。で、も、うちの本筋がアレですから…2000年の俺のバカ! 相変わらず2014年の俺もバカだから、この2本の動画を選んだ理由が両方とも「1999年」という単語が出てくるからのみなのはまあ、いいとして、こんな本筋と関係ない薬味動画をどんなけチェケラしてから決めてるんだって話で、基本的に俺は普通の人のつもりですが、こういうときはホント気が狂ってるんじゃないかと思うくらいバカだよね。もうどうしようもないけどさ)。

 そうそう、もう一つちなみに、ワールド・トレード・センター内にアイススケートリンクがあって、接待スケートをした戦場特派員がいるみたいだよ。

 あ、もう10分でテッペン越えそうじゃん。う~ん、コレはもしかして、「ドMプレイでギリッギリにランボー見たせい」かな。ビンゴ! 後は「今回、薬味突っ込み過ぎ! しかも、薬味の味見し過ぎ!」だから。またビンゴ! それから、「2000年の俺はやさぐれゴッコをしながらも、もちろんカレン民族解放軍の従軍取材もカレン族の難民キャンプの取材もそのうちできると根拠なく信じていて、そのときまでテープは全部大事に取っておかないといけないと思っていたんDA・YO・NE~ってフォローを入れようか入れまいか迷っていた」から、またまたビンゴ!

 見事ターキービンゴを達成しましたので、賞品は「一旦ココでアップップ」権です! じゃあ、遠慮なくアップップ~! …どうもすいません。でも、もちろんサタデーナイト・M・フィーバーは朝までオールで続くぜ!


 朝までオール、って…から4日後じゃなくて、7時間後! おはよごぜえますだ、2014年6月15日(日)7時のサタデーナイト・M・フィーバー、さっそくレッツラゴー!

 東急内に入っている、8番らーめんを食べるという夕飯ビジネスを終えて、外に出る。でっかい道路を挟んだ向う側にある、サーヤム・スクエアをブラブラ冷やかすことにする。

 バンコク名物のケバいオカマちゃんにニッコリと手を振られて、笑顔と日本語で「金ねえよ」と手をナイナイと振り返す。

 後はもうただただ時間をつぶすために、歩きに歩きからす。夜とは言え、ねっとりと蒸し暑く、汗ダラダラでそろそろホテルに戻ろうかと思ったとき、街角にある国際公衆電話がふと目についた。

 その刹那、閃いた! すぐさまコンビニを探し出し、インターナショナルテレホンカードを買う(300B)。

  いやね、ちょいと夜釣りでも楽しもうと思いましてね。これからエビで見事タイを釣るところをまざまざと見せつけてやるぜ。

 うん、日本のママにお電話するの。バカ、マザコンじゃあるまい、ホームシックなんかじゃねえよ。

 ほら、軍資金の大元が心許なくなってきたから、早めに資金調達の手筈を整えておくのも経営者の才覚のひとつさ。当座の運転資金の不足分くらいはママ銀行日本支店から緊急不正融資して貰えるはず。

 ま、300Bのエビちゃんがいくらのタイ焼きくんに化けるか、そこが敏腕社長の腕の見せ所だ。もちろん300Bのエビちゃんを一気に使う必要はない、小分けにして何度も使った方がお得だ。

  海を超えて日本のママに遠距離無心する国際派の自称プロ戦場特派員っぽく、「アローアロー、ディス・イズ・チンボー・スピーキング」なんて、出だしはいい具合よ。せっかく人がいい気分になって、もったいないから手短に済ませようとしているのに、「しんちゃん、今、ソコにおるの?」といきなりボケたことを抜かすわけよ、ママが。

「パードゥン? 後、しんちゃん、言うな!」

「だから、しんちゃんは今、ソコにおるの?」

「だから、しんちゃん、言うな! 俺の戦場ネームはチンボー、チンちゃんとお呼び! で、ソコってどこ?」

「そんなもん、ソコって言ったら、タイのラチャなんたらに決まっとるがね。あんな、おそがいもんを取材しとるんかね? もう日本に帰って来やあ」

「???」

 いやいや、ココだけの話、この世で何が一番怖いって、生まれつき自称プロ戦場特派員とか言い張るバカ息子を持つ、親バカが早々にボケるのがもうたまんなく恐ろしいね。せめて親バカくらいはいつまでもしっかりしてて貰わないと困るだろ、しんちゃんが。

 とっとと本題の「シキュウカネオクレ」だけ伝えて電話を叩き切りたかったが、スポンサーのご機嫌伺いも大事な仕事の内ゆえ、ママの意味の分からない世間話にもう少し付き合ってやるかと孝行息子ぶりを発揮することにする。

「いやいや、ちょっと落ち着こう。タイのラチャなんたらって何のこと?」

 海外電話取材の鉄則は分からないことがあれば、どんな小さいことでも恥ずかしがらずにすぐ聞くことである。ママの要領の得ない話に適当に相槌をうちながら、話を一応探る。

「へぇ~、タイはラチャなんたらにある病院を、カレン族のゲリラが人質を取って占拠しちゃんたんだ。そりゃあ、怖いねえ~。…ん? な、なんですと! い、今なんつった、ババア! もう一回言ってミソ!」

 更に、詳しい話を聞こうと矢継ぎ早に質問を繰り出す。「まずラチャなんたらは正確には何というんだ?」、「その事件はいつ起こったのか?」、「今も現在進行形なのか、それとも、もう終わったのか?」

  でも、このマル秘情報提供者がホント使えなくてさあ、もう素人丸出しのババアみたいでまったく要領を得ない。しかし、ココが踏ん張りどころ、更に追求する。

「少しは落ち着いて、5W1Hで話そ」、「少なくともテレビの受け売りくらいできるだろ。もし新聞にも載ってるなら、そのまま朗読して」、「このままじゃ海外電話取材の意味がない、電話代返せ!」と一気に畳みかける。

「ああ、もう、うるさいなあ! アンタの方が知っとるでしょ!」

 あろうことか、情報屋風情が逆切れです。てめえ、誰のおかげでオマンマ食えてるんだ! と思うもちょっと方向転換し、とりあえずの知ったか番長ショー。

「ああ、はいはい、その件でございますね。もちろん遠の昔に承っておりますよ、喜んで~。あ、まだ言ってませんでしたっけ? ああ、左様でございますか。実は今、そのラチャなんたらから電話を掛けてるんだよ、ガハハ。ちょっと日本に正しく情報が伝わっているか知りタイから、タイだけに、電話したわけよ。ほら、やっぱ、こういう大事件の渦中、ド真ん中にいると灯台下暗しで、全体像がちゃんと把握できないもんだから」

 もう必死の適当、知ったか番長ショーの甲斐もあって、ようやくこの大事件の全体像を薄ぼんやりとは掴めた上に、自然な流れで「ラチャなんたらの取材中で金が嵩んでしょうがない。出世払いでちゃんと返すから、ママ、お願い!」と遠距離無心というサイドビジネスにも大成功!

 めでたしめでたし、ガチャ! ふぅ~、電話を切ると自然と大きなため息が漏れた。辺りをキョロキョロと見渡す。大丈夫だ、誰にもこの特ダネは盗み聞きされていないようだ。とある情報筋によりますと、事件はまだ現在進行形で進んでいるみたいだから。

 煙草に火をつけて、とりあえずゆっくり歩き出す。さあ、どうする、急いで考えろ。いや、まずは混乱している頭と心の整理からしないといけない。どっちだよ! もう思うがまま、なるようになればいい。

 おいおい、エビでタイどころか、クジラが思いっきり釣れちゃったよ! とりあえずこの特ダネをママから聞いた瞬間の気持ちにふさわしい日本語を紹介しよう。

 あんぐり。

 ああ、クンニでお馴染みの、ってそれは、まんぐり返し! いや、ホント、あんぐりって口開けたまま、受話器片手にしばらく固まったもん。人間ってすごいね。

 いやいや、コレぞ、ザ・晴天の霹靂! まさか世界有数のドマイナーなカレン族がそんな大事件を起こすとは。しかも俺がカレン族の初海外取材に来ているこのタイミングで勃発するなんて。更にそれを日本のド田舎に住む、今までカレン族のカの字とも無縁だったママからその情報を仕入れるとは。

 こうなってくると、「なんでカレン族の取材のため、タイにいた戦場特派員が、そんな日本のおばさんでも知ってる大事件を知らなかったのか?」ってもっともな疑問も出てくるでしょう。ひっこめ、この野郎!

 だって、亭主のみんながみんな、押入れやベランダに慌てて隠れた奥さんの全裸間男に気づくわけじゃないだろ。世の中ってすべてそんなもんさ。

 だってさ、新聞の国際面を毎日毎日、隅から隅まで読んだって、ドマイナーなカレン族なんてベタ記事にすらほとんどならないんだから。

 タイくんだりまでやって来て、わざわざタイ語の新聞やテレビなんてチェケラしないよ。そもそも、基本テレビのない安ホテル暮らしで、新聞代がもったいないじゃん。古本買って読んで売るほうがよっぽど経済的だろ。

 忘れたのかい、俺の最近の情報源は『新宿鮫』とかだぜ。歌舞伎町のニュースにしか精通してねえ男さ。

  まあ、せっかくのめでてえ席じゃねえか、細かいこと言うなよ。こんな千年、いや、万年、いやいや、億年、もう一声! 兆年に一度あるかないかの大奇跡だろ、ありがたやありがた。

 これもすべてタイ滞在苦節41日、成果ゼロのままでもめげることなく、マジメに取材に打ち込んだ俺のおかげだ。

 だから、カレン族の取材のためにタイに来ている俺が完全に蚊帳の外だった件はもうこの際、積極的に忘れてこ! ドンマイ! 過去を振り返るな! 前だけ見ろ!

 さて、その隙に本題です。

 俺は確信した。天はナチュラルボーン戦場特派員の俺の味方だ。神は確かにいた、ナチュラルボーン戦場特派員の神が!

 ん、呼んだ? とにかく、ナチュラルボーン戦場特派員の神こと俺は、ナチュラルボーン戦場特派員の神のみに祝福されし、選ばれた幸運の男みたいだ。もう自分で自分が怖い。

 そして、偶然はすべて必然だったのだ。そう、今までのすべては、この大事件に遭遇するための布石に過ぎなかったのだ。

 訪泰早々、バンコク慣れに失敗し、静養先のチェンマイでウンコ漏らしたのも、元気になってバンコクにカムバックするも年末年始休みに邪魔されたのも、年明け早々から内務省で散々たらい回しをされた挙句の果てに「この日本人は一体何がしたいんだ」ってタイ語で書かれた紙切れ1枚をゲットしたのも、メス野良犬に噛まれたのも、巧妙な美人局にあったのも、不良の真似事をしてたのも、連続昼マックの世界記録を作ったのも、古本屋始めたのも、もう一切合財ひっくるめて、偶然なんかじゃなく、巧妙に仕組まれた必然の罠だったのだ。

 そして、まさに大事件が勃発したちょうどその日に、日頃はテレビはドラマ、新聞はテレビ欄と4コマしか見ない日本のママがカレン族の病院襲撃選挙のニュースをたまたま見た後、ちょうどそこにバカ息子が遠距離無心電話をかけるなんて、いくらなんでも出来すぎだ。

 月9のトレンディードラマだって、ココまでご都合主義丸出しの過剰なヤラセ演出しねえだろ。

 ぶっちゃけ、作ってる? 作ってない作ってない、作ってないですよ~、ええ。いや、ホントに1コも。うちは事実は小説よりも奇なりのノンフィクションが売りだもん。俺の退屈すぎる初海外取材の日々をちょっとでも味わいやがれと嫌がらせでおすそ分けするつもりで始めたんだぜ、こんなもん。

  そっか、道理で見えざる力に突き動かされている気がしてたんだ。たかがスカシっ屁1発でアナルが結構オープンするなんてどう考えてもおかしいもん。ナチュラルボーン戦場特派員の神様シェフの気まぐれアナルなイタズラをウンコ風ドレッシングで。

  あ、そうだ、お前ら、俺に謝る準備はいいかい? てめえらは今まで散々、俺が書いたことを真に受けて、俺のことを古本を買ったり読んだり売ったりする人だの、いい歳こいて不良の真似事してる人だの、意味もなくコロコロとホテルを替わるスパイごっこが趣味の人だの、言うに事欠いて、誰が24歳にもなってウンコ漏らしだ!

 でも、もう分かっただろ。それらはあくまで世を忍ぶ仮の姿に過ぎなかったのだ。あれほど俺はナチュラルボーン戦場特派員だって、口をすっぱくして言ってきただろ。

 俺は何をしているときだって、片時たりとも己の戦場特派員の職分を忘れたことはない。いや、忘れることなんて不可能なんだよ。もう365日24時間、常にブランブラン、目の上の金玉みたいな存在だから。もう忘れたくても忘れられない。

 ある意味、例え誰彼かまわず後ろ指をさされようとも、昼行灯として恥ずかしくない行動を繰り返しながら、こんな大事件が勃発するのをただただひたすら待ち望んでいたのだ。いや、無意識に大事件が起こるのを知っていたから、ひたすら待っていたのかもしれない。何とかならないかなあ、誰かなんとかしてくれないかなあっていう、題して棚ボタ大作戦!

 もちろんこんな大事件は予測だにできなかった。その兆候すら一切感じ取れない。だって俺はカレン族の専門家じゃねえし、逆にカレン族なんて完全に門外漢だし。シッ~!

 うるせえ、なんだ、カレン族って? ぶっちゃけ、興味すらねえよ。誰にでも簡単にヤラせる年増のアバズレ戦場って聞いてノコノコやってきただけだから。

 話すと長くなるけど、もう長いけど、俺はベトナム戦争のルポルタージュを読み漁って、中2の頃から戦場特派員になりたいって思ってたわけだけど、ふと10年後に気づいたら、行きたい戦場なんてどこにもなかったわけ。アチャ~。でもないか、プロ野球選手になりたかったけど、行きたい球団なんてない、みたいなよくありがちな話の仲間さ。

 当時出入りしていたフリージャーナリストの巣窟みたいなところで、とある先輩ジャーナリストに「どこの戦場に行きたいの?」と聞かれて、「いや~、逆にどこの戦場がおススメですか? 正直、とっとと戦場に行って戦場童貞捨てたいんですけど、行きたい戦場も好きな戦場もないんです」ってトチ狂った逆質問攻め。さすがに「中2のとき、自分がナチュラルボーン戦場特派員って気づいたんです」とは言えなかったけど。

 もうね、まるで風俗の無料紹介所のおっさんに「どのお店にします?」って聞かれて、「いや~、逆にどこのお店がおススメですか? 正直、とっととセックスして童貞捨てたいんですけど、セックスしたい相手も好きな相手もいないんです」って構図と寸分違わず一緒だからね。

 そしたら、その先輩ジャーナリストが「ソープへ行け!」って感じで、百戦錬磨の戦場カレン族を紹介してくれたわけ。

 当時で御年半世紀の酸いも甘いも噛み分けた大ベテラン戦場で、何人もの戦場特派員が戦場童貞を捧げてきた。

 50年以上もヤッている戦場だから、初心者にもやさしい。本一つとってもカレン族関係の本は何冊も出ていて調べやすいし、カレン民族解放軍の日本人義勇兵のコネも紹介して貰えるなどなど至れり尽くせり。

 でも知れば知るほど、すげえヤリマンのババア戦場じゃねえかと思ったけど、早く戦場童貞捨てたかったし、このときはまだ戦場童貞捨てる相手に特にこだわりは特になかった。

 しかし実際、俺の初めての戦場に会うため、タイくんだりまでノコノコやって来たのに、誰にでもヤラせるおさせのくせになぜか俺には今まで40日間ヤラせてくれなかったわけですよ。

 なぜならば、タイはラチャなんたらの病院を占拠するという特別な筆おろしプレイが用意されていたから。

 俺は確かに持ってるね。100年に1人の逸材たる4番バッターには自然と9回裏二死満塁のチャンスに出番が回ってくるもんだ。100年に1人の逸材たるエースピッチャーには自然と9回裏二死満塁のピンチに出番が回ってくるもんだ。

 才能や努力だけじゃどうにもならないものがある。人はそれをビギナーズラックと呼ぶ。

 ふと冷静になった。ビギナーズラックでも何でもいいけど、なんか面倒臭くない? そんな特別な筆おろしじゃなくてもいいよ。それ用の心の準備なんて全然できてないし、普通の筆おろしでも不安なくらいだ。

  そもそも、日本のSのおかげで、この事件の全容の細かいところは全然分からないし、どいつがいいもんで、どいつがワルもんかすらも分からない。う~ん、分からないことだらけ。

 目が回ってきた。サヤーム・スクエア内をグルグルと何周歩いただろう。もう汗も気にならない。

 そもそも俺はのんびりじっくりのドキュメンタリー派のナチュラルボーン戦場特派員派だから、ドタドタバタバタと特ダネを追って世界中を駆け巡るニュース派みたいな尻軽な真似はしたくない。

 でも、ドキュメンタリーのネタのカレン族が、ちょうどその取材にきているときにナニかニュース的なことを起こしたのなら、さすがに行かざるを得ないよな、例え、ニュース派じゃなくても。

 ああ、もうホント何なんだよ。言い訳するわけじゃないけど、別にそういう兆候があるからって、来てたわけじゃないですから。そんな兆候つかめる知識も経験もノウハウも人脈もナッシング! てか、こんな危ない兆候があったら、そもそも来てねえか、せめて時期をズラしてるし。

 後ね、正直、こんな大チャンスは、ちょっとありがた大迷惑。ぶっちゃけ、もてあましもいいところだ。何も一生に一度あるかないかの、宝くじにあたるようなレベルの大チャンスがいきなり来なくてもいいじゃん。まだまだ駆け出しで、しかも走る前に思いっきり転んでる状態なのに。

 ビギナーズラックさんよう、せめてナチュラルボーン戦場特派員を開業して3年くらい経った頃に、「あの~、そろそろ、いいっすか?」って感じで事前に電話の一本も入れてくれて、打ち合せしてからから、おっとり刀で来てくんないと。

 ま、そういうことになったからさ、やっぱ出直しておいでよ、ビギナーズラックさん! また3年後に病院襲撃すればいいじゃんか。

 ま、さすがにナチュラルボーン戦場特派員の神でも、そりゃ無理って話か。

 まあ、文句言ってても仕方ねえ。この運の良さだか間の悪さだかも、まさに俺がナチュラルボーン戦場特派員に選ばれし証左だ。こうなったら、もうやるしかねえよな。

 さあ、いよいよ、本番が始まりましたよ。今までのは全部練習みたいなもん。俺は練習は手抜くけど、本番には強いタイプだから。うわっ、すげえ童貞発言。

 とりあえず、まずどうしたらいいのかしらん。このままサヤーム・スクエア内をグルグルと歩いていても仕方ない。

 どうすべきか。それは俺が一番よく知っているはずだ。自分の思うがままにすればいい、それがきっと正解だ。

 この日に備えて、俺は今まで24年間生きてきた。ナチュラルボーン戦場特派員という立場に奢れることなく、血反吐を吐くような血の滲むような鍛錬を日々積み重ねてきた、人知れず黙々と戦場特派員カスタムを繰り返しながら。

 恐れる必要も迷う必要もない。答えは誰よりも俺自身が知っている。誰にもできない、俺にしかできない、俺がやるしかない、俺に任せろ。

 ああ、完全なる自分任せ。他人任せが羨ましい。でも、大丈夫、きっと戦場特派員用に鍛え上げられた体が正しい道に導いてくれるだろう。ナチュラルボーン戦場特派員の絶対王者の戦いぶりを見せてやる。

 ハイ、こんなんでました。

「とりあえず今日はもう遅いし、暗いから一旦ホテルに引き上げよう」。

 ダメだ、こりゃ!

 20時、セブンイレブン(45B)で火照った頭と体をクールダウンさせて、ホテル戻り。

 さすが自称プロとは言え、俺だって一端の戦場特派員だぜ。ラチャなんたらが、正式にはラチャブリというバンコクの南西、電車で3時間弱のところにある街だと突き止める芸当をまざまざと見せつける。

 ヤッター、ママに勝った瞬間だ。サンキュー、地球の歩き方(やすらかなる国 タイ 1999~2000年版)! もうね、プロの目を皿のようにして、隅から隅まで舐めた甲斐があろうもんよ。仕事が早くて正確でもうサイコー!

 ま、落ち着こう。久しぶりに仕事の成果があがって、ついつい興奮しちゃった。冷静にコンピューターをはじく。バンコクにいる俺は、世界中に散らばる戦場特派員と比べて、地の利がアリアリだ。

  ナチュラルボーン戦場特派員の虎の巻によると、ラチャブリはバンコクから電車で3時間弱くらいだったが、もうこの時間だと電車はない。

 車をチャーターする金はない。タクシーも高いし、レンタカーは車の免許がない。夜のヒッチハイクは危ないし、恥ずかしい。ああ、まさに八方塞がりだ。

 あ、始発電車! 光明が差した、長い夜の夜明け。まだ夜の9時だけど。

 でもさあ、ホントにラチャブリに行かなきゃダメなのかなあ。取材の本筋とは違うから、あんま気乗りしないなあ。あくまでカレン民族解放軍の従軍取材がメインで、難民キャンプ取材はオマケなんだから、病院占拠取材なんてオマケのオマケみたいなもんじゃね。

  うるさい、黙れ、この戦場童貞の成れの果てめ! もう無理矢理、自分で自分を栄転という形で、ラチャブリに地方転勤させるwithパツキン女秘書。社長命令は絶対服従、ワンマン社長の下での宮勤めはホントつらいもんだぜ。

 なんか急にいろいろ考えたら眠くなっちゃったし、早寝早起き三文の徳、規則正しい生活を心掛けましょう。今日は早く寝て、明日の朝早くに現場に急行することにしよう。

 早々に床につき、明日に備えて目をつぶる。…寝れん。予習復習でもするか。

 俺にはバンコクという地理的アドバンテージがある。翌朝おっとり刀で駆けつけても、日本から駆け込むよりは早い。こんな夜中に慌てる必要はない。翌朝になってもまだまだ焦るのには早いくらいだ。

 俺はタイを、バンコクを、タイ人を知っている。伊達に無駄にタイに41日間もいるわけじゃないぜ。あいつらはそんなすぐどうこうする連中じゃない。

 たぶん事件が解決するのはどんなに早くても1週間後だろう。あいつら、それまでずっとダラダラしてんだぜ、きっと。その証拠にテロリストも土日は避けて、月曜にお仕事したじゃないか。

 それにしてもホントよかった、郷に入れば郷に従えで、タイ人みたいにバンコクでゴロゴロうだうだしてて。

 もし先走って、カレン族の難民キャンプが周りに点在するメソトとかに行っていたら、もしくは諦めて日本に帰国していたら、すぐにラチャブリに駆けつけられなかった。今、メソトだ日本だにいる戦場特派員をバカでノロマなカメだとすると俺は昼寝明けの元気いっぱいのウサギちゃんだ、果報は寝て待て。

  今までの俺は傍目にはヤル気がないというか、ヤラないヤル気があるみたいに見えていたかもしれない。まあ、贔屓目に見ても、今だってこの期に及んでとても取材する気には見えないし、逆にチェッ、余計なこと起しやがってという態度が見え隠れ。

 ちょっと、なによ、その態度! ま、でも小学生の男子が好きな女子にわざといじわるしたりからかったりするじゃない、アレみたいなもん(24歳談)。フッ、敵を騙すにはまず唯一の味方の自分からさ。 

 2時過ぎ、まだまだ寝るのがもったいない。すぐに気持ちが高ぶって、思わず興奮しちゃう。今夜は寝かさないぜという声に耳をつぶり、目を閉じる床上手な私め。

○本日の出費、「計算するのが面倒臭いから、各々で適当にしといてよ」B。ついでに一日の流れも「いちいちうっとうしいから誰か簡単にまとめといて」ジャ~。


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